もう一つのプロローグ(1)
遅筆なせいでまた完結まで書けていないですが……約束の時期なので投下を始めます。
今回は前回の話のもう一つ側のお話と、【呪い】保持者ではなく転生人のお話をメインに書けたらなぁ……と。
王瑠海透華は、自分の世界では最強だった。
左には全てを貫く黄色の腕を。
右には全てを治す白色の腕を。
それぞれを携えた彼は、元々の身体能力も合わさり、本当に敵なしだった。
だけどその力を、誰かを困らせるために使ったことはない。
……それでも。
それでも強すぎる力は、敵を作るもので。
周りからは、距離を置かれてしまっていた。
けれどもそれを、気にしたことはなかった。
元々、そうして最強になることを目的に、生きてきたのだから。
だからこそ、分かってしまったのだ。
自分のこの最強は、所詮この世界でしか通じないのであろうことを。
もっともっと、強くなるために、もっと強い人と、戦う必要があるだろうことを。
◇ ◇ ◇
「ちょっと」
気の強さが伝わってくる声で呼び止められ、トウカは青空へと上げていた視線をその声の主へと向けた。
「何上見てボーッとしてんのよ。
コッチはあなたを守りながら役目を果たさないといけないんだから。ちゃんとしてよね」
「それは悪かったな」
素直に謝りながら、その金色に流れる長い髪を見る。
スラりとした細身の長身、制服の上からでも分かる腰のくびれ、しっかりとした立ち振る舞い。
育ちの良さが伝わってくる凛とした雰囲気やしっかりとした口調で注意されては、並の男性はつい萎縮してしまうというもの。
「でもま、オレのことは心配するな。守る必要だってねぇよ」
「は? なんで?」
「それは……あ~……まあ、オレが強いから、かな」
「…………は??」
その、自惚れにしか聞こえない言葉に呆れ果ててしまったのか。
彼女はそのまま大きなため息を吐いて、先頭を歩きだしてしまった。
「なあ」
「えっ」
そうして会話を打ち切られてしまったからか。トウカは一緒に来ていたもう一人の女性に声をかけた。
前を歩き始めた金髪少女とは対称的――と言っていいのか。低い身長に黒く短い髪、ブレザーの制服はストンと落ちて寸胴を顕にし、かなり地味な印象を受けてしまう。
それを彼女自身も自覚しているからだろう。
まさか、金髪の彼女と一緒にいる時に声をかけられるとは、当人ですらも思いもよらなかった。
「アンタ、名前は?」
「……トーバードです」
印象通りの気弱そうな声は、トウカの粗暴な口調と合わせてしまうと、それだけでかき消されてしまいそうだ。
「トーバード? 変わった名前だな。
あ、それってもしかして、苗字――じゃなくて、ファーストネーム? ってやつか? オレもオウルミってのがそっちになっちまったからな」
「えっ……と……」
「ん? 違うのか? やっぱ名前なのか?
「…………ミュウ、です」
本当は初対面の男性に名前を呼ばれたくないからと苗字を教えたのに、嘘がつけない性格のせいで押し切られてしまった。
「そうか、ミュウか。
オレはトウカだ、よろしくな」
「あ、はい。
あの……それで出来れば、名前の方は、ちょっと……」
「ん? なんでだ?」
「なんで、と言われても……慣れてないし、恥ずかしいので……」
「オレとお前の仲だろ?」
「……………………」
そんなものはない、と言いたかったのに言えない。
そんな自分の性格が、ミュウは好きではなかった。