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最後の街

 ビルドニージを出てから街道をひたすら北に歩いて、気付けば3日経っていた。

最後の難所の峠の頂上辺り、これから下りに差し掛かろうというところで一軒の茶屋があった。

茶屋とは便宜的にそう表現しているだけで、実際は洋菓子喫茶みたいな内容だ。

団子がない代わりにマドレーヌなどの焼き菓子があり、お茶といっても、紅茶である。

砂糖抜きでと頼む時に伝えなければ、ほんのり甘い紅茶が出てくる。

そんな茶屋に一服しようと、3人で入る。


「やっと最後の難所越えたね」


席についた途端に葵が呟く。


「ここまで三日もかかったな...」


「でも、そろそろ目的の街も見える頃ですよ」


「どんな街なんだろうね、リュンヌって」


「そうだなあ...」


リュンヌは、この世界の人間の領土の中では二番目の都市である。

人口はおよそ75万。

かつてシミラとの戦争の時、この街は全体が砦として使われたという。

だからなのか、この世界では珍しく城を持った街であり、街は長大な堀で囲まれているらしい。

今いる峠の下りの道中で、その街を一望できる場所が所々あるらしい。

そのため、平時はこの峠は観光地として賑わっている。

今は戦時で魔物の影響もあって、特別な用事がなければ峠には立ち入らないが。


「城があるって聞いたけどな。ゆっくりできる最後だろうから大事になるよ」


「リュンヌでは何日休む?」


「二日の予定。その後は最後の戦いになるからな」


戦いに臨む前の最後の街だから、心を落ち着かせる為に街を見物しようとも思っている。

なんせ街の北に温泉街があるというのが、実に最後の休憩に適している。

それが終われば、最後の戦いである。

何よりも葵が旅を続ける決心をしてくれて良かった。

止めようと言い出した時は、正直焦った。

マイナの手紙が彼女を助けたという事だろう。

内容は知らないが、彼女はその手紙を通して旅を最後までやり切る事を自分で決めた。

心の底から、マイナありがとうと思った。

葵も、強くなったなと思った。

マイナに助けられて、彼女は強くなった。

実は、この旅の仲間の中で一番心が軟弱なのは僕だと思っている。

レイスは人々の笑顔を取り戻したいという確たる意志を持って、一人で旅をしてきた。

マイナも同様だ。

彼女は恋人のために、危険を冒して旅をしてきた。

葵もこの旅を経て強くなった。

僕も、強くならなければいけない時だろう。


茶屋で10分くらい談笑して、僕らは再び旅路に戻った。

街道の両脇は欅が生い茂り、そのどれもが立派な高さで、ゆく道は日陰だった。

木漏れ日が優しく差し込み、葉が擦れる音がただ静かに響く。

ここが本来は観光地であると、歩きながら実感した。

その長い欅並木を抜けると、崖に沿ったつづら折りの道に変わった。

そこでリュンヌの街が見えた。


「うわあ...」


少し後ろを歩く葵は言葉を失ったようで、立ち止まりながら黙ってその景色を見ていた。

レイスもその後ろで立ち止まり、ただ町並みを眺めている。


街は、山を背にして長い堀までの広大な区間に広がっている。

堀も本当に規模が大きく、はじめは川だと思ったほどである。

その堀の町側の岸辺には、大きな石の長城が沿い立っている。

本当に防衛線だった事が一目で分かった。

何より、街の中心部には今までの街よりも高層の建物が密集している。

時計塔が二つある建物もあれば、広大な土地を占める教会もあって、グランポートよりも大規模な街に見えた。


「あと、少しですね」


少し息を切らしながらレイスが言った。

そう、あと少しだ。

少しというのは、街に着くのがという意味であり、シミラとの戦いまで時間がないという意味でもある。

リュンヌに向かって下っていく中で、僕は強い緊張を感じていた。

峠に吹くそよ風は、そんな僕を少しだけ癒してくれているように思った。

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