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大王は神にしませば  作者: 赤の虜
第一章 雲散霧消
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第十七話 スタンピード③

 VS炎鬼王はこの話で終わります。

 


 魔物には強靭な肉体を持つことが多い。

 一般的に下級とされているゴブリンですら、一般的な成人男性を殺害するくらいの凶暴性を持っている。

 しかし、そんな魔物達の中でも数段危険度が高いとされる魔物達がいる。

 その魔物達は一様に属性を操り、それを手足のように使いこなして魔物や人を襲う。

 一体いるだけでも、十分な脅威であるこの属性持ち。

 では、スタンピードに遅れてやってきた炎鬼王がこの属性持ちなのかと聞かれれば、それは正しくもあり、間違いないでもあった。

 炎鬼王は要するに、鬼の最上位種であり、飛び抜けた膂力を持つ鬼王、そんなフィジカルモンスターに追加で属性がついた厄介な魔物なのである。

 

 魔物にはその脅威度によってアマガハラ王国では強さの尺度が決められている。

 十等級を最弱として、最上位を一等級とするものだが炎鬼王はこの中の三等級に相当する化物であった。

 等級の例を挙げるとすれば、ゴブリンは十等級、コボルドやフォレストウルフは九等級であり、通常の鬼が六等級、鬼王で四等級である。

 つまり、王種であり、属性持ちであることで三等級分のパワーアップしてしまっているということであり、ガルムが辟易とする理由だった。

 ちなみに、ガルムはこれまで戦ったことがあるのは五等級までの魔物である。『身体強化:黄珠』という恵まれた刻印術式により、苦戦したことはない。

 しかし、流石のガルムも自身のこれまで経験してきた魔物より、二つも等級が上の魔物と相対して、不安にはなっていた。


「ガルムさん、私のウイングラビットが遊撃をするので、バイロンと共に炎鬼王の相手をお願いできますか?」

「ちっ、わかったよ」


 何でもない頼み事をするように、平然と前衛を押しつけてきたサワリムに、ガルムは思った。

 こんな無茶な頼み事をしてくるあたり、以外にカリムと似てるんじゃないか、こいつ。

 そんなことを思われているとは露知らず、サワリムは冷静に炎鬼王を分析していた。


「膂力は鬼王以上だと想定しておく。そして、厄介そうなのはやはりあの五つの火球だな。あれで弾幕が張れるのかどうかで立ち回りも変わるだろう。ウイングラビット。命令だ。炎鬼王に向かって威力は中で、旋風脚を放て」


 サワリムの命令を受けて、二本足で立つ兎が片手を挙げて了承を示す。ホーンラビットと変わりない小さな体躯が軽いジャンプで空中に留まる。

 そして、素早く一閃された脚部から、風の刃が炎鬼王の首めがけて突き進む。

 だが、風の刃が届く前に、炎鬼王の背後で浮遊する火球の一つが飛び出して、相殺。

 間もなく使用された火球が、唐突に復活する。


「残念。二人とも注意を。あの火球は弾幕にできる飛び道具みたいです」

「嫌な情報をありがとう」

「ふむ、ではガルムさんは私の後に斬りかかってもらいたい。私ならあの火球をいくつか相殺できますので」

「はいはい。好きにしろ。どうせ俺一人だと勝てるかもわからねえんだ。言われた通りに動いてやるよ」


 投げやりに返事をするガルムに、バイロンは気にせず炎鬼王へと斬りかかる。

 彼の細剣は魔剣である。

 アマガハラ王国の刻印術式のように必要な術式をあらかじめ剣に刻み込んでいき、あとは魔力を使用することで理術を発動できるという優れモノなのだ。

 術式は『突風』。単に強い風を発生させる程度だが、その有効性はスタンピードで使われていた通りだ。

 ただし、魔剣は刻印術式には劣るものだとバイロンは知っている。刻印術式はその術式に使用者を特化させる特化術式であり、特化させるがゆえに必要魔力量が大きく軽減され、その術式を発動するために必要な魔力制御能力もあまり必要としない、正に特化術式なのだ。

 対して、魔剣には必要魔力量を軽減する効果はないし、制御能力を補助する機能もない。必要魔力量を減らしたいのなら、己の技術の向上によって魔素への影響力を強めるしかないのだ。

 ゆえに、刻印術式に比べれば、はるかに魔力を消耗してしまう。現にバイロンも先のスタンピードによって、残りの魔力は二割を切っており、見た目ほど余裕はなかった。

 しかし、理術学派の教えとして、二人は余裕を崩さない。たとえ相手が魔物であったとしても、余裕のない動きは相手に自分の弱点を露見させるだけで意味がない。

 

 バイロンは何でもないように魔剣を振るい、強烈な風圧によって炎鬼王の火球を打ち消した。

 剣による攻撃を腕で防御しようとしていた炎鬼王は驚き、刹那の間、身体を硬直させる。

 

「最初はその腕で良いのか?」


 そして、側面からガルムが炎鬼王の掲げた片腕を切り落とす。

 これがバイロンやサワリムの理術での身体強化では切り落とすことができなかったであろう。稀有な刻印術式を持つガルムだからこそ、有効だった。

 そのことは、全力で斬りかかった本人が一番理解していた。


「硬すぎるだろう、あいつ。本気で切ったのに腕が若干痺れてやがる」


 炎鬼王の背後の火球が回復し、加えて、腕を切られたことで怒りの咆哮を上げ出したので、ガルムとバイロンは慌てて距離をとる。

 咆哮後、炎鬼王の怒りを表すように火炎の弾幕が三人を襲う。


「ウイングラビット。正面から飛んでくる火球だけを旋風脚で相殺しろ! 当たらないものまで対処はしなくていい」


 炎鬼王が次々と打ち出す弾幕をウイングラビットが相殺していく。

 一向に進展しない戦局に、炎鬼王は苛立ち、サワリムへと突進してくる。

 だが、その攻撃はガルムが受け止め、背後に回ったバイロンが魔剣で火球を打ち消す。

 サワリムは瞬時に判断する。ガルムが盾となり、バイロンが火球を封じた。

 ならば、今度はサワリムが攻撃役に回るべきだと。


「ウイングラビット! 近距離で炎鬼王の首に旋風脚を叩き込め!」


 風を纏った兎が脚を一閃し、炎鬼王の頭部が宙を舞う。

 その一瞬にすかさず、サワリムは炎鬼王の頭部に式魔封術に用いる紙を投げつける。


「封術起動」


 炎鬼王の頭部は見る見るうちに青白い粒子と化し、紙の中に吸い込まれていく。

 ついで、切断されたはずの肉体も、共に紙の中へと吸い込まれてしまう。


「……ちゃっかりしてんなあ」


あまりにも鮮やかな手際に、ガルムはそう言うしかなかった。

 

 こうして。

 ソーカルド領を襲ったスタンピードは終結した。

 雪崩のように押し寄せた魔物達は一部倒された個体を除き、南方のカイルガ領、西方のミノウミ領へと突き進んでいく。


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