異世界転生が終わらない件。
「ここは俺に任せて先にいけ」
「だけど・・・!」
「魔王はその剣を扱えるお前しか倒せないんだろ?だったらさっさといけ!」
「わかった、けど…死ぬなよ」
「なに、全員俺の魔法で蹴散らしてやるさ」
その後、俺は魔王に仕える四天王を一人で相手取り時間稼ぎをしていたが、最後は自分の魔力を暴走させ四天王もろとも自爆した。
それが思い出せる限り一番古い記憶。
次に目が覚めたときは人型のロボット同士を兵器として利用し戦争する世界だった。
俺は戦場で倒れていたところを抵抗軍のエースパイロットに救われた。
その時は自分は一度死んだ気がするという曖昧な記憶しかなく名前も出身もわからなくなっていた。
そんなどこの誰ともしれぬ俺を抵抗軍の人間は優しく迎え入れてくれた。俺は恩返しをするために、ロボットのパイロットに志願した。
幸い操縦の才能があったようで助けてくれたエースパイロットに次ぐパイロットとして戦場を駆けた。
そうして市民を解放していき、遂に圧政を敷く国王を操るロボットと対自することになった。
しかし国王は体の殆どをロボットと一体化しており反応速度、操縦技術、更に性能の差も歴然で俺たちは追い込まれていった。
「…仕方ない、俺がエンジンをオーバーロードさせあいつに突っ込んで自爆する」
「でもそんなことしたら・・・!」
「なに、爆発前に緊急脱出するさ。だがおそらくそれだけじゃ倒せない、だから爆発のスキにとびきりのを頼むぞエース」
「わかった…必ず仕留めてみせる」
「よし、それじゃ行くぜ!」
俺は国王の放つミサイル、レーザーを受けながらも懐に飛び込んだがコクピットごとサーベルに串刺しにされた。
「ッチ…だが仕事はさせて…もらう…」
俺は約束通り機体を爆発させた。
機体が爆発する直前フラッシュバックする記憶。それはなぜか経験した事のないはずの剣と魔法の世界の記憶だった。いわば前回の記憶だ。
「同じ…死にか…」
意識は途絶えた。
その後幾度となく転生を繰り返した。
ある世界で五年分身体的に成長しても、次の世界ではその成長はなかった事になっていた。
ときには動物や魔物になったりもしたが、決まって仲良くなった友人のために命を落とす。
そして記憶が戻るのは必ず死ぬ瞬間だ。
それを何十回繰り返しただろうか。ある時異変が起きた。
いつものように見知らぬところで目が覚めたが、最初から記憶があった。
自分は何度も転生し、何度も死んだのだという記憶が。
その時の世界は、魔法はあるが魔王はいない。そんな平穏なファンタジー世界で、俺は小さな村で意識を取り戻した。
過去の記憶を頼りに俺はできる限り他人とのコミュニケーションを断ち、できる限り一人で生きようと決心した。
俺はすぐにその村から離れ、洞窟に住むことにした。生きること自体はそんなに大変ではなかった。
最初からそこそこ強い魔法が使えていたし、この世界で生きるための術が何故かなんとなくわかっていたからだ。
それが何十回も転生してきた記憶の賜物なのか、転生時に備わる知識なのかはわからない。
洞窟生活も半年ほど過ぎた頃、男が訪ねてきた。人と関わりたくないから追い払おうとしたが、
「僕は異世界から来た人間です、帰るために些細な情報でもいいのでなにか知りませんか」
なんて言うもんだから追い返すに追い返せなくなった。
同じ境遇の人間と会えたこと、人と半年コミュニケーションが取れなかったこともあってつい話し込んでしまった。
そして、あろうことか仲良くなってしまった。この世界でできた唯一の友人になってしまった。
一緒に帰る方法を探す旅をしてほしいと言われたが、それは断った。
そいつは帰る方法がわかったら教えに来ますね!といって出ていった。
確かに帰りたいとは思ったが、そもそも元いた世界が記憶の中のどの世界なのかわからない。
誰かのために死ぬことで転生するのなら、誰のためでもなく、只々天寿を全うすればこの転生から抜け出せるんじゃないかと考えているからだ。
だが天寿を全うはできなかった。
洞窟暮らしから二年くらい立ったとき、雨の日に一人の女がやってきた。
久しぶりの人間だったこと、誰かとなにかを成し遂げようとしない限り死ぬことはないと高をくくっていた俺は完全に油断していた。
止むまで洞窟の中にいたらいいと言って、スープまでご馳走しようと準備していたときに後ろからナイフで刺された。グッサリと。
「あの人が…帰る…ためには…あなたが死なないと…」
なんて女が泣きながら言ってたのがその世界の最後の記憶だ。
恐らく二年前に来たやつが帰る方法を見つけて、それがどういう訳か俺が死ぬしかないって話だったんだろう。そして一緒に旅した仲間がその条件を満たすべく…って感じか。
一緒に旅をしていればその辺りも詳しくわかったんだろうけれど、時すでに遅し。
結局この世界唯一の友人が元の世界に帰るために俺は命を落とした。
今までで一番自分の死の真相がわからない記憶だと思う。
その後また何十回か転生をして、このリアルとゲームが交わる世界で記憶を殆ど保持した状態で目を覚ました。
「最初の町へようこそ」
俺は街の入口に突っ立って同じセリフを延々と言い続ける。そう俺は今ゲームのNPCに完璧に成り切っている。
誰とも関わらなければきっとなにも起こらないはずだ。
今度こそ天寿を迎え、この転生をクリアしてみせる。