第2章‐2 ジンの罪と罰
「あ、来た来た! お兄ちゃんだ!」
ジンが目的地のアトリエにたどり着くと、庭先で待っていたらしい少女……リタが真っ先に彼に気付いた。
林の中の、開けた場所に立つ建物。そこがリタの言う、『お父さん』のアトリエのひとつだった。
「お父さーん! お兄ちゃん、来たよー!」
リタはそう言って、アトリエの中に入っていく。少ししてリタは、老年に差し掛かった頃の男性と一緒に出てきた。
「お師匠様……お久しぶりです」
「貴様に師匠となど呼ばれたくはないがな」
「……すみません」
ジンは申し訳なさそうに言って、その男……ダグラスに頭を下げる。
「用件は分かっているのか?」
「私を殺したい……私に復讐したいのでしょう?」
「理解しているならいい。付け加えると、お前だけは『できるだけ苦しませて』だ」
ダグラスは、わなわなと手を震わせながら、ジンに言葉を叩きつける。
「お前のことを信頼していた。お前に全てを……私の全てであるあの子を委ねようとしていた。だが結果はどうだ! お前はあの子を、リタを裏切り、あの子は死んだ!」
「……」
「これはどういうことだ? こんなことがあっていいと思うか!? 今でも信じられん……だが事実なんだ! 冷たくなったあの子の体が、これ以上なく私に現実を突き付けていた! お前たちが、私の全てを奪ったと!」
ジンは何も言わず、ただ言われるがままにしている。反論も、言い訳も無いというように。
「あの石を手に入れた時、思ったんだ。あぁ、復讐ができると」
「『賢者の石』ですか」
「その通り。しかも極上の一品だった。そして私は、同時に人造人間の研究資料も手に入れたのだ。あの子の姿をした人造人間で、お前を殺す。おあつらえ向きの復讐だと思ったよ」
どこか狂気をにじませながら、ダグラスは話を続ける。
「本当は、もう少し苦しませてから殺したかったんだがなぁ……でももう無理だ。お前が目の前にいる。殺したくて仕方がない。だから……あとは任せるぞ」
「え、もうやっていいの?」
ダグラスの話を、興味なさそうに聞いていたリタが、話を振られて嬉しそうにそう言う。
「あぁ、いいぞ。私も我慢できないから、一撃で仕留めなさい」
「はーい! じゃあお兄ちゃん、いっくよー?」
リタが右手に、光球を形作る。それを確認して、ジンは目を瞑った。
(これが私への罰、ですか……ならば、甘んじて受け入れましょう)
ジンの脳裏に、今まで会った人の顔が次々と浮かんでくる。イングや町の人々、若い頃のダグラス、それに……。
(リタ……)
「てやっ!」
今のリタの声が聞こえてくる、と思った次の瞬間、ジンの体は爆発の衝撃で吹っ飛ばされていた。