初陣 4
ヴルルル、、、。
大きさにしては控えめに威嚇する、サイの様な大きなツノを持った大型の魔物を前に、僕は剣を横向きに、下段に構える。
大型で突進型の魔物に対しては、剣を下段に構えて、足を狙って剣を当てていくらしい。つまり動けなくしてからとどめを刺す。
大型の魔物を狩るのは、魔物を実際に相手にするようになってから数え切れないほどやってきた。実際の魔物を相手に、剣術で勝負をするようになったのは、剣術の基本20技を一通り学んでから2日後で、ゼロから学び始めて1週間後だった。魔物の多い森に行って魔物を狩るようになってからは、昼食もそこで狩った猪の肉などで済ませるようになったので、1日の大半を、剣を振り回して過ごした。流石に、初めに野生動物で時給自足した時は驚いた。狩りを仕事にしていた僕は、当然のように一人で出来るのだが、、、。
魔物は攻撃の合図になる動作を基本はしない。だから、戦うためには出来る限り距離を取り、相手が動き出してからそれに合わせて剣を向ける。
今僕がいる位置と、魔物がいる位置には道路三車線分の差がある。初めにこの魔物と戦った時はこの倍の間を取っていた。慣れてこれば、そこまで取らずとも仕留められる。初めは上手く魔物を無力化出来ず、毎回怪我をしていたから、それは自分でも驚きであった。
魔物は、僕が少し足を動かすと、それを隙と見て一気に突撃してきた。僕はぶつかる寸前で身を左にずらして、はっと、下段構えの剣を、魔物の関節に向けて斬り込んだ。剣は関節に当たり、前足を片方上手く負傷させ、魔物は
「グオオオオア」
と大きく吠えながら、前に倒れこんだ。その隙をすかさず突き、他の足も同様に無力化し、トドメに急所の頭を剣先で突く。魔物は、徐々におとなしくなっていった。
「もう、俺が教えなくても大丈夫そうだね」
少し離れて見ていた、初めから僕に剣術を教えてくれた軍人の講師が、感心した様子で僕に言った。彼はダンビルという名で、今度の討伐隊の同じメンバーでもある。
「まだまだです、、、。討伐2日後なんですけどね、、、。」
「とうとうだよ。頑張ろう」
ダンビルさんが言った。僕もそれに応じて
「頑張りましょう。」と返した。
狩った魔物から角や皮など、人が利用出来る物を取って、僕らはヤマを下った。
街で市場に向かい、獲って来たものを商人に売ってから、家に向かった。家と言っても、宿で生活しているのだが、、、。
宿に着いて、自分の部屋で休んでいると、コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。はい、と応じてドアに向かうと、
「お疲れさま」と、外から声が聞こえた。高い優しい声で直ぐに分かる。訪ねて来たのは葵だった。
パン屋で並んでいた初日の昼休憩の時に葵と話してから、葵とは以前に比べ話すようになって来た。今は、互いに、夕食の時に今日あったことを話している。夕食を一緒に食べる事すらしなかった初めの頃から考えれば、想像出来るような事ではなかった。全てのきっかけをくれた想現法や剣術には感謝したいところである。
「夕飯行こう。」
前のめりな葵に手を引かれて、下の階のレストランに向かった。
「明後日だね」
席に着いて注文を済ませると、葵が唐突に言った。改めて言われると緊張してくる。
「だな。戦えそう?」
「私は大丈夫そうかな。雄貴は?」
「大分剣使うの慣れた気がする。」
「気がするなんかい」
つかさず突っ込んでくる。葵は小さく笑っていた。
「実際始めは一人じゃ無理だった魔物が余裕になったから自信はあるよ?」
「なら良いんだけど、、、。」
葵は苦笑いで言った。でも声に疑っている時の低さがなかったから、信じてくれているようであった。
そんな葵は、難易度の高い技が出来るようになった分僕より頼りになる存在と言える。僕はその事を、素直に讃えたくなった。
「凄いよな、想現法出来るようになったの」
言うと、葵は嬉しそうにはにかみながら、
「初め失敗ばっかだったからね」
と、その表情を隠すように俯いて言った。恥ずかしがり屋な事を自覚している彼女らしい仕草だった。
そんな性格の彼女だからあまり得意げになったりしないのだが、葵が想現法を出来るようになるまでは、本当に苦労したらしい。初めは現象を起こす事すらまともに出来なかったし、出来る様になったと思っても、それを操るのが、若干ポンコツな彼女には難しかったらしい。今では起こした炎を剣に乗せる事まで出来るから、彼女の努力は相当だ。
想現法の事を考えているうち、明後日が戦う日だという事がまたふと浮かび上がって来た。戦いというだけあって、命懸けといえばその通りであり、そんな経験は今まで考えられなかったから怖いのは事実である。
「正直言って、怖いな」
言っても仕方がないし、葵だって同じ事を思っているだろうから迷ったが、今素直な気持ちを吐き出す方が負担が減るだろうと思った。
「私もそう思う。命がけだもんね」
「危なくなったら一旦逃げなよ」
「雄貴もだよ?」
葵も、僕のことが心配なようだった。最前に立って戦う僕は、葵の位置からすれば危うく見えるのかも知れない。
「それより、このチキン美味しいよ」
そう言って、葵は一切れ残ったチキンを僕のご飯の皿に乗せて来た。それはハーブで香り付けしたガーリックチキンだった。
「ほんとだ、美味いな」
言うと、彼女は優しく微笑んだ。