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追憶の温泉ホテル  作者: Kidney Yaponskiy
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4.観光列車

 都内のターミナル駅から観光特急が発車した。

 結局、温泉まで2時間という近さと、翌週からの仕事のため車は諦めてもらった。

 社員旅行のような気分で、さっそく売店でビールを買おうとする。


「レジャー施設に先に行くのに、酔っぱらってちゃ子供の面倒見れないでしょ。」

「車内で食べるお菓子と飲み物買おうとしただけだよ。」

「家からお茶とお菓子持ってきたって、ちゃんと聞いてないの?」

「そうだった。忘れてた。」


 温泉行き特急は定刻に発車した。

 今日はまず沿線のレジャー施設で遊び、次に温泉ホテルに向かう。

 最寄り駅から温泉ホテルへは送迎もあるが、温泉街を歩いて行く計画だ。


 指定された席に座ると妻子は、あっという間に眠ってしまった。


「往復の車内も貴重な旅行の時間なのにな。」


 よく言われるようなことを言ってみた後、車内販売のビールを待った。

 残念なことに、こういうチャンスに限って売りに来ない。


「仕方ないな。どっかで売ってないかな。」


 席を離れビール求めて車内を徘徊する。土曜日の午前中にも関わらず乗客は少ない。


 同じ車内では小学生位の男の子ふたりを連れた夫婦が、席をボックスにしている。自分も幼い頃、親に連れられて温泉行き列車の乗ったことを思い出す。あの時、親はどういうつもりで子供を連れ出したのか。鉄道が趣味だった自分と弟は「特急列車に乗れる。」と「昆虫採集」が目的だった。


 結局、ビールは見つからず手ぶらで席に帰る。ボックスシートの親子連れは、いつの間にかシートをふたり掛けの元の状態に戻していた。子供たちは親の前のシートに並んで座り、車窓の流れゆく景色に夢中の様子だった。


「子供の騒がしさに嫌気がさしたか、それとも子供たちのほうから親と離れたか。」


 鉄道好きだった自分と弟は、親と話すより、自分たちの世界に浸り特急列車を満喫したかった。親は残念がったが、子供の自分には親はどうでも良かった。


「どこに行ってたのよ。」


 席に戻ると目を覚ました妻に聞かれる。


「トイレ行ってた。」

「レジャー施設の駅に着いたら起こしてよね。」


 また眠ってしまった。

 自分も眠ろうと思うが、気がはやって眠れない。


(子供の頃から鉄道好きだから、眠れないのかも知れない。)


 ものごころついて、もうとっくに鉄道趣味から卒業したはずなのに、気持ちが落ち着かないのである。

 仕方なく車窓を眺める。窓からは稲刈が終わった秋の田園風景が広がっていた。


「この辺も随分変わったな。」


 社員旅行の時は酒を飲んでいたので気付かなかったが、線路沿いに見える家の数は格段に増えていた。建物も近代的で昔の面影は無い。線路だけが変わらずに残っている。


 途中駅を過ぎると単線になり、島式のホームで、反対側から来た列車が待ち合わせをしている。


「特急のために長いこと待たされたのだろうな」


 妻や小学生の娘には興味のない景色だった。

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