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決戦 2

 自陣まで後3キロ程の位置まで登った所で、僕らは一度水分補給と息を整える為の休憩を取った。

水筒は残りが2割ほど。

陣に行けば食事は取れるだろうが、予想よりも水筒の減りは早かった。

緊張しているのか、喉が渇いて仕方なかった。


水分補給をして呼吸を整え、いざ出発しようとした所で、レイスが後ろから腕を掴んで僕を引き留めた。


「ちょっと、しゃがんで下さい...」


囁いて、レイスは隙間から何かを覗く。

僕と葵も、身を屈めている茂みの隙間から外を覗く。


そこには、人間とほぼ変わらない様相の動物が数人歩いていた。

ほぼ変わらないというか、ある一点を除けば人間であった。

その一点とは、大きさである。

姿は人であるのに、大きさは普通の人の二回りも三回りも大きい。

そして、見ている限り言葉は発していない。


「あれは、シミラですよ」


レイスがそう言った瞬間、僕は剣を抜きそうになった。

彼はそれを手で静止する。

それから、顎でシミラを見るよう促す。

シミラは何やらケースを運んでいた。

ここは僕らが目指す陣までは3キロだ。


「あれは、恐らく武器だと思います」


レイスのその一言で気付いた。

仮定だが、シミラは奇襲をかける準備をしているのではないか。

人間側はシミラの動きには気付いていない。

つまり、事態は一刻の猶予もないという事だろう。

シミラは、突いては引くという常の戦術で僕ら側の注意を逸らしつつ、大軍勢を奇襲に差し向けようとしている。


「何とか急いで自陣に行かないと...」


「雄貴さん、ここから陣のある場所まではもう一つ行き方があります」


「そっか...レイス、案内頼む」


「少し危険ですけど、大丈夫ですか?」


僕は葵を見た。

案じているのだと察した彼女は、それに頷いて返した。


「急ごう...」


それから、レイスの案内で茂みの中を掻き分け歩いた。

茂みを抜けると今度は崖があり、その際の足ひとつ分のスペースを、木につかまりながら歩く。

高い所が苦手なはずの葵は、全く怖がる様子を見せずただ必死に進んでいた。

葵だけではない。

レイスも僕も、ただ必死に進んだ。

全て生きて帰る為に。

一刻も早く、シミラが奇襲の準備をしているという情報を伝えなければならない。

その使命感だけが、僕らを突き動かした。

そして、どれだけ動き続けたか知れないが、やっと人の立つ柵が見えた。

僕はそこに向かって、どこに残っていたのか分からない体力を使って全力で走った。


「志願兵です...!!僕も参加させて下さい!!」


息を切らしながら、必死に見張り番の人に頼み込む。

僕ら3人の必死の様子を見て、彼は僕を作戦会議中の指揮官室に入れてくれた。

きっと大切な情報を何か知っていると思ったのだろう。

服の所々が切れて、土で汚れた様子の僕らはそう思われても不思議ではない。


見張り番の人は、指揮官室のテントの前で「失礼します」と威勢のある声でいい、テントを開いて僕らを中に導いた。

驚いた目で、その場の誰もが僕の方を見る。

僕はその様子を吹き飛ばすように、大声で報告した。


「シミラは、奇襲する為の準備をしています!」


一瞬静まり返ったが、一番奥にいた指揮官長らしき人物が静かに言った。


「それは、本当か。」


「はい!ここから3キロ程の地点にて、武器を運び込むシミラを確認しました!」


隣にいたレイスが答えた。

普段の穏やかなレイスからは想像出来ない、威勢のある力強い声だった。


「そうか。」


指揮官長は、それから目下の作戦図を見て、何かを決した様に鋭い表情をした。

場の空気は、一瞬で緊張した。

指揮が、動きが決定したのだと、その場の誰もが悟った。


「今日の深夜、奇襲を仕掛ける」


いたってシンプルで、落ち着いた指揮だった。


「自軍15万を3隊に分け、二隊を奇襲攻撃にかける。各々、準備にかかる様に」


「は!」


応答した指揮官達は、それぞれの隊に向かった。

僕らはどうすれば良いか分からず、その場に残った。

それを見た長官が僕らに話しかけてくれた。


「君たちは、どこから?」


「西側の大陸からです!」


真ん中にいた僕が答えた。


「そうか、長旅ご苦労だった。皆想現法か?」


「2人は想現法です。僕は剣士です」


「そうか、なら、2人はここに残って、陣の守衛を助けて欲しい。」


「はい!」


レイスと葵は、綺麗に一つ返事をした。

ここに残るということは、今奇襲の準備をしているシミラの軍と真っ向からやり合わなければならない。

つまり、囮のようなものである。

葵とレイスは、指示を受けると直ぐに指揮官室を出て、持ち場に向かった。

躊躇う様子はなかった。

おそらく、本気で戦うつもりなのだろう。

2人の勇気を見て、僕にはある決意があった。


「長官」


「何だ?」


「僕を、先陣に入れて欲しいです」


「おう。いいのか?一番危険だが」


「彼らが囮をすると言っているんです。僕も、そうしない訳にはいきません」


「そうか...。」


それから、長官は僕に先陣の隊色を伝えた。

先陣は赤と青の印を、身に着けている防護服に縫い付けているという。

その印を探しに、外に出なければ。

長官に一礼して、テントを出ようとした。

すると、長官は僕にひとつ尋ねた。


「君は、名前は?」


一度止まって、彼の方を見た。


「岩本雄貴と言います」


「そうか。君の事は絶対に忘れないよ。これで勝ったら、俺らの恩人だ」


さっきまでの睨むような表情とは変わった、柔らかい表情だった。

その表情には、どこか包容力がある。


「ありがとうございます。絶対に、勝って帰りましょう」


長官は敬礼したので、僕も応じた。

これは僕がいた世界となにも変わらないのだなと思って、少しだけほっとした。


赤と青の紋がある服を着た軍隊は、テントを出て直ぐの下山口にいた。

僕はその中の、中心にいた馬に跨る騎士の元に駆ける。


「僕も参加させて下さい!」


声に威勢をつけて、叫ぶように言った。

すると、馬上の隊長はしゃがむ僕の方を見て聞いた。


「長官には、言ったか?」


「はい!君の事は忘れないと申していました」


「なるほどな」


彼は微笑むと、馬を、と部下に伝えた。


「君は僕らに大事な情報を命懸けで届けてくれた。共に馬に乗って戦おう」


「ありがとうございます!」


実は、馬は魔物の狩りを通して扱えるようになっていた。

教えてくれたのは、あの狩りを教えてくれたアベルだ。

あの時はどこで役に立つのやらとその場だけの知識として覚えただけだったが、こんな形で役に立つとは想定外だった。


来た馬は毛並みの整った、筋肉質の立派な馬だった。

跨った瞬間、僕にはもったいないなと思った。

けれど、隊長の好意でもらった馬である。

これに乗って戦おうと思った。


すっかり日も落ちて、深い森にある陣は闇に包まれている。

僕らはその機を見て村の裏の入口に向かった。

その道中、隊長と少し雑談をした。


「名前は?」


「岩本雄貴です」


「変わった名前だな」


「よく言われます」


しばし2人で笑う。


「雄貴には、大切な人はいるか?」


「はい。今は想現法の使い手として、山の陣にいます」


「そうか。この奇襲が上手くいけば、山の陣は何とか守れるだろう。山の戦況は俺らにかかっているようなもんだな」


「はい...。」


「怖いか?」


「はい...」


「君は、正直だな。とはいえ、その恐怖心は集中力に変わるだろうな。とにかく必死に突っ込む事だ」


「頑張ります」


完全に山に入ってからは、一言も話さなかった。

奇襲は相手に気づかれないよう、静かに陣を構えなければならない。

松明は最少にして、慎重に山を下った。


村の裏門の手前の茂みに着くと、鉄砲隊が前列で鉄砲を構えた。

その後ろに、歩兵隊を率いて突撃する部隊が並ぶ。

僕は、その先頭に隊長と共に馬上にいた。

決戦の火蓋は、鉄砲の一斉射撃により切られようとしている。

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