第2章‐5 吐き出した胸中
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
リタの手を引き、イングは林の中をとにかく走る。
どこまで逃げればいいか、よく分からない。魔法使いの基本のひとつ、足に魔力を注いでの走力支援も、二人連れでは使えないし、そもそも魔力がない。
そう、二人連れだ。イングは今、リタを連れて逃げている。それがいまいち納得いかない。自分は確か、村の人たちの仇を取るためにここにいるのではなかっただろうか? なんで今、その仇の手を引いて、必死に逃げているのだろうか?
そんな疑問を持ちつつ走り続けると、やがて林を抜け、広い平地に出た。走るのをやめて遠くを見渡せば、何となくどこにいるのか分かってきた。ここは町から割と近い。このまま帰ることは出来そうだった。
「はぁっ……はぁっ……ここ、どこ?」
リタの声を聞いて、イングはハッと我に返る。ふと見ると、リタと手をつないでいるのに気付いた。思わずその手を、パッと振り払う。
「えっ……あっ……あの……」
リタはおろおろとして、言葉を探す。相手をする気がないので無視していたら、リタはこう言ってきた。
「あの……助けてくれたん、だよね? あり、がとう……」
この言葉で、イングの頭は瞬間的に沸騰した。
「なんで、俺が! お前なんかを助けなきゃいけないんだ! 俺は、お前を殺しに来たんだぞ!」
「えっ……?」
「お前は町の人たちを殺した! 全員! お前は町のみんなの仇だ! だから命に代えても殺す! そう思ってここに来た! それで何で、お前を助けることになってる!? おかしいだろう!」
「……!?」
「みんなまだ生きたかったはずだった! そうだろう? それをお前は、笑いながら殺していったんだ! 師匠の頼みじゃなかったら、お前なんか助けるものか! 何ならこの場で絞め殺してやりたいくらいだ!」
「あ……ぁ……」
「嫌なら俺を殺せよ! 昨日みたいに笑って! あの魔法みたいな力で吹き飛ばすなり、なんなりして! さぁ、やってみろよ!」
「嫌ぁぁぁぁっ!!!」
リタは手を前に突き出し、悲鳴を上げる。イングは瞬間、死を覚悟したが、爆発どころか、何が起きる気配も無かった。
「そこまでです」
そこで、その場に現れたジンが、二人の肩にポンと手を置き、言った。
「師匠……」
「イング、あなたの思いは分かりました。ですが彼女の命は、ひとまず私に預けてください」
「……ちゃんと説明は、してくれるんでしょうね?」
「もちろん。そして、リタ」
「ひっ……!」
名前を呼ばれて、体をびくっと震わせるリタ。相当に怯えているようだ。
「あなたをお師匠様……ダグラスさんの所に返すわけにはいきません。行けば殺されますよ。ひとまず、私の家に来てください」
「嫌……! いやぁぁぁっ……!!」
「大丈夫。私はあなたに害を加えるつもりはありません。このイングにも、それを守らせると約束しましょう。それならどうです?」
「……ホント?」
「本当です」
リタは落ち着き、少し考えると、ジンの服の裾をきゅっと握りしめた。
「……本当に、よく似てる」
「え?」
「いや、何でもありません。話は纏まりましたね。では、帰りましょうか」