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砂の涙  作者: 日野 哲太郎
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砂の涙ー4

 中華料理店大龍は、T駅前から延びる中央通りから右折して左折してまた右折してビル街をぬけた下町の涼風通りにあった。軒先に大きめの赤い提灯が左右に二つぶら下がっているのが目印だった。その裏にある下宿屋大楽は、中華料理店のマスター大楽甚平(だいらくじんぺい)が経営していた。彼は眉毛の濃い顔立ちで小柄でしっかり者だが、心が広い人物で宿無し同然だったアルファを快く受け入れてくれた。

 その件については、喜多原優希(きたはらゆき)の果たした役割を語らなければならない。彼女は、大龍の隣にある喫茶店カノンを経営している喜多原仁(きたはらじん)の娘だった。

 優希は甚平のお気に入りで、彼に頼まれて大龍の手伝いをしていた。ショートヘアの明るい看板娘で、歌手を夢見ている十七才の乙女だった。その若い娘がアルファを一目見て頬を赤らめた。女子高生にありがちな運命の出会いだった。そこで彼女は彼を引きとめようと甚平にあれこれと働きかけた。

 主人が一人で調理場にいるときを狙って作戦を開始した。

「おじさん。お願いがあるの。きいてくれる? 」

 セーラー服を着たかわいい女の子が猫なで声で手を合わせるので、

「なんだい? 給料の前借かい? 」と訊くと、

「違うの。一生のお願いなの」という。

 その様子が真剣なので、

「いいよ。いいよ。何でもきいてあげるよ」と請け合うと、

「ありがとう」と元気よく答え、

 こっそり耳打ちをするように

「アルファさんが大楽にずっといられるようにしてほしいの」

 甚平が目を丸くすると、急に心配そうに

「だめ? 」と尋ねた。

「ははあ。もしかして・・」と眉をつり上げると

「違う。違う。そんなのじゃないの。

 あの人、行き先もなさそうでかわいそうじゃない」

 子どもをあつかう保育士のような口ぶりだった。

 主人は、アルファにはちょっと危険な香りを感じて警戒していたのだが、彼にはこういう才能があるのだと感心した。そこは楽天的な甚平のこと、ちょいと白衣の袖をまくって腕をくみ考えるふりをして、

「よし。優希の頼みとあれば断れないよ」と笑みを浮かべた。

 彼女は喜んで彼の手をにぎり「ありがとう」とお礼をしたが、

「でも、絶対、わたしが頼んだって言わないでね」と口止めをした。

 彼が黙っていると手を離し、

「言ったら、おじさんとは絶交だから」と、にらんだ。

「わかった。わかった。優希に絶交されたら、おじさん、泣いちゃうよ」

 女子高生は勝ち誇ったように晴れやかな表情を取り戻し、

「それじゃ、お願いね」といって駆け出した。

 甚平は独り言。

「ああ、青春だね」


                *


 行合覚がときどき大龍を訪れていたので、桜木拳士郎とは顔見知りだった。彼らはアルファを救済したことで、それまで以上に親しくなった。

 三人の若者たちは、それぞれに個性は異なるのだが妙に馬があった。まるで旧友のようだった。それぞれの孤独のなかに突然飛びこんできた異人。しかし、彼らは互いに刺激を受け、信じ合うことのできる異人だった。そこで覚も甚平に頼んで大楽の住人となったのである。


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