責任
どうしてこんな事になっちゃったんだろう?
気がついたら、クレジットカードで買い物をするのが当たり前になってて
給料は全部、クレジットカードの支払いで消えていく
だから毎月の生活費や買い物を、またカードで…
でもカードって、実際にお金を払わないから、調子に乗って使ってしまう。
そして、気がついたら、私には返済不可能な借金が残っていたと言う訳…
そんな時、クラブで知り合った功治…
『なんだよ、金に困ってるの?しょうがねえなあ~』そう言って、5万円ポンと渡してくれた
もちろん、ホテルまで付き合ったけど・・・。
その次に逢った時、その次も、功治は5万円づつ渡してくれた
『寝るたびに5万ね…イイかもしれない』
私はそんな事考えてたんだけどそんなに人生甘くなかった。
功治は私の借金の金額を聞いて、驚いてたけど
そのうち『なあ、俺の叔父さんに頼んでまとめて返してもらおうぜ』と言いだした
もちろん、その叔父さんが立て替えてくれるって事だけど
本当にそうなら、どんどん膨らんで行く利子の分だけでもずいぶん楽になる
私は、功治に連れられて、その叔父さんに逢いに行った
話の途中で、叔父さんは
「そうしなさい、利子を払うなんてバカらしいから」
とその場で現金を出してくれた。
私は借用書を書いて、署名・捺印したけど、
功治をすっかり信用してた私は、中を良く読まなかった…
気がついた時には、私は悪徳金融会社にすっかりつかまってたって事
功治はそこの新入社員。
私のようなバカな女をつかまえて自己破産しないように見張り、
自分の所に取り込んでしまう
借金のカタに、どこかに売り飛ばされても、
ちゃんとした証文も取ってあるし文句は言えない…
私の場合は手っ取り早くソープだった
まあ、騙された、と気がついた時から、だいたい想像はしてたけど…
事務所に呼ばれた私は社長(功治の叔父さんと思ってた)に言われた
『君にはソープに行ってもらおうか』
やっぱり・・・社長は私が嫌がらないのを見ると、どこかに電話をかけて話し始めた
『どうせ行くなら、給料高いところがいいでしょ?お金も早く返せるしね』
そう言いながら、社長は相手の人と話を勧めている
結局私はその日からソープで働く事になった
店につれて行かれ、いろいろ話を聞いて、すぐに働くのかと思ったら何やら支度があるという
店長が『ここに行って来い』と私に地図を渡した
店からホンの数分の所に赤丸がつけてあって
『行けば判るようになってるから』と言う。
『まさかと思うけど、逃げたらどうなるか…』
そんな事言われなくても、私にだって判る。
覚悟を決めたらやるしかないでしょう
そう思って地図の通りに歩いて行った
ついた先は床屋だった。何度見ても地図の赤丸の場所はここ?
何気なく中をうかがってたら、店の中から店員が出てきて中に入れと言う
『○○ちゃんね』私はさっき店でつけてもらった源氏名を言われ、うなずいた。
『座って』男はそう鏡の前の椅子を指した。
私は言われるままに座った。
いきなり首の周りにタオルを巻かれ、驚いた。
その後カットするときに付ける白いクロスも巻かれ、どう考えても髪を切る状態になってる
『ところで、何するんですか?』
顔剃りでもしてくれるのんだろう、と思ってた私は
溢れてくる不安な気持ちを隠しながら聞いてみた。
それでも私の質問に男は答えなかった。
私の髪に霧吹きで水をかけ次にくしで梳きはじめた。
鏡に自分の姿がうつっている。
白いクロスを巻かれ、その上に肩下20センチくらいの髪が垂れている。
その髪を梳かしている男の姿も見えた。
『だから、何なんですか?』
私は鏡越しじゃなく、男にじかに言おうとして振り返ろうとした途端、
男はすごい力で私の頭を押さえた
『いいから、動くな』
かなりどすの効いた声で言うと、またひたすら髪を梳かす
私は、何か言い知れない恐怖と、
さっきの男の手の力を思い出してそれっきり、
まるで縛られてるかのように、動けなくなってしまっていた
男はようやく梳かすのを辞めると自分の胸ポケットに入れていた鋏を取り出した
私は反射的に頭を動かそうとしてしまったが、それより早く男の手が頭を押さえ付けた
『動くな、と言っただろう。怪我するぞ』
男は私を気遣って言ってるというより脅迫めいた口調だった。
ドアが開き、1人の男が入って来た。
功治だった。
私は何か言おうとしたが、恐怖に何も言えず、ただ鏡の中の功治を見つめていた。
功治も何も言わず、私を見、そして男にも無言のまま頷いた。
男が片手に持ったくしでもう1度私の髪を梳かすと、いきなり肩のあたりに鋏を当てた。
そして閉じていた刃を開くと、一気に閉じた。
そのするどい刃に挟まれたサイドの髪が『ジョキッ』と言う音と共に切り落とされた。
『ひえっ…』
私はのどの奥から、情けない驚きの声を出し、体がわずかにのけぞった
『な、何をするのっ?』
思いの外大きな声が出た。
鏡にうつった私は、サイドの髪がぷっつり短く、肩の上辺りで切られていた。
『髪をね、切らせてもらいますよ』
もうすでに切っているくせに、今更ながら男は呑気な言い方をした。
それが逆に、有無を言わせない、と言う気迫を生みまたしても私は何も言えなかった。
功治もすべてを知っているのだろう無表情のまま、私を見つめていた。
そして、今度は後ろの髪に鋏が入る。
『ザクッ・ザクッ…』
鋏は容赦なく私の長い髪を切り落とし、その度に長い髪が下に落ちていく。
バサッ、バサッ、と30センチはあるだろう私の切られた髪は、
白いクロスを滑り床に散っていった。
私の身体は小刻みに震えだし、手は椅子から離せなくなっていた。
『あうっ…』のど奥がくっついてしまった様に、嗚咽のような声しか出ない。
男の左手は、私の頭頂部に置かれ、私はまったく動けなかった。
反対側のサイドの髪を、鋏が襲う。光る刃に挟まれた、かと思うと
その刃によって、ばっさりと切り落とされてしまった。
『ジョキッ…』
まるでやまびこの様に、いつまでもその音が耳に残っていた。
床には無数の長い髪が散乱し、鏡には肩の上で髪を切り揃えられた私がうつっている。
男は無表情のまま、私を見ると、鋏をしまった。
(これでおわり?)私の束の間の安堵は、長くは続かなかった。
男は鏡の横に作りつけられてる棚の扉を開けた。
男の影になって、何を取り出したかは、とっさに判らなかったがそのすぐ後、
男の手に持っているものが見えてしまった。
『いや~~っ』
私はとっさにそれを確認し、そして叫び声をあげた。
それでも男は眉ひとつ動かさず、私の後ろに回り込んだ。
『これが何をするものか、判ってるんだな』
鏡越しにそう言われたものの言葉にならない。言いたくなかった。
『君の勤める店は、いろいろな職業の制服があるんだよ
それで、君は尼さんになるって訳…なかなかみんな嫌がるからね』
男はそう言いながら、手に持った物ーーバリカンのスイッチを入れた。
『い、いやあ~~っ』
私はその黒く光る物から逃げようと頭を激しく振った…
しかし、男の大きな手に、さっき切られて短くなった髪をがっしりつかまれて、
頭を固定されてしまった。
『いいから、じっとしてろ…すぐにきれいに刈ってやるからな』
バリカンの音とともに、男の声が私の耳に響いた。
そして、バリカンの鋭く光る銀色の刃先が、私の額に近づいて来る。
男の手が、後頭部の髪をつかんでいるため、逃げる事も出来ない!
『やああ~~』
声を出してみたが、男の手は止まらずバリカンが、私の額数センチの所まで迫る。
そして…
『うぃぃ・・・・ん・・・』
ホンの一瞬、痛いような気がしたが、それはバリカンの先があまりにも冷たかったからかもしれない。
額のほぼ真ん中に入れられたバリカンは、男の手によって容赦なく、頭頂部に向かって進み、
そして私の髪を、髪を根元近くからばっさりと刈って行った。
バリカンが通った幅だけ、髪が刈られ地肌が見えている。
『う、ぐう・・・』
私はのどの奥からこみ上げてくるような声を出し目から涙が溢れた。
嗚咽がもれないように、唇を噛んで、鏡を見た。その時、こめかみにあてられたバリカンが、
またも私の髪に食い込んで根元からばっさりと刈り落としていった。
男の手は休まず動き、今度は耳の横、回りの髪を刈っている。
白いクロスには無数の黒髪が散り、バリカンが入る度に、それは増えていった
私はもう声を出す事も出来ず、下を向き、自分の髪が刈り落とされていくのを見ていた。
身体中の力が抜け、手も冷たくなっていた。
男は後ろにまわり、私の頭を更にわずかに下に向かせた。
そのすぐ後、うなじにバリカンがあてられ、下から上へまたバリカンが入る
首筋に冷たい感触と、頭を震わせるような振動が伝わる度に
私の髪がどんどん刈られているのだった。
バリカンが通った後の、地肌に近い所を、男の指が触れる。
やがて、すべての髪が刈られて行ったようだ。男がバリカンのスイッチを切った。
急に辺りの音がなくなり私は反射的に顔を上げた・・・
そこには無残にも頭を刈られすっかり丸坊主になってしまった私の顔があった。
『・・・』
私は何も言えずに鏡にうつった自分と、そして切り落とされたおびただしい量の黒髪を見ていた。
『仕上げはこれだ』
男はそう言って、シェービングクリームを泡立て、私の頭に塗り始めた。
わずかに残っていた髪が、真っ白な泡で覆い尽くされると
男は剃刀で私の頭を剃り始めていった。
『じょり、じょり・・・』
泡と一緒に、残っていた髪もすべて落とされ、剃刀のあたった所が、青白く見えている。
私はもう抵抗するすべてに力を失い、されるままになっているしか出来なかった。
やがて、すべての髪を剃り落とすと、男はタオルで私の頭をきれいにし、
クロスやタオルもはずしてくれた。
それでも私の手は、椅子の肘掛けを強く握り締めたままだった。
『終りましたよ、とてもキレイだ』
ようやく動けるようになった私は、ふらつく足で立ちあがり後ろに立ってる功治の所まで歩いて行った。
功治は私を見下ろすような顔をし相変わらず無言のまま、手に持っていた帽子をかぶせてくれた。
今まであった髪が、すべてなくなってしまった私の頭には
その帽子はブカブカだった・・・。
そして、私はまだふらついている足で店を出た。
自分で蒔いた種は自分で刈り取らなくてはいけない
そして『人生そんなに甘いもんじゃない」そう思いながら。
本当に初期の初期の頃の作品。
かなりベタな設定ですが、意外とこう言うノーマルな話、好きでした。