青年
目線の先にある目標の大木目掛けて、僕は走りながらレイピアを突き出した。
レイピアの切っ先が的に当たった感覚がしたところですぐに突き出た腕を引っ込め、もうひと突きする、そうして的を5回突いて一旦引き下がった。
これは急所を突く練習で、やり方としては、レイピアのような細い剣で局所を突くものである。ようは、ひと突きで魔物の心臓を突く。難易度が高いものだが、これが出来なければ今の実力では目標の魔物には勝てない。鍛錬して身につけるしかなかった。
「こんにちは」
練習で走り疲れて木陰で休んでいると、横から声が聞こえた。青さの鮮やかな若い男の声だった。
僕も反射でこんにちはと返すと、彼は笑顔になるなり僕の横に腰掛けた。
「さっきの技、すごい早い突きですね。」
「魔物の急所を突く練習なんですよ」
彼はなるほど、と相槌を打ってから
「魔物の討伐が仕事なんですか?」
まさかシミラとの戦いに向かっているとは思わないのだろう。
「腕の割に横柄なんですが、シミラと戦うためで、、、」
「そうなんですか!?」
驚いたようで彼の声は大きかったが、続く言葉は否定ではなかった。
「僕もそうなんです。」
つまり、彼も僕と同じように、シミラと戦うために旅をして来たという事である。
「同志ですね」
彼は嬉しそうに握手を求めて来た。僕はそれに応じながら、
「同志と言っていいのか、、、。」
「どうしてですか?」
「僕は旅の仲間に助けられてばかりで、何も出来てなくて、、、。」
彼は僕の手を握ったままで口を開いた。
「助けの要らない人なんて居ませんよ。僕も旅自体は単身でやって来ましたけど、宿を貸してくれた人も、道を案内してくれた人も数知れませんよ」
「そうなんですか、、、?」
「ええ。だから同志ですよ。目的の為に互いに旅を続けて来たから、同志なんです」
僕は少し弱気だったかも知れないと、彼の言葉で思った。
事実上リーダーみたいな立ち位置の僕がそれは情けない。
「仲間がいるんですね」
彼は少し羨ましそうに言った。単身だから、そう思うのは当然だろう。
僕の旅仲間の事を考えてみた。剣士が2人で、想現法の助役が1人。バランスがいいとは言えない。
独断ではあるが、ひとつ考えがあった。
「剣士ですか?」
聞き方が唐突すぎたかも知れないが、彼は気にせずに答えた。
「いえ、剣も使えるんですが想現法使いです」
僕らに足りない部分を補ってくれる気がした。
「もし良かったら、一緒に旅しません?」
「それは申し訳ないですよ。」
彼は遠慮をしているようで、寂しそうにほんの少し俯き気味だった。
「そんな事ないですよ。ちょうど想現法が使える人を探していたので」
「仲間の人には話しました?」
「仲間には、今日話しておきます」
彼は目を逸らして少し考えて、
「ありがとうございます、、、。」
頭を下げて、丁寧に言った。
「明日また会いましょう。その時に仲間に紹介しますよ」
「ありがとうございます」
真っ直ぐに僕を見て、彼は感謝の言葉を述べた。そのまま続けて
「そういえば、名前まだ言ってなかったですね。僕はレイスです。よろしくお願いします」
「僕は雄貴です。こちらこそお願いします」
新しい仲間が増えるのを祝う様に、空は綺麗な青空だった。
※
「レイスといいます。よろしくお願いします」
翌日、僕はマイナと葵を呼びカフェでレイスの事を紹介した。マイナも葵も、応じてよろしくお願いします、と一言言って握手を交わした。
昨日レイスと別れた後、直ぐに2人に旅仲間を増やしたいと伝えた。レイスが想現法使いである事や、それだけではなく剣も使えるというのを聞いて、ふたりは彼が必要だと思った様であった。
「早く会ってみたいな」
何より葵がそう思っている様で、その理由を
「雄貴がいいと思った人だから」
という。僕の好みに興味があるのかと突拍子も無い事を思った。
が、彼女の事だから単純にどういう人物か気になるのだろう。
葵は分かりやすい性格をしている。
レイスは、見た目は精悍で濃い顔立ちをしている。
笑った時の彼の表情は屈託のない明るいもので、それが彼の人となりを表している様に思った。
だから性格は、まだなんとも言えないが、初めに接した時の印象から言えば律儀で心優しい人である。彼はひとりでここまで旅を続けて来たのだから、強い信念の持ち主でもあるだろう。
マイナも葵も、彼と会って直ぐに仲良くなった。レイス自体がとても人当たりのいい、優しい性格だからなのだろう。
「とりあえず、旅の計画を言うよ」
直ぐにこの話が出来そうだったから、僕が切り出して旅の話をすることにした。
今居るのはビルドニージという街である。
そして僕らは、ここから北上する為の街道を占領する魔物を殲滅し、北端の村までの道を拓かねばならない。
「ここからが正念場なわけだ。」
僕らのこれからの行程を理解したレイスは、自分に言い聞かせるように言った。
「出発は、、、」
「北への街道が通れるようになり次第。5日後の討伐に合わせて行く予定」
「了解!」
僕の提案に、皆快く乗ってくれた。
「力になれるよう頑張ります」
そういうと、レイスはきっちりと頭を下げた。
新しい仲間を祝って、その日は朝まで宴を開いた。
これから先どんな事が待っているか分からないが、今の僕らなら乗り越えられそうな気がした。




