三題噺第32弾「未来」「蜘蛛」「ねじれた時の流れ」
ボクとあの子が最後に交わした言葉はなんだったか忘れてしまった。
“蜘蛛”の糸のように細く、ネバネバした感覚。
そんな感覚に陥って、最後を迎えた気がするんだ。
そして、現在から、
“ねじれた時の流れ”は過去へと遡っていく。
「こんにちは、早坂さん」
「こんにちは、高木くん」
早坂朔さんは眉目秀麗で成績優秀の優等生。おまけに性格もいいと評判の完璧人間だ。
一方でボクの方はというと、イケメンというわけではなく、どちらかというと地味で、成績は並み、性格もいい? かどうかはわからない。自分のことをそうやすやすとわかる人はそうはいないだろう。
「待った?」
「ううん、今来たとこ」
今日は図書館で一緒に勉強をやる約束をしている。いわゆるデートなのだろうか。もし、デートならこれは付き合っているってことでいいんだよね(よくないか)。
「じゃあ、いこっか」
「うん」
図書館までの道は駅から徒歩十分だ。
夏の日差しがきびしい。
図書館がかなり涼しく思えた。
黙々と夏休みの勉強をやる。
途中、どうしてあんな美人と一緒にいる男は誰なんだ的な目線がくる。
「よぉ、こーたじゃん。早坂と勉強か?」
「夏樹、ここ図書館だよ。静かにしないとダメじゃないか」
クラスメイトの平井夏樹が声をかけてくる。普段は図書館にいないタイプの性格だ。
「おっと、そうだな。俺も一緒にしていいか? いいよな」
「う、うん。いいけど」
せっかくの早坂さんとのデートが邪魔されてしまった。
「やりぃ、全部教えてもらおう、早坂に」
「心の声が漏れてるよ」
「早坂、ここ教えてくれ」
「平井くん、ここはこうするのよ」
「さっすが早坂」
はぁ。しょうがないなぁ。
と、突然後ろから何かに殴られることが起きる。
意識が昏倒した。
ねじれた時の流れは“未来”へと導かれていった。
「いったいなにが……。ここは……どこだ?」
周りを見渡すと、そこは近未来の映画の中のような景色をしていた。
空飛ぶ車があって、高層ビルが立ち並んでいた。
『ようこそヒルズバレーへ』
という看板があった。
異世界にでも来てしまったかのようだった。
「はは、これは夢だ。夢に違いない」
ほっぺたをつねってみる。
痛い。
「夢じゃないのか……どうすればいいんだろう……」
「へい、レトロな格好をしたにいちゃん」
茶髪にピアスをつけたいかにもやんちゃ系な人が声をかけてきた。
「ボクのこと?」
「おまえ以外に誰がいるってんだよ」
「なんのよう?」
「金貸してくんねぇかな?」
「あいにくお金持ってないんだ」
ズボンのポケットを見せてサイフを持っていないことを確認してもらう。
「ちぇ、しけてんな。じゃあ体で払ってもらうか」
そういうと、スタンガンらしきもので再び昏倒させられた。
ここでは臓器が高く売れるらしい。
ボクは臓器売買のいけにえに捧げられてしまったのだった。
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