防壁 6
雄貴が出て行った部屋はとても静かで、風の音が優しく響いていた。
今日は散歩日和だ。
皮肉みたいな天気だと思った。
散歩できるくらい、自分の気持ちが晴れていればいいのに。
手に持っているマイナからの手紙。
開くのが怖かった。
そんな事ないと理性では思っていても、感情が、この手紙が自分の事を責めているのではないかと思っていた。
けれど、葵宛に書かれた手紙である。
自分には、開く義務があると葵は思う。
白く綺麗に綴じられた封筒をゆっくり開けて、中にある二枚の便箋を取り出す。
字はとても綺麗で、優しい筆跡だった。
" 葵へ
この手紙を読んでいるという事は、おそらく私に何かあったのでしょう。そして、葵は旅を続けるか迷っている。
これは私が日頃伝えておけば良いのだけれど、実際に事が起きないと言葉に重みがなくなってしまうと思い、手紙に綴らせてもらう事にしました。そもそも私に何もなければ、書く必要もないのかもしれないけれど。笑
葵は責任感が強いから、きっと私が倒れた事を自分のせいだと思い込んでしまうと思います。正直に私が思っている事を言うと、葵は誰よりも努力家であると同時に、少し至らないところがあって、それを自分が一番理解していると思います。だからこそ、私に何かあれば自分の責任にしてしまうと思います。でも、仮に私が倒れたとして、それが葵のせいとは全く思いません。そもそも旅に出ている時点で何が起こるか分からないもの。なるべくしてなったんだろう、としか思いません。
だから、どうか私が倒れても、葵は旅を続けて下さい。私の事を想ってくれるなら、どうか進んで下さい。
ただ、ひとつ約束してほしい事は、無事に戦いに勝ったら、私が以前話した彼の元に薬を届けて欲しい。彼には、その事は手紙で伝えてあります。だから、勝手だとは思うけど、私に何かあった時には代わりに薬を届けて欲しいです。
私は葵にあった時から、真っ直ぐに頑張る姿に励まされていました。彼に会えない時間は彼の事が心配になったりして、不安定な時もあったのだけれど、葵と旅ができた事は、私にとって幸せでした。
だから、私が旅を続けられなくなっても、どうか希望を持って進んで下さい。
最後に...
手紙は所々が葵の涙で濡れて、凹んだりしてしまっていた。
読んでいるうちに、涙が溢れてきていた。
旅に出た時の葵は、決して生半可な気持ちだったわけではない。
それでも、こうして大きな苦難がやって来ると、どうしても迷ってしまう。
何かある事が怖いのだろう。
もっと言えば、もう何も失いたくないのだろう。
弱気な自分の感情が、心を支配してしまう。
けれど、マイナの言葉に触れて正気を取り戻した。
怖いというのは、旅の仲間の皆が抱えている感情である。
だが、その感情と上手く付き合って、ここまで旅を続けてきたのだ。
マイナだってそれは変わらなかった。
なら、私もその臆病な感情に負けてはいけない。
マイナのために、薬を持ってまたこの街に戻る。
それが、私がやるべき事である。
今までずっと助けてくれたマイナに、少しだけ恩返ししなければいけない。
ここまで来たのに引き返すなんて、許すわけにはいかない。
止まってたまるか。
涙を流しながら、葵は旅を続ける決意をした。
それともうひとつ。
シミラとの戦いの前に、雄貴に伝えなければいけない事がある。
マイナがくれた一言は、今まで踏み出せなかった弱気な自分を鼓舞してくれる優しい言葉だった。
葵には、雄貴に伝えなければいけないと思いながら秘めていた事があった。
次に泊まる最後の街で、その言葉を伝えよう。
葵は、それを強く決意した。
マイナ、ありがとう。
葵は心の中で、病院で寝ているマイナに向かってそう呟いた。




