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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第一章 雲散霧消
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第十八話 適性検査

キング・ライダー戦がこういう形で効いてくる。(-_-メ)

 スタンピードの脅威から一月後。

 カリムは馬車で居心地の悪い時間を過ごしていた。

 車内には実父であり、王族のコウハク・ツチツカミ。その隣には弟であるサワリム。

 そして、向かい側にはカリムとサワリムの家庭教師であるバイロンが座っている。

 ほとんど家族で構成されているのだが、カリムにとってはむしろ血の繋がったコウハクとサワリムの方が問題だった。

 

「カリム、忠告しておくぞ。死にたくなければ人前では私の態度に合わせておけよ。もし口を滑らせれば殺す」

「……わかっています」


 誰も見ていない壁を睨みつけながら、カリムは返事をする。本当は舌打ちをしたかったが、今回の外出はカリムのためであったから、流石に憚られた。

 馬車は王都へと向かっていた。

 魔力を用いて、名のある山賊であるキング・ライダーを倒したということもあり、カリムはコウハクに命令されるがまま馬車に乗せられ、王都にある最高学府、王立術理院へと、とある検査を受けに行くことになった。

 検査するのは刻印術式への適性。

 王立術理院に入学するには学力も必要だ。しかし、それ以前に刻印術式への適性が求められる。まあ、これはあくまで平民が入学するための条件であり、王侯貴族の子女は形だけの試験を受ければ入学できるのだが……。

 つまり、カリムは王族とはいえ庶子なので身分は平民扱いなので、王立術理院に入学するためにはこの検査を受けることは必須条件なのである。

 どうしてカリムがこの検査を受けることができるようになったのか?

 それは以外にも、カリムのことを露骨に嫌っているコウハクのおかげであった。

 

 ――お前にいつまでも取り繕っても仕方ない。正直に言おう。

 ――私はお前のように危機感の足りない、加えて可愛げもないガキが嫌いだ。お前が死んでも何とも思わないし、何なら私に迷惑をかけない形でなら、すぐにでも消えて欲しいとさえ思っている。

 ――しかし、だ。今回お前はキング・ライダーという賊を討ち、強引に引き出されたとはいえ、魔力の放出という難度の高いことをしてのけた。つまり、才能の片鱗を見せた。

 ――ならば、それを伸ばす機会は得るべきだ。たとえ私がお前のことを殺してやりたいほど忌まわしく思っていようと、己の未来を切り開く機会すら奪われていい道理はない。

 ――お前への嫌悪以上に、私はそれが許せない。

 ――ゆえに、機会は与えてやろう。おそらく、これがお前に与える一生分の施しだ。精々噛みしめて、後悔のないよう己が糧にするのだな。


 ニイサがノルトリムと遊ぶ中、カリムとコウハクの二人きりで言われた言葉だった。カリムはどうしていいのかわからず、ひたすらにコウハクを睨み続けることしかできなかったが、コウハクは言うべきことを言うと、踵を返してニイサとの時間を過ごしていた。


 そんなこともあり、カリムにとっては複雑な気分での道中である。

 嫌いな家族と他人しか車内に、心の安息はなかった。そして、止めに馬車が蒸し暑かった。

 ソーカルド領はなんだかんだ言って、年中霧狸の霧によって涼しい。もし他の領地の者が来たら、寒いとすら思う環境で生きてきたのだ。カリムにとって、晴れの日の日光が意外な強敵となっていた。

 

「カリム、どうだ? ソーカルド領の外は暑いだろう? 私も過去には驚いたものだ。故郷の外には未知が広がっているということは確かに想像していたが、まさかこんな身近なところにも意外な発見があるものなのだと、フィールドワークの必要性を痛感した」

「別に……気づいてたよ。そんなこと」


 言いながら、カリムは着込み過ぎていた上着を脱ぎ、膝の上に置く。


「学士サワリム。兄弟仲は勉強のようには順調ではなさそうですね」

「そんなことを言われないでくれ。学士バイロン。……私達には吞気に仲を深めている時間はないのだから」

「サワリム……口が過ぎるぞ」


 コウハクに注意され、サワリムは素直に謝る。

 

 ――――そして。

 王都へと辿り着く。朝一番に別荘地を発ち、昼頃には到着していた。王都とソーカルド領は隣り合っており、加えて道中が平地であったこともあり、あまり時間はかからなかった。

 王都は長方形の高い外壁に囲まれ、中は碁盤のように区画整理がなされている。入口の天地門を抜けると大通りで神王通りがあり、その最奥には王の御所である天地宮が位置する。

 王立術理院は王都の右側に位置している。

 入口前で門番に誰何されるも、コウハクの護衛が一言、


「この馬車はコウハク・ツチツカミ様の馬車である!」


 というと門番が背筋を正す。

 そのタイミングが車内を酒の匂いが充満し、カリムは鼻を摘まむ。

 何事かと思えば、先ほどまで嫌味ったらしい態度だったコウハクが酒を片手に持ってグビグビ飲んでいた。

 いきなりの事態に啞然とするカリムに、サワリムが小声で呟く。


「よく覚えておけ、カリム。父上は対外的には飲んだくれの無能な王族ということになっている。しっかり覚えておけよ、飲んだくれで無能な王族だ。否定しようものなら、さきほどの父上の言葉通り、殺されてしまうからな」

「あ……ああ」


 流石に理解が追いつかないカリムだったが、なんとか返事を絞り出した。

 門番が車内に本人確認に来ると、


「門番風情が何用だぁ?」


 と、酒臭い息を吐きながら不機嫌そうにして、王族の威厳をこれでもかとばかりに用いて門番を黙らせ、通行許可を引き出した。

 そして、王立術理院に入る。

 なんでもサワリムとバイロンは王立術理院の見学目的で来たらしく、これといった用事はないので付き添うらしい。カリムにとってはいい迷惑である。

 大きな庭を通り抜け、本校舎と思われる校舎の前で馬車を下り、腰を低くした学長が出迎えてくれる。

 学長は低身長で恰幅が良く、ちょび髭の生えた、どこか憎めない印象の男性だった。

 最高学府の学長にわりに小物そうだと失礼なことをカリムは思っていたが、相手が王族なら誰でもこのような対応になるだろう。

 

 案内されたのは床に円形の術式が描かれた部屋に通される。

 中央には大人が両手でギリギリ抱えられるくらいの大きな水晶が置かれている。


「コウハク様。適性検査を受ける者にこの水晶に触れさせてください」


 コウハクはヘラヘラした表情で、しかし目の奥では殺気を込めて、早く行けと促してくる。

 渋る理由もないので、躊躇いもなく水晶に触れる。

 すると、水晶に幾何学模様が浮かび上がり、消え、また浮かび上がりでは消えを何度か繰り返し、今度は文字が浮かび上がってくる。


「うん? ……えっと『身体強化:黒珠』、『濃霧:黒珠』、『見通す目:黒珠』……」

「なっ……適性三つ持ち! 全て最下級の黒珠とはいえ、これはすごいことですよ、コウハク様!」


 さっきまでの腰の低さはどこへ行ったのか、子どもように興奮している学長だが、コウハクはヘラヘラするばかり。


「それは……金になるのか?」

「い、いえ……直接金銭に繋がるようなことではありませんが……すごく稀有な才能でして……是非とも当院への入学をと……」


 あまりに欲を前面に出してくるコウハクに、学長の興奮状態も冷めてしまう。


「あっそう。好きにするがよい。酒にならんならどうでもよい」

「ははっ!」


 一応、コウハクの許可を得た学長はカリムの元へと歩み寄り、手を差し出す。


「おめでとう、カリム君。君は適性検査の合格基準に達している。これで筆記試験を合格すれば王立術理院に入学できるよ」

「あ、ありがとう……ございます?」


 よくわからないままに、カリムは適性検査に合格することになった。

 補足すると、ほとんどの人間の刻印術式への適性は、一人一つである。数年に一人、適性二個持ちが現れたときですら珍しがられるのだ。三個持ちなどそもそも前例がいないので、学長の驚きようは当然と言えた。

 そもそも水晶に表示された刻印術式は全て安全に、習得・使用できる。

 仮に適性外の刻印術式を覚えようとしても、習得自体はできるが体内魔力が乱れ、術式を発動するための回路もズタズタになり、廃人と化してしまう。

そんな中で、複数の適性を持つということは、刻印術式が肉体をその術式に特化させているにもかかわらず、その上でまだ肉体に刻印術式を刻む容量があるということの証明となり、その存在自体がアマガハラ王国にとって垂涎ものなのであった。

 この事実をカリムはまだ知らない。

 自分には理術の才能がないからと、アマガハラ王国の刻印術式への理解も後回しにしていた弊害が出ていた。

気づいたところで、カリムには王立術理院に入学を断るという選択肢はなかっただろうが……。


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