テスト
学校からの帰り道、紅はぼーっと歩いていた。
「はぁ……いい子ぶるのも結構疲れるもんだな。向こうなら悪そうなやつとっ捕まえて殴り合いに持っていけるのにこっちじゃそれも出来ねぇからストレスが半端ない」
空を仰ぎ、ため息をつくと思いっきり空へ拳を振り上げた。
「虚しい……誰でもいいからあたしの相手をしてくれるやつはいねーのか!」
閑静な住宅外に響く物騒な声が、誰に聞かれるでもなく流れて行った。拳を下げ、目を瞑ってつまらなさそうにもう一度ため息を吐いた。
歩き出そうとした紅の耳に、叫び声に似たものが聞こえてきた。あまりにも遠く、わずかな音だったので、耳をすませつつ辺りを見渡す紅。
「たーすーけーてー!」
声が急速に近づいてきて、初めてその声が”上”から聞こえてきていることに気付く。紅は声の方向を見つめ、目を凝らすと一直線にこちらへ落下してくる何かがあった。
「助けてって……いやいやちょっと待てそんなこと言ってられ、ギャアアアア!」
身構える間もなく、その何かは弾丸のような速度で紅の顔面へと突っ込んで行った。あまりの衝撃に、紅は意識を手放してしまう。
ぺちぺちと頬に当たる柔らかな感触に、ゆっくりと目を覚ます紅。何があったのか理解が出来ず、仰向けになったまま辺りを見渡すと、そこにはふよふよと浮かぶ変な生き物が紅を見つめている。
「……あたし、死んだのか? よく分からん人形が目の前に浮かんでるとか」
「いやいや、生きてるよ。よく分からないとか失礼じゃないか?」
「おぉ……人形みたいなやつが喋った」
「人形じゃないよ、僕はフェアリーのルート。ぶつかったことは謝るよ、ごめんなさい」
ルートと名乗った生き物はぺこりをお辞儀をすると、釣られて首を動かす紅。まだ混乱しているようで、目の前の生き物が何かを理解していないようだった。
「実は僕、魔法少女になる子を探してるんだけど君を見てビビッと来たんだ! 見た目がすごくこの……げふん、君なら強い魔法少女になれると直感が告げてるんだよ。どうかな、僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ」
「魔法少女? まぁ何でもやってやるからとりあえず静かにして欲しい……頭痛い」
「なってくれるんだね! それじゃ君の名前を教えてくれるかな」
「名前ぇ? 茜ケ崎紅だよ」
「アカネガサキクレナイ、だね」
ルートは何処からか赤く丸い石のような物を取り出し、紅の頭に押し当てた。
[認証を開始します。マスターネーム、茜ケ崎 紅 パートナーフェアリー ルート マスターの魔法少女適正ありと判断し、契約に移行します]
何処か機械的な言葉の後に、石が輝き始める。輝きは徐々に大きくなっていき紅を包み込んでいった。
「お、おい! なんだよこれ!」
「なにって、契約だよ。君が魔法少女としてどんな感じになるかコアデバイスが判断しているんだ、すぐに終わるからおとなしくしててね」
ルートの言葉通り、1分もしない内に光を収束していった。そこにいたのは、赤を基調としたフリフリのロリータ服を身に纏い、呆然と立ち尽くす紅がいた。
「契約完了、いやーすっごく可愛いよ! これぞ魔法少女って感じだよね」
紅の周りをぐるぐると回り、服のことを言い出すルート。紅自身も恐る恐る自分の姿を確認し、とても可愛らしい格好をしていることを認識した。
「だ……」
「ん? どうしたの紅ちゃん」
「だせえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
全身を震わせながら、窓を叩き割らん勢いで叫ぶ紅。すぐさまルートの胸ぐらを掴むと、思いっきり揺さぶり始めた。
「あたしがいきなり魔法少女になるってのは今は目を瞑ってやる! だがこのくっそだせぇヒラッヒラの服はどうにかしやがれ! あたしはこういう服が大っ嫌いなんだ!」
「あ、あるぇ?! この前から見てた限りではすごく大人しそうな子だったのに、性格が豹変しすぎじゃないですか?! 好みの子だったから目をつけてたのに」
「インベーダー相手に戦う魔法少女の選考理由がてめぇらの好みだと? そんなふざけた理由でよくもまぁあたしを選んだもんだな! ちなみにこっちが元ヤンであるあたしの素だよ、文句あんのか」
目の前まで引き寄せ、ルート相手にメンチを切る。人……もといフェアリー1体くらいなら簡単に殺せるほどの眼光であった。
「ご、ごめんなさい……でも、君に魔法少女としての適正があるのは本当なんだ。コアデバイスも適正ありって言ってただろう?」
「コアデバイスぅ?」
「君の胸元についている赤い玉のことだよ。それが君を魔法少女に変身させるアイテムであり、君自身の様々なステータスを表示したりも出来る優れものさ」
「ふーん。変身させるアイテムってことはあたしの服装を変えることも出来るんじゃないか? おい、コアデバイスとやら返事をしやがれ」
[聞き及んでおりますマスター。服装に関してですが、初期登録時の今であれば変更は可能となっております。どのように致しますか?]
「……えらく流暢な日本語話すなお前]
[多世界に対する同時翻訳を致しておりますので、マスターにとって最も馴染みのある言葉、つまり日本語に聞こえるようになっております]
つらつらと話すコアデバイスに若干引きつつ、紅は自分の要望をぶつける。
「出来ればこう、服装は格好いい感じにしてくれないか? 布は少なめにして動きやすい感じにしてもらえると助かる」
[マスターが図を頭の中で思い描いて頂ければそちらを再現致します]
「ふむ……こんな感じか?]
紅は目を瞑って、着てみたい服をイメージする。するとコアデバイスが輝き、先ほどのように光が紅の全身を包んでいき、またすぐに収束していく。
[マスターのイメージを参考に形成致しました。色に関しては特に記述が無かったので先程と同じ赤を基調とさせて頂きました]
そこには、チューブトップブラのような胸だけを覆う服と、ホットパンツを履いただけの非常にセクシーな姿をした紅がいた。
肩を回し、軽く柔軟運動を始める紅。柔軟が終わると、服装に満足が行ったのか、腕を組んでうんうん頷いている。
「そうそう、こんな感じこんな感じ。ある歌手がこんな服しててずっとかっけーって思ってたんだよ」
「いくらなんでもセクシー過ぎない? へそ出しだし胸も強調されてるし……お尻もいい感じだよ紅ちゃん」
「てめぇは注意したいのか興奮したいのかどっちなんだよ」
「ごほん、あまり気にしないで欲しい」
咳払いでその場をごまかすルート。目の前のフェアリーを訝しみつつも、特異な存在と現象に、改めて自分が魔法少女になったことを感じる紅。
[マスター、服装の件が問題なければ話を進めたいのですがよろしいでしょうか]
「おう、ありがとうなコアデバイス。何の話をするんだ?」
[遅くなりましたが魔法少女に選ばれたこと、おめでとうございます。それに伴い、マスター自身の基礎身体能力の向上、病気や怪我に対する治癒能力の向上が適応されます。それと魔法少女として、マスターに合う基礎魔法を選定致します]
「基礎魔法? なんじゃそりゃ」
首を捻って胸元に話しかけるが、基礎魔法とやらを調べているのかコアデバイスが黙ってしまう。それに気付いたルートが横から話を続けだした。
「紅ちゃんが今後インベーダーと戦うために、根っことなる魔法をコアデバイスが選んでくれてるんだよ」
「根っことは? 色々な魔法が使えるんじゃないのか」
「色々な魔法は使えるけど、その根底になるのがこの基礎魔法。基礎魔法を元に、魔法少女は成長して自分だけの魔法を覚えていくんだよ」
「へー自分だけの……いちいち自分で1から魔法を考えないと駄目なのか?」
「いや、君が強くなれば勝手にコアデバイスが魔法を増やしてくれるよ。でも、同じ基礎魔法であっても、使用者によって発展の仕方が違うから、全く同じ魔法が生まれることはほぼ無いんだよ」
「膨大な魔法があるってことか、管理がめんどくさそうだな」
ルートと話を続けていると、また紅の胸元が光り輝いた。
[マスターの基礎魔法が決定致しました。 基礎魔法名 ”インパクトギア” 初期魔法名は ”インパクトハンマー” となります」
「インパクトギア?」
「その名の通り、衝撃を使う基礎魔法だよ。自身の打撃による衝撃を増幅し、自身に対する衝撃を軽減するという近接向けだね」
[基礎魔法が決定致しましたので、次はウェポンデバイスを決定致します。こちらで選定することも可能ですが、マスターの希望はございますか?]
「基礎魔法とウェポンデバイスによって君の魔法の方向性が決まるからね、しっかりと考えて決めるといいよ。お勧めは鈍器のような武器かな」
「いらん」
ルートの説明を無視し、たった一言で片付ける紅。
「そうか、いらないんだね……え、いらない?」
あまりにも予想外の一言だったのか、思わず聞き返すルート。
「武器を使うのはあたしのポリシーに反するからな、武器はいらん」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ウェポンデバイス無しに戦うなんて無謀だ。それに衝撃を増幅するだけの基礎魔法でどうやってインベーダーを相手にするつもりなの?」
右手の握りこぶしを掲げ、それを見つめる紅。ルートもつられて彼女の拳を見つめた。
「人間だろうがインベーダーだろうが関係ない、あたしが喧嘩に使うのはいつだってこいつだけだ。それを曲げる気は無い」
「馬鹿じゃないの?! 相手は何十mを超える時もあるのに、それを殴るって言うの?!」
[マスター、お節介だとは思いますがウェポンデバイスは選ぶべきです。グローブ型、ガントレット型のデバイスもございますのでご検討ください]
「断る。グローブ型だろうがなんだろうが何かを手につけて殴るのをあたしは認めない。装備して戦えと言うなら魔法少女として戦うつもりも無いぞ」
ガンとして意思を曲げない紅に呆れ果てるルートとコアデバイス。しばらくの沈黙後、ため息をつきつつ、彼女の意見を認めることとなった。
「仕方ない、ウェポンデバイスは無しでいこう。その代わり、後からやっぱり欲しいですと言っても渡せない場合もあるよ、それでもいいんだね?」
「構わん、ありがとうなルート」
[よろしいのですが、ルート様。今後の活動に大いに響くと思われますが]
「紅ちゃんが魔法少女やらないとまで言うならここは折れておくしかないよ。実際にインベーダーと対峙した時に心変わりするのに期待しよう」
諦め気味のルートの前に、手のひらが差し出される。何事かと思いつつ上を見ると、紅がルートに向けて笑顔を向けていた。
「ワガママ聞いてくれてありがとうな、ルート。あたしのことは紅でいいよ」
「……あぁ、こちらこそ僕のワガママを聞いてくれてありがとう、よろしくね紅」
小さな手をしっかりと握り締め、お互いよろしくする紅とルート。新しい魔法少女が生まれた瞬間であった。




