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砂の涙  作者: 日野 哲太郎
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砂の涙ー2

 天使リウは、天の世界から宇宙へと突きだした出城ホワイトシールドにいた。そこには宇宙の異変をいち早く察知する情報機関があり、地の世界へと繋がる秘密の通路があった。彼女は、そこを通って世界各地にいる人類のユートピア創造活動を支援していた。

 天使は悪魔の蛮行に胸を痛めていた。X氏は、地上に平和をもたらす神の使者の一人だった。天使はその日、妖怪の女王の罠からX氏を救おうと急性の偏頭痛を与えたのだが、彼は強い意志力でその痛みを振り切ってしまった。リウにもそれ以上彼の人生に関与することはできなかった。X氏の命運はその壇上で尽きていた。彼はあとに続く者を信じて悪魔の凶弾に倒れたのである。

 天使にとっては、古今の文献に通じ、神の経綸を理解していたX氏の死は痛手だった。彼は歴史に根ざしたすぐれた文明批評を展開したばかりではない。経済や科学にも精通し、核兵器や環境破壊の危険性にも警鐘を鳴らし続けた啓蒙家だった。世界平和を願って問題の現場におもむいては人びとの声に耳をかたむけ、わが身を削るように解決案を執筆し、積極的に教育・講演活動を展開していた。悪魔にとっては目の上の瘤だった。しかし、天使の庇護下にあったX氏を簡単に抹殺することはできなかった。そこで妖怪の女王は彼をおびきよせる罠を仕掛けた。それが今回の講演会だった。

 天使はそれを逆手にとった。悪魔の罠に罠を仕掛けた。三人の若者たちをX氏の講演会へと導いたのはリウだった。彼らは、X氏の意思を継ぐ者として巷間から選ばれた戦士だった。世界の各地には、天使から選ばれた神の使者や愛の戦士が数多く存在する。彼らは光と闇との闘争の最前線に立ち、暗闇の世界に迷いながらも光を求め、歴史の舞台裏で活躍し、未来の扉をひらく勇者たちだった。著名人ばかりではない。名もなき者たちも数多くいた。

 そのとき天使リウは、若者たちに非常に辛い使命を与えようとしていた。それはこの物語を読んでいただければ分かることである。しかし、彼らがその使命をまっとうしたとき、それが後世に希望の光を灯すことになるのは神様の予言だった。リウは、キューピットに依頼し、矢の精度を極限にまで高めてもらった。天使が悪魔に仕掛けた罠とは、彼女に恋をさせることだったのである。

 妖怪の女王である悪魔ミウは不死の霊だから恋しても死ぬことはないだろう。しかし、これは人間にとっては耐え難いものだった。いかに情熱をそそいでも決して成就することがなく、未来には過酷な運命が待っているからである。心臓が引きちぎられてしまうかもしれない。そこで天使は、女王の恋人をサポートするために二人の若者と巡り会わせた。彼らは小さな豪傑であり、小さな知恵者だった。

 一人には、魔物と敢然と戦う勇気があった。彼は行動力のある戦士だった。一人には、天使と交流するアンテナがあった。彼は未来への水先案内人だった。しかし、彼らは、見た目にはどこにでもいそうな若者たちだった。ヘラクレスは神なき時代には誕生し得ないのである。

 神の掟により、天使にも人間の自由意思に関与し、人間をロボットのように動かすことは禁じられていた。それでは人間がこの世に生きている意味が失われてしまうからである。彼女にできることは、彼らを巡り合わせ、インスピレーションを与えて彼らをサポートすることだった。最後には彼らの力量と友情とがものをいう。リウは彼らを信じ、彼らに賭けたのである。

 うるわしい天使は演壇に駆け寄った若者たちにそっとささやいた。

「いずれ、あなたがたとは行動をともにする日が来るでしょう。

 それまでは、どうか元気で、負けないで」

 若者たちは空中を見あげた。どこからか聖母のようなやさしい声がしたように思ったからである。



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