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追憶の温泉ホテル  作者: Kidney Yaponskiy
11/13

11.土産屋再訪

 昨日と同じルートで駅に向かう。途中の豆腐屋で湯葉を買おうとしたが、やはり営業していない。


「ホテルには自宅で製造したものを卸しているのかもね。」

 妻は期待していたので残念な表情である。


 橋からの景色を眺める。娘が立ち並ぶホテル群から昨日宿泊したホテルを探しているが、この角度からは見えなかった。遠くからはどのホテルが営業を続けているのか、よく分からない。


 妻と娘は昨日の歌謡ショーで覚えた歌を歌っている。昔ながらのホテルだったが、確実に娘の記憶に刻まれたことを嬉しく思った。


「どうしたら、もっとお客さんが来てくれるかなあ。」

 娘に質問する。


「お父さんみたいに忙しい人が増えれば、自然とお客さんも増えるんじゃないかなあ。」

「あんまり仕事が忙しいと、温泉にくる時間さえも、なくなってしまうよ。」

「忙しくないと本当に「行きたいって」ならないんじゃないかなあ。」

「そうだね。本当に忙しくならないと温泉の有り難さって感じないかもね。」

「あなたはお酒が飲めれば、温泉でなくても良いんじゃないの。」

「そんなこと無いよ。」


 駅前の土産屋で時間を潰す。


「ホテルどうでしたか。」

 女将が妻に尋ねている。


「楽しかった。」

 娘が答えた。


「昔ながらの形で営業していて、懐かしい気持ちになりました。」

「そうですか、それは良かった。」

「きゃらぶきはありますか。」

「これですよ。お茶漬けにしても美味しいから、試して下さいね。」


「会社用のお土産はいらないの?」

「会社の連中には温泉に行くって、言ってないから、特に買って帰る必要ないよ。」


 妻と娘はキーホルダーとかを品定めしている。絵はがきは主に外国客用か。富士山とか浮世絵とか、温泉とかけ離れたものも多い。自分は温泉まんじゅうの製造場所をチェックする。市内で製造されたものに混じって、僅かだが地元で製造されたものもある。


「確かに頑張っているんだなあ。」



 女将に送り出され帰りの特急に乗ると、急に睡魔に襲われ眠ってしまった。


「お父さんはいつも呑んでいるか、寝ているかのどっちかだよね。」

 妻と娘が話しているのが僅かに聞こえた。


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