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追憶の温泉ホテル  作者: Kidney Yaponskiy
12/13

12.クレジットカード

 旅行から戻って2か月が過ぎた頃、妻がカード会社から請求が来ないと騒いでいる。確かに控えはあるのだがホテルが請求を忘れているようだ。


「カード会社に電話して調べてもらったほうが良いかな。」

「カード会社もホテルから連絡があって始めて請求を行うはずだから、ホテルが忘れているならカード会社でも分からないと思うよ。」


「それならホテルに電話したほうがいい?」

「わざわざ請求忘れてるって電話する人いないよ。いつか引き落とされるはずだから、その時に支払えばいいよ。」


「まあ、そうだよね。」

 こんなやり取りがあって、請求の件は決着した。


(そういえば、あのホテルどうなったかな。新しい集客方法を考えついたかな。)

 リビングのノートパソコンでホテルを検索する。同じ部屋で妻と娘はバラエティ番組を見ていて、時々、大笑いしている。


「一体、何が面白いのかなあ。」

 いつもの風景だが自分には楽しめない。


 ホテル名で検索してもあのホテルが出てこない。違う地域のものばかりだ。妻がブックマークしたURLは旅行会社のパッケージプランのページで、2か月経っているのでそこのページは当然変わっていた。


「ホテル単体でHPは持ってないのかもな。」

 あの人数でHP更新までやるのは不可能だ。


「ストリートビューはどうかな。」

 住所で検索すると見たことがある街並みが現れた。この橋を渡って右に折れてずっと直進して…。街外れまで行ってしまった。来た道を戻ってみる。心当たりの場所はトタンの塀に覆われていて建物の形が分からない。


「撮影車が通った日にちょうど改装中だったのかな。それにしても草が生えたりしてて随分長い間改装してたんだな。」

 ストリートビューを閉じて検索画面に戻る。


「口コミでも良いからなんか情報ないのかなあ。」

 それらしい情報はなくて、画面に表示される検索結果は「廃墟マニア」が投稿した動画サイトになっていた。


 少しでも情報が知りたいので動画をクリックする。動画はドローンが収集した空撮だった。駅前の橋から順番に廃墟となっているホテル群の上空を飛んでいる。


 屋上には赤錆びたタンクがあって、どのホテルもかなり崩壊が進んでいる。建物と同じ高さに高度を落とすと部屋をパンしていく。


 泊まったホテルの看板が見つかったが、隣のホテルと同じ色をした廃墟だった。自分の止まった部屋のカーテンは破れて、垂れ下がっている。最下段のガラス張りの突起物はゴシックと和風が混ざった大浴場だ。荒廃していて一目では大浴場だと分からない。


 建物の隣にはアパートのような鉄筋の建物があって、これが支配人が言っていた「従業員用宿舎」らしかった。


「こんな状態でよく改装できたなあ。外に張り出したパイプも1個1個取り替えないといけないだろうから、確かに5年かかるよな。」


 コンクリートも朽ちてボロボロになっていた。支配人一家の苦労が偲ばれる。


「一旦取り壊して、建て替えたほうが早かったんじゃないかなあ。」

 動画が終わり撮影日が表示される。撮影日は我々が泊まった前月だった。


「そんなことないよな。現実に泊まった人がいるんだから。」

 慌てて動画をアップしたのでタイピングミスしたのだろう。


 今度は衛星画像を見てみることにする。撮影日は1年前、この日なら営業が始まっているだろう。

 どの建物も人気がない。衛星画像も同じように荒廃していた。


 一体、自分が泊まったホテルはどうなってしまったんだろう。本当に営業を再開していたのか。我々3人は本当にホテルに泊まったのだろうか。


 妻と娘はバラエティに集中しているので、自分が混乱しているのに気付いていなかった。

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