もう一つのプロローグ(3)
「……………………」
そんな二人の会話に挟まれながら話を聞いていたミュウは、そうしながらも周りに視線を向け、何か異変が無いかを探り続ける。
その二人の話に何かしらの共感はなく、だからといって聞き流すようにしながらも断片だけ頭の中に留め、今回の卒業試験めいたコレのことを考えていた。
【呪い】を教えてくれている学校からの卒業。
元々はちゃんとした学校内の学科ではないので、卒業のタイミングも自由なのだが、その方法としてルーベンス先生から出された課題というのが、【呪い】保持者の説得だ。
今向かっているのは、住宅エリアの山奥側――国の南東側に位置する工場エリア。
工場エリア……と皆は呼んでいるが、国が定めたエリア的には住宅エリアなので、住民たちが勝手にそう読んでいるだけの場所だ。
先程、リースとトウカが話していた電気を作るための建物もそのエリア内にある。
そこから電線を引っ張り、この国中に電気を巡らせていることになるのだが……そのための高い鉄塔がどうも見当たらない。
ただ代わりに、工場エリア内にある建物は、住宅エリアに近づくにつれて段々と高くなっていっているのが分かる。
この建物の一番上を、電柱の代わりとすることで高さを稼ぎ、そのまま今彼らが見上げて分かる高さに達したところで、電柱を間に立てていくことで張り巡らせている……といった感じだ。
こうした仕組みになっているのは、電線の張り巡らせ方を、この世界に電気を定着させた転生人が、把握していなかった故だろう。
「…………」
そうした、電線が建物の上を伝っている理由なんてものをイマイチ把握していないミュウだが、それでも普通の住民たちと同じで、建物の上に電線伝わるのが工場エリアと呼ばれる場所、であることぐらいは分かっている。
そろそろその入口となる建物が見えてくる頃……となってようやく、試験のことを改めて意識し始めた。
その、電気が関わる施設は、一般的に人が立ち入らない。
もし電線が切れたとしても、住民が関わることなく、いつの間にか修繕されてしまっているぐらいだ。
だから誰も何もしていない。
故に、彼女たちが向かっているのは、その少し前。
工場エリアの、人がちゃんといて、働いている建物の方ということ。
つまりは、社会人が相手ということだ。
その相手は女性。年齢は二十代前半。工場エリア内の一職場で、経理として働いている。
【呪い】の話をした時は全く自覚なく、その能力も無意識に使っていたものだから、ルーベンス先生に試験の名目で、リースとミュウにその【呪い】を完全に封じるよう頼まれた――という経緯だ。
……そうするためにワザと、ルーベンスは一時的な封印しか施さなかったのだろう。
そのことを二人も自覚した上で、今回の場所に向かっている。
その女性にバレることなく、その女性の【呪い】を完全に封印する。
自分たちの【呪い】を用いて。
……そうした試験内容だが、実を言うとミュウ自身は、そこまでこの試験に乗り気じゃない。
いや、先生の頼みである以上、ちゃんと聞くつもりではあるのだけれど……なんとういうか、リース程の必死さが無いだけだ。
なんせミュウは、別にこの卒業試験にしっかりと合格しても、あの学校に留まるつもりだからだ。
卒業試験に合格したら一人で活動を始めるつもりである、リースとは違って。
確かに、一人で活動することこそが正しいのだろう。
この行動にお金は発生しない。
それはルーベンスが先生となる前から言っていたことだ。
ただこの国を――この世界を守りたいという使命感だけで動くことになる。
だからだろうか。
それが無茶であることをルーベンス自身が自覚しているが故か。
その【呪い】という能力の操作方法を覚え、国民にさえ害を成さず、イザとなれば国のために外敵を排除してさえくれれば独り立ち出来る。
そういう認識のもとに、彼女たちを自立させようとしていた。
【呪い】を封じれることが外敵排除のソレに該当するかというと違うのだろうが、ひとまず最低限の操作能力がある証として、今回のような試験にしたのだろう。
つまりは、独り立ちさえすれば、後のことは自由ということ。
自由だからこそ、こんなお金の稼げないことはついでにし、お金の稼げる社会の中に飛び込めと、そういうことだ。
おそらくは先に述べた外敵の排除だって、やらなくてもルーベンスは文句一つ言わないだろう。
……だからこそ、ミュウは学校を辞めるつもりがなかった。
確かに家のことを考えれば社会に出て働くべきなのだろうが……それでも彼女自身が、自分がそんな働くほどの何かしらの能力があるだなんて、考えられないのだ。
だからと、誰かと結婚出来るのかと言われると、それもまた考えられないのだが……。
現状、彼女自身は、今現在の自分をどうにかしなければならないという意思しか持っていない。
同時にあわよくば、転生人の誰かがこの行為に報酬が出る世界にしてくれないかなぁ、とか、そういう甘い考え。
ミュウにとってはこの【呪い】は、自分を変えるための第一歩でしかない。
何も出来ないと思っている自分に、少しでも自信をつけるためのもの。
その一歩が踏み出せていない以上、まだ独り立ちとして卒業させられても困ると、そういうことだ。
まあルーベンス自身が、そこからは自由としか言っていないので、学校に残り続けるのまた一つの選択肢として用意してくれているのだろうけれど。
「…………」
でも……そうして残り続けて、何が変わるのか。
それはミュウ自身も、よく分かっていない。
卒業試験を受けさせてもらえるほど、ルーベンスには認められたものの……結局自分に何か特別なことが出来るのかと問われれば、わからないままだ。
自信もついていないし。
【呪い】の習得が第一歩なら、そこからの二歩目はどうすれば良いのか。
独り立ちすれば使っても使わなくてもほぼ自由な、枷なんてほとんどない、牙抜きをされたような代物でしかなくなる。
今はそうとしか考えられない。
結局のところ、この【呪い】を誇ったところで誰も評価はしてくれないのだ。
お金が出ないとは、そういうことなのだから。
だから自分にはまだ、何の価値も、見いだせない。
ああして剣を腰に差して歩いている男性や、ローブを身に纏い杖を持って歩いている初老の女性ですらも、それぞれの得意分野を活かして生きているというのに。
それが、当たり前だというのに。