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5. 緊急起動レバーと少年

ストーリーの流れの都合上、実際の人体構造とは若干異なる箇所もありますが、おおよそ脳の構造に沿ってイメージして書いています。

ルビーネは、静かになってしまったマタ王の前で片膝を折った。


「非礼な言動、お許し下さい。」


マタ王はハッと我に返り、慌てて彼女に頭を上げるよう言った。


「謝ら…ないで。私が、いけなかったの。これからは、ちゃんと、聞いてから、行動するわ。だから、ルビーネも、沢山、教えて?」


そう言うと、すっと息を吸ってからルビーネに視線を合わせた。まだまだあどけない表情だが、マタ王の中で何かが変わった、そんな目をしていた。


ルビーネは眉を下げ、薄く微笑んでから「脱線してしまいましたね」と、レバーの説明に戻った。


「私が、これを引くことは、ないってことは、誰が、いつ、使うの?」


「通常、問題がなければ“呼吸”というものは動き続けます。然し乍ら、唯一城の生命活動を無視して呼吸を制御し、且つ停止させることができる存在があります。」


ルビーネは、自分とマタ王がいる足元を指差した。マタ王は、その指の先に視線を移動すると、息を呑んだ。


「今はまだ神経細胞の整備中で覚醒されておりませんが、今暫くすれば確立されてマタ王様と一体化されるでしょう。」


そこには、電波状況が悪いテレビのちらつきの様なノイズの奥に、半透明の乳児が丸くなって眠っていた。


「その方は、あなた様の“意識”というものです。城の修復に努めることもできれば、逆に城を一瞬にして壊滅させてしまう力を秘めております。」


そう言うとルビーネは、自分とマタ王がいる部屋の真ん中に飛び出ている緊急起動レバーに触れた。


「ただ、単純にあなた様の“意識”が自ら呼吸を一時的に停止されているだけでしたら、司令塔におられるポルモネ卿が城内の状況から判断し、このレバーを引いて強制的に再稼働させます。」


「ポルモネ…卿?」


マタ王が名前を口にするのとほぼ同時に、緊急起動レバーがゆっくりと回転しながら下へ向かって沈み出した。それに触れていたルビーネが、動きに合わせて体を持っていかれそうになる。


マタ王は宙を軽く蹴って、蹌踉(よろ)けたルビーネの元に降り立った。いかんせん、成人女性並みの体重を支えるには、幼児サイズのマタ王には役不足だった。増してや水中で移動したのはこれが初めてだったので、バランスが掴めず、ルビーネ諸共レバーに絡まってしまった。


その衝撃でレバーが2、3度カンカンカンと音を立てて左右に揺れると、沈んでいく動きがピタリと止まり、下方から柔らかな少年の声が響いてきた。


〈だぁーいじょぉーぶー?〉


マタ王よりは言葉がはっきりとしているが、“卿”というには些か不釣り合いな声色だ。


〈ごめんねぇー、今動かすとマズい感じぃー?〉


「申し訳ございません、少々お時間頂けますでしょうか?」


声を張り上げた少年に対し、ルビーネは何処からか小型マイクのようなものを引っ張り出して、それに向かって静かに返答した。そして、まずマタ王の薄いチュニックスカートを慎重にレバーから外し、次にその根元に挟まってしまった自分の服を強引に引き抜いた。


〈あれ?…もしかしてここの神経回路、整備終わった?〉


少年もまた先程とは違い、落ち着いた調子で話し掛けてきた。叫ばずとも、声は十分に伝わる。


〈ちょっと待っててね。そっちに出ちゃってるレバー元に戻したら、上に行くから。もう引き下げてもいい?〉


ルビーネが「お待たせ致しました」と告げると、レバーは再びゆっくりと回転しながら下へ向かって沈んでいった。


全てを飲み込んだ部屋の底面が、とっぷんと一つ波打ってから数秒後。何やら揉めている2つの声が下からこちらへ近付いて来た。聞き耳を立ててみると、〈俺は行かない!〉とか〈そんなこと言わないでぇ〉などと言っている。


マタ王は何事かと、部屋の声のする辺りに這い(つくば)って覗いてみた。眼下には、半透明に近いながらもほんのりと色付いている、モズクやミル、海ぶどうといった海藻が群生している。


暫く、光を反射してキラキラ輝くそれらに目を奪われていたのだが、まるで騙し絵を見ていた時の目の焦点が変わる瞬間のように、気が付けばそこに顔があった。


「!!…きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


マタ王は反射的にザリガニの如く後方へ逃げて行く。


その様子を目で追いながら、先程まですぐ側にあった好奇心で満ち溢れる彼女の可愛らしさと、壁一枚隔てつつも至近距離で悲鳴を上げられたショックを同時に味わった少年は、何とも例えようがない複雑な面持ちで振り返った。


背後に控えていたもう一人は、呆れたように溜息をついた。


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