もう一つのプロローグ(10)
「……その男は、俺の敵だ」
「……私にとっては、きっとそうじゃないんです」
ジュンヤの言葉に、ミュウは自信がないながらも、力強く返事をする。
「それに少なくとも、私にとってはあなたが、敵ですから」
「……だったら、まずはお前からだ」
「……良いんですか?」
ルーベンスの――先生の言葉を、思い出す。
相手と会話をし、自分が相手を呪っていると、より強く意識させろと。
自覚させればさせるほど……自分が呪われていると思えば思うほど……例えそれが“かも”であろうとも、そう思わせることが出来たなら……より強く、呪いはかかる。
だから、手を前に突き出し、手の平を相手に向ける。
「今私は、あなたを呪っています。
その証拠が、さっきの射撃ミスです。
良いですか? 今度は……撃つことすら、出来ませんよ?」
「……急に力が抜けたように感じたのはソレか……。
要は、ステータスダウンみたいなものってことだろ?
だったら、何発も撃ってゴリ押す。
見えない程度ならどうとでもなったなのに……力が下がるなんて、運が悪い」
「…………」
「女の人は殺したくなかったけど……敵の味方なら、仕方がない。
お前のその呪いとやらで、躱してみせなよ。
面になるよう、何発も……何百発も、一度に撃ち続けるから」
「……私を殺したら、あなたも死ぬ。そういう呪い、聞いたことない?」
「それだと、俺は死なない」
そういう、本人が分からない攻撃を受けない与術を持っているのか。
それとも後先考えていなかったのか。
ジュンヤはその、番えていた矢を、放った。
「っ!」
もちろんミュウはまだ、自分が死ねば相手が死ぬほどの【呪い】をかける腕に達していない。
もしかけることが出来ていたなら、転生人相手にも通じることは間違いなかっただけに、それが悔やまれる。
ミュウの体術では、この一本の太い矢を避けることは出来ない。
もし避けたとしても、次は言っていた通り、四本の矢を放ち続けてくるに違いない。
そもそも避けること自体、後ろにいる彼を見殺しすることになる。
だから、もう――
――ガクンと、覚悟した彼女の背中が、倒された。
後ろに、引っ張られるような力のかけられ方。
それは、後ろで倒れていたはずのトウカで……。
立ち上がり、肩を掴んで後ろに倒すようにし、今度はトウカが、驚く彼女を庇う。
死ぬ前の、最後の力を振り絞って……ではない。
右腕の能力をしっかりと発動し、その矢をかき消す。
貫通の矢でないことはもう把握していた。
だから――そのまま、一息に距離を詰める。
今度は同じ高さ。
今度は、ちゃんと地面を蹴って。
……そこでジュンヤは、今更気がついた。
彼のソレは能力ではなく、彼自身の身体能力だと。
そして今度は、姿勢を空中で整えての攻撃ではない。
本当の本当に、地面を踏みしめての、その衝撃すらも腕へと伝達した――黄色の魔力を宿した、左腕。
瞬きの間に、開いていた距離が、意味を成さなくなった。
迫る勢いすらも乗せ……踏み締めてブレーキをかけたその衝撃すらも乗せ……その左腕に、全力の力を込めたアッパーを、再びジュンヤの腹に、叩き込んだ。
「っ!」
防ぐ手段なんてない。
その攻撃を受けて……建物を超えるほどの高さまで、ジュンヤは吹き飛ばされた。
◇ ◇ ◇
真上に吹き飛ばなかったのは、トウカ自身が辛うじて立ち上がれたから。
……いや、それはおかしいと、ミュウはすぐさまその考えを否定する。
自分が駆けつけた時は確かに、立ち上がることすら出来ない怪我だったのだ。
それがどうして……。
「ぐぅっ……!」
痛みに震えながら、そうして吹き飛ばされた男を追いかけようとするトウカ。
「ちょっと!」
そんな彼にミュウは、慌てて駆け寄って、その倒れそうになる身体を支え――ようとして支えきれず、結局座り込むようにして、ゆっくりと身体を倒すことしか出来なかった。
「そんな身体で、追いかけようとしないでくださいっ」
「……でもあれは、転生人だ。
ああいう強い奴と戦うのが、オレの目的だ。
……単純な能力だからこそ、戦い甲斐がある」
「だとしても、もう無理でしょう?」
「いや……ミュウがいてくれたら、いける。
オレの身体は、すぐに回復する」
「えっ……?」
それはどうして……と訊こうとしたけれど、
「……………………」
しばらく、焦点の合わない虚ろな目を浮かべた後……結局トウカはそのまま、気絶するように眠ってしまった。
「…………」
【呪い】を宿す自分が、トウカ限定なら回復することが出来る……。
その意味が分からず、きっと彼が誰かと勘違いしているだけなのだろうと思い、彼女はそのまま、トウカに付き添うことにした。
吹き飛ばされた転生人は、もう一人の【呪い】使い――リースが駆けつけてくれているはずだから。
◇ ◇ ◇
「あなたには、世界改変能力がありますの」
場所は、住宅地の前にある、小さな公園。
すべり台と、一人用のブランコがあるだけの、質素なその場所。
そこにある木に引っかかり、体重の重さで落ちたジュンヤに向け、気絶していないことを確認してから、リースは返事を待たず、一方的に話を始める。
それが、【呪い】を扱える者としての……本当の使命だから。
「だけどそれは、無自覚の改変。
だから今、あなたに告げています。
自覚すればこの能力は、二度と使えないですから」
今回自分は、何も出来なかった。
だからせめて、この本来の目的だけは……。
転生人として能力で一番困るコレを封じる作業だけは、果たさなければならない。
「あなたにとって、都合のいいことが起きなかったかしら?
分かる? 元々は普通の人しかいなかった場所が、あなたのせいで色々と変えられたの。
私達はもう、これ以上、変えられたくありません」
真剣に……必死に、心に響くように、伝える。
【呪い】で心の壁を柔らかくし、本音を本音だと分かってもらうようにし、真摯な気持ちをそのまま、吐き出すようにして。
「でも逆に言えば、コレがなければもう、あなたを傷つけることはありません。
あなたは自由です。
だからあなたには……ここでその能力を、捨ててもらいたい。
……あなたは、あなたがこの世界で叶えたい望みを、二度と叶えようとしないでください。
それがワタクシ達の――この世界の人たちの、望みです」
そこで一度言葉を切り……お手本とばかりに一度、ルーベンスに見せてもらった時に彼が言っていた言葉を思い出し――いや、勝手に思い出され――自然と、その口から紡がれた。
「我は、異界を望んでおりません」
そこから続いた言葉もまた、自然と出たものだった。
だけど今度は、リース自身の本音として。
「どうか、あなたも世界にいれますように」
これで色々な設定明かしのプロローグ二つ目が終わりました。
次はまた同じく、来月末ぐらいに投稿できるよう、頑張っていきたいと思います。
現状では、プロローグ1のようなバトル要素が少ないものを書きたいなぁ…なんて考えているところです。




