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初陣

街の玄関口である港は大規模で、僕らが旅してきた船の他にも三隻大きな旅客船が停泊していた。港から街の中心部まで続く街道の入り口には、凱旋門のような大きな門があり、ようこそと書いてある横断幕が張られていた。この街は名をフレーヌと言い、今僕らがいる西側の大陸では最大の港町だった。港は南北に二つあり、僕らが今いるのは北側、目的の横断航路がある港は南側。

 僕らは到着してすぐに目的の南港へ向かったが、道中お腹が空いたのでピザをつまんだ。アンチョビとトマトのシンプルな物だが、腹が減っていたこともあってとても美味しかった。というより、美味しそうに食べる葵が近くにいるから、そう感じたのかもしれないが。

 北の港から馬車鉄道で三十分ほど揺られて、目的の南港に着いた。着いてすぐに、停泊していた蒸気船に目を取られた。


「すごいね、黒船みたい」


葵が言うように、船体は黒かった。木製の船だとすれば、黒船と同じ船体保護のために保護材を塗っているのだろう。それにしても大きい船だった。全長百メートルはある。

 これからその船で旅をするのかと思ったのも束の間で、受付で話を聞いたところ、やはり横断航路は欠航しているらしい。魔物が狂暴化したため安全に航行できないのがその理由で、詳しいことは教会で聞いてくれとのことだった。

 この街の教会は、今までのどの街の教会よりも大きかった。大聖堂というか軽い城だった。

 港の受付の人から紹介された海路課に行って話を聞いたところ、魔物除けのための薬草があるという。その薬草を燃やすことで、その匂いを嫌う魔物が寄らなくなるという。ただ、薬草があるのはこの街の北部の山のみであるらしく、そこは魔物が多く今は取りに行けないらしい。

 一方で、薬草を取りに行くために討伐隊が組まれているらしく、それは一般公募らしい。

一旦教会を出た僕らは、近くの公園でこれからどうするか話し合うことにした。


「これからどうしようか」


珍しく葵から切り出した。と言っても、返ってくる答えは分かっているようだが。


「討伐隊に参加しようと思う」


「やっぱ、そうなるよね」


僕には初めから一つの選択肢しかなかった。ここまで来て討伐隊が薬草を取って帰ってくるのを待つわけにはいかない。元々魔物の狩りを仕事にしていたのだから、参加しないほうがおかしいだろう。


「私も、出来るなら参加したいな」


葵がしっかりした声で僕に言う。彼女としては、何もせずに待っているわけにはいかないのだろう。だが、魔物はただでさえ狂暴であり、それが意思をもって人を襲うようになった今、狩りに出るのは危険すぎる。葵にはやって欲しくなかった。


「狩りはさすがに危ないよ」


「分かってるよ。でも他に出来ることがあるんじゃないかと思って」


任せるだけは申し訳ないよ、と彼女は少し小さな声で言った。誰かに任せきりにしたくないのは、彼女も同じようだった。そもそも旅に出ると決めた時から、彼女は自分が出来ることはすべてやるつもりだったのだろう。そうでなければ、危険を冒してノールモントを出ようとは思わない。


「とりあえず一緒に行こう。」


葵はうん、と控えめに言った。

 討伐隊の募集業務を担当しているのは教会の総務課だと海路課の人から聞いていたので、ぼくと葵はすぐにそこに向かった。総務課には、僕らの他にも三人、討伐隊に加わる手続きに来ている人がいた。その内の男二人が、僕らの方を見ている。


「君らも参加すんの?」


二人のうちの小太りな方が話しかけてくる。明らかに挑発した口調だった。

「ちょっ、やめろよ」もう一人の男も止めに入る素振りは見せたものの、薄ら笑いしていた。

 相手にすれば面倒なことになりそうだったので無視していたが、挑発は葵に向かっていく。 


「大体なんで女がいんだよ。遊びに来てるんですか~」


葵も無視していたが、服を握っていたので我慢しているのが分かった。


「彼女には絡むなよ」


つい口にしてしまう。うるせえよ、と相手は待ってましたと言わんばかりに胸ぐらを掴んでくる。喧嘩でもする気なのだろう。だが、身長的には一八〇ある僕も負けてはいなかった。それを快く思わなかったのか、太ってない方が止めに入った。


「さすがにやめろよ」 


 葵も、僕の服を後ろで引っ張っている。僕と小太りの男は、互いに止めに入られたので喧嘩はしなかった。

 けっ、と唾を吐くように言って、僕らを一瞥してから二人は出て行った。危うく余計な怪我をするところだった。


「ちょっと殴ってやりたかったね」


ふう、と気が緩んだようにため息をつきながら葵が言った。


「葵、ありがとな」


素直に口をついて出た感謝に、葵は照れながら、


「こちらこそ」


かばってくれてありがと、と言ってはにかんだ。

 


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