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ゼロ魔道士と愛着天使



『アレン=ルテインさん。あなた、私のパートナーにならない?』



目の前に舞い降りた天使は、姿を現すなり急に訳の分からない事を言い出した。



急な事で理解が追いつかない、この天使は何を言っているのだろう。


そんな俺の意図を読み取ったのか、その天使は続けて言い放った。



『アレン=ルテインさん。あなたは魔法が使えない、魔法線欠陥症……ですね?』



どうしてそれを知っているのだろうか。魔法線欠陥症だからなんだと言うのか。


魔法線欠陥症とは、右手と左手から身体全体に伸びる二本の魔法を使う為の線である。


何らかの形でそれを損傷する事を魔法線欠陥症と言い、侮蔑を込めた意味ではゼロ魔道士と呼ばれ、意味は魔道士適性ゼロの省略である。


生まれつき左右どちらかの魔法線が損傷しているケースはよくあるが、生まれつき両方が欠如しているケースはごく稀である。



『魔法が使えないからなんだよ……馬鹿にしに来たのか?わざわざ天使様が?』



魔法線欠陥症の人間を迫害する人種はそう少なくない。魔法線が無いだけで散々疎まれていた。


今はそれよりもこの天使がなんで俺を探していたか、だ。



『とんでもありません。あなたには、やって頂きたい使命があるのです。』



俺にわざわざやって欲しい使命ってなんだよ。と呟きながらその天使を見詰める。


よく見れば青白く輝く髪には艶があり、 なぞらえたように水色の大きな瞳は見る者をうっとりさせる魔法がかかっているようだ。 程よく整った顔はまるで美少女を描くがその肢体はまだ幼女のようで、 天使特有の羽が小さく低身である。年は十歳前後といったところか。


天使の正装のような白いドレス・ローブを着用して頭には三角帽子を眉の辺りまで被っている。左手で抱くように持つ魔術書を見る限りグリモワーラーと呼ばれる魔道士のようだ。


その少女は俺を真っ直ぐ見つめながら帽子の中の本を手に取ると、俺に差し出した。



『あなたにはこれを使って、世界を救って欲しいのです。』



『…………ハイ?』



それは180度何処から見ても魔術書だった。魔法線欠陥症の俺に魔術書を手渡すなんてやっぱり馬鹿にしているとしか思えない。


『当然、それは普通の魔術書ではありません。魔法線欠陥症、別名ゼロ魔道士でも扱える魔術書です。』



どういう事だろう。魔法線が欠如している時点で魔法は使えないはずなのだが、そんな物があるなんて聞いたことがない。


しかしその少女は続けてこう言った。


『本来魔法線とは魔法を使う上で必須では無いのです。』



その言葉はさすがに衝撃的過ぎた。もしそれが真実であると魔術学会に進言したら魔法線欠陥に関する記録を根底から覆す事になるだろう。


しかし天使はその職務上、嘘は付けない。 万が一女神に嘘がバレれば天使職を剥奪され、羽がもぎ取られるという。


それが天使の「掟」である。


『必須ではないってどういう事だよ?それじゃまるで俺でも魔法が使えるって事じゃないか?』



重要な事だった。 俺が迫害されてきた最大の理由がそれなのだから。 もしそれが本当なら俺でも魔道士になる事ができる。 幼き頃から憧れていた、叶わぬ夢だと嘆いていた魔道士に……。



『確かに魔法線欠陥症の方は通常は魔法を扱えません。しかし、魔法線が無いのはそもそも特殊な力によって魔法線という名の制約が解除された結果になるのです。』



この天使の言っている意味がようやくわからなくなってきた。


魔法線が力を与えているんじゃなくて魔法線は魔法を制するためのものだったっていうのか。


『知っての通り、魔法線とは魔法を使うための線です。しかし、魔法線が"切れた"ことと"存在しない"ことでは全然話が変わってきます。先程も言った通り、魔法線とは制約。魔法を扱い易いようにする代償に(ほとん)どの魔法の使用が封印される呪いです。』



魔法線とは神の御加護である。と、誰が言ったが……あながち間違いでは無いらしい。呪いらしいが恩恵はもたらしてくれるもんな。


『魔法線が無い者。それはすなわち、魔法の制約がない代償に使える魔法も無制限という訳です。』



そうだったのか。と漏らした声も気付かないほどに衝撃的な事実だった。ならば何故皆は魔法線欠陥症を呪いだなんだと忌み嫌うようになったのだろう。


その天使は俺の意図を汲み取ったかように続けて言い放った。


『昔、一人の天才的魔道士がいました。彼は生まれつき魔法線欠陥症だったのですが、いつかその名を知らぬ程高名な魔道士となり、人々に魔術を教えて周りました。やがて彼は七つの魔術書を書き、死の直前にそれを最も才能のある七人の弟子達に渡しました。』



伽話(とぎばなし)かな。あまり聞いたことはないが。



『しかし、 弟子達は七つの魔術書を奪い合い、争いました。幾年の歳月が経ち、 やがて勝ち取ったのはその七人ではなく、 最も才能の無かったとある一人の凡人でした。 その凡人は師と同じく生まれつき魔法線が無く、 最も才能に恵まれなかったのです。 しかしその少年は、 彼が残した八つ目の書を受け取り、そこにはこう書かれていたのです。 』


「呪いを持たぬ者は、 魔法に最も恵まれた者だ」


『と。 少年はその師の遺言を知り、 彼以上の魔道士になりました。』



『それってお伽話(とぎばなし)なのか?』



『いいえ、実在した昔話よ。』



ならば何故それを現代の人達は知らないのだろうか。それ程昔の話なのだろうか。



『この昔話は隠滅された出来事なの。天使の中でも知っているのは女神様と私だけ。私の知る限りはね……。』



隠滅。 物騒だがわからないでも無かった。 もし魔法線がない者の方が良的な魔法が扱えると知れれば迫害者にとっては自分は"呪い"であり魔法線欠陥症者は重宝される。 迫害者からみたらそれでは面白くない。



『でも何で俺みたいなのを誘ったんだ?魔法線欠陥症の奴なんてゴロゴロいるだろ。』



そこが一番の不信点だ。 そもそもまず何故俺を対象にしたかがわからない。 天使なんて恵まれた存在ならもっと人員も選べるはずだし、この本で世界を救うという意味もまだ謎だ。



『最近、女神様によって封印されていた七つの書が持ち出されたの。』



『魔術書ってさっきのお話のか?』



『ええ。女神様は危険なものだと理解していたからその少年から八つの書を預かっていたの。 奪われた魔法の書は炎、風、雷、水、光、闇の六種を極めた魔術書。かなり昔の文字だから解読は困難。でも万が一それが解読されれば世界が滅んでもおかしくないわ。でも、それだけだったから幸いだったわ。』



『そうなのか……?でも何でそれが幸いに繋がるんだよ?』



痛い所をついて申し訳ないがそれはかなり重要な点だと思う。八つの内六つも出回ればほぼ終わりじゃないか。しかも魔法線のある"普通"の魔道士でも扱えるのだから厄介過ぎる。


『わからない?氷と無属性、つまり八つ目の書。通称ゼロ魔道士の書はまだこちらにあるの。氷は私。後のことはわかるわね?』



なるほど、俺に差し出すこの本は世界を壊しかねない伝説のゼロ魔道士の書という訳か。本当に面倒くさい。面倒くさいが仕方が無い。



『超断る、悪い。』



場の空気が一瞬凍った。氷の書を持つこの天使さえ凍りつかせるほどの空気が場を支配した。


本当に心苦しいがそんな大役俺に任されても仕方ない。だって古代文字なんて読めないし。読める文字は世界共通のルーン文字とルテイン族特有文字だし。しかも世界を救うなんて大それたこと、俺のしょうに合わないし。



『ええ……えと、え?え、え、え?あの、え?』



うわあ、めっちゃ動揺してる。なんか可愛い。


でも悪い、マジ無理。



『だって考えてみろよ。俺そんな古代文字なんて読めねえもん。』



それは最もの理由だ。読めない本を買うほど馬鹿な奴はいない。それは俺には不相応の本だ。



『それなんだけど…私、女神様から解読書貰ってるからこれで読めるはず。ていうか一応ルーン文字で翻訳書いたからそれで何とか……。お願いします!』


なんか凄い気が引ける。でも見返りがないとやる気が……。


『もちろん全部集められたあかつきには何でも一つ願いを叶えるって、女神様のお墨付きだから。』



何それすごい!それ早く言わなきゃ天使様。



『しょうがねえなあ!百歩譲って願いを二つ……にするなら考えてらやらないでもないなあ!』



我ながら現金でゲスな性格だ。魔性ですらあるな。



『くうううっ!?わかった!何とか女神様に掛け合ってみるから……』



『ならばよしっ!行ってやろうこの天性の呪い解きの幸運の神様が、呪いの書を集めたろうではないか!』



調子に乗りながら天使からバッとゼロ魔道士の書をひったくってゲラゲラと高笑いしていたが、その天使は涙目でありがとうと頭を下げていた。本当いい娘この子!


何、こんな美少女に頼まれ事をして、女神様のお墨付きで、こんな素晴らしい魔法の書まで貰えて、破格すぎる条件に乗らないなんてアホの極みだ。


『ありがとうアレンさん。あ、私アリス=エンジェルって言います。よろしくねっ!』


『ふっ。こちらこそよろしくだアリスよ。ところで、俺魔術まだ何も習得してない訳だが……。』


『『…………あっ』』


自分で言ってなんだが肝心な事を忘れていた。さっき言った言葉が恥ずかしい……


まずは魔術を覚える練習から始めよう。

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