イラストリア王国
★王国首脳部
【国王】
五百年以上にわたって連綿と続くイラストリア王国第二十二代国王。
考え深く軽挙妄動を嫌うが、行動するに際しては果断。歴代の王の中でも五指に入る傑物。ローバー将軍および宰相とは幼馴染みで、公私にわたる友人である。
【ライル・ライオネル・カーライル卿】
国王の腹心にして王国の宰相。実務の面で国王を支える忠臣(侯爵)。実はローバー将軍の、歳の離れた又従兄。又従弟の、将軍らしからぬ無礼な態度に頭を痛める事も多いが、その才能は買っている。疲労やストレスが溜まると攻撃的になる。
【イシャライア・ローバー将軍】
イラストリア王国第一大隊長 兼 王国軍総司令官 軍務系法衣伯爵家の三男。
豪放磊落な性格で、裏でこそこそ動く貴族を嫌っている。しかし脳筋というわけではなく、戦術的・戦略的な思考も苦手ではない。普段からべらんめぇ口調で話し、礼を失したかのような振る舞いをする事が多い。ただし、真に尊敬できる相手には礼儀正しく振る舞える。貴族相手の暴言は、礼遇の必要無しと考えているため。尤も、親しい相手にも気の置けない態度――本人の基準では無礼ではなく親しみの表現――を取るために、本人の意識はともかくとして、傍目には誰彼構わぬ礼儀知らずにしか見えない。
現国王の幼い頃からの友人であり、士官学校時代の同期。国王からの信任も厚い。
【マンフレッド・ウォーレン卿】
イラストリア王国第一大隊司令部幕僚 伯爵家の三男
ローバー将軍の懐刀として知られる。優秀な戦略家ではあるが、やや頭でっかちに考えすぎるきらいがある。しかし、最悪の事態を予想するという点では役に立つので、自分も周囲の人間もあえて修正しようとはしない。
考えなしに動くクロウの挙動に振り回され、イラストリア王国だけでなく周辺の国々まで巻き込む歴史の濁流に翻弄される不幸な人。
実は根っからの負けず嫌いで努力家。子供の頃の渾名は「三倍返しのウォーレン」。
【イェルマイア・ローバー卿】
ローバー将軍の長兄(次兄は物故)。まだ爵位は継いでいない。身体はあまり丈夫でなく、軍の実戦指揮よりも後方で戦略を練るのが得意なタイプ。病床にある父軍務卿に代わって、実務を執っている。現在の肩書きは軍務卿代理。
【ロウリッジ卿】
イラストリア王国の農務卿。
【マーヴィック卿】
イラストリア王国の商務卿。冷蔵箱に関わる件を一任されて過労死寸前。
【ルボワ卿】
イラストリア王国の内務卿。警察および公安関係も統括。隠し事を掘り出してくるのに妙に長けている。子供の頃のローバー将軍と国王が摘み食いをする度に、それを見つけた実績の持ち主。
【バーモット卿】
イラストリア王国の財務卿。
【マルシング卿】
イラストリア王国の外務卿。
★王国軍第一大隊
【ダール】
イラストリア王国第一大隊司令部付き下士官
ウォーレンの部下として、国内外の各地で情報収集にあたる。子供の頃に住んでいた村の助祭の薫陶を受け、考古学の知識がある。
【クルシャンク】
イラストリア王国第一大隊司令部付き下士官
ウォーレンの部下として、国内外の各地で情報収集にあたる。冒険者崩れで、やや粗雑な話し方をする。
【オンブリー】
イラストリア王国第一大隊司令部付き下士官
ウォーレンの部下として、痕跡や遺留品などの調査と分析――警察で言えば鑑識に相当――を担当する。
【モンク】
イラストリア王国第一大隊所属の兵卒
画才を買われてエルギンの町まで、マール少年の人相確認に連れて行かれた。
【ボリス・カーロック】
イラストリア王国第一大隊第五中隊所属
ローバー将軍の甥(末の妹の次男)。本作では影が薄い。
【ジャンス】
イラストリア王国第一大隊第五中隊歩兵第二小隊の最先任分隊長。配属されて間もないボリス・カーロックの副官兼教育係を任される。
★領地貴族
【オットー・ホルベック卿】
エルギン男爵。亜人融和派。
若い頃隣国マナステラに留学しており、その縁でマナステラのクリーヴァー公爵(当時は公爵嗣子)と知り合った。クリーヴァー公爵家の断絶に際し、その三男マールを密かにイラストリア王国に引き入れようとした。
【バレン男爵】
経済的に先細り――その理由は自分の浪費と放漫経営――な自領の将来を憂えて、短絡的にシルヴァの森侵攻を企てた貴族。ローバー将軍曰く、「悪運ばかり強いド腐れ貴族の腐れ外道」。ヤルタ教の支持者であり、エルフや獣人など亜人の迫害の急先鋒。
エルフの嘆願に動かされたクロウの「壊れたダンジョン」スキルによって領軍の半数以上を殲滅された上、領都での放火テロとそれに続く広域的な通商破壊戦によって経済的な崩壊の道を辿らされる。後に領地衰亡の責任をとらされ、王家の――非公式な――介入によって隠居させられた。
【ヴァザーリ伯爵】
バレン男爵と並ぶ亜人迫害の旗頭。交通の要所に位置するという領都ヴァザーリの利点を生かし、奴隷貿易で財をなす。そのためもあって亜人の人権など徹底的に無視する立場を崩さず、ヤルタ教の強力な支持者である。
各地からヴァザーリに運び込まれた亜人たちは、ここで各地に売られてゆく。なお、人間の奴隷には反対の者も、「亜人は人間でなく人間以下の存在」というヤルタ教の主張に流されて奴隷売買を容認しているのが実情である。
クロウたちによる二度の攻撃によって商都としての地位が揺らぎ、経済的に衰亡してゆく。後に領地の混乱を抑えるため、長男によって毒殺された。
【エグムンド男爵】
ホルベック卿の妹の嫁ぎ先。
【オーレンス子爵】
ホルベック卿夫人の弟。その夫人はホルベック卿夫人の親友の妹。
★その他
【パトリック・ハーコート卿】
某男爵家の三男坊。
骨董趣味の度が過ぎて、自分でも発掘に手を出すようになったという道楽者。友人である宰相に考古学の知識と為人を見込まれて、シャルドの「封印遺跡」調査に引っ張り込まれた。
【アンブローズ・スパイン教授】
イラストリア王国王立講学院の魔術学科主任教授。専門は古代魔法学。
シャルドで新たに発見された遺跡に封印の跡があると聞き、若手を押しのけて調査団に立候補した。学者としては有能で、魔力もそれなりに強いものを持っている。ただし、ペテンに関する経験は無いに等しく、クロウの偽装にあっさりと引っかかった。
【マーベリック卿】
イラストリア王国王立講学院の学院長。専門は社会学。
亜人排斥とまではいかないが、心情的に人族至上主義の傾向があり、その事を隠さないために誤解される事が多い。実は、彼の人族至上主義には一応の根拠がある。単に尊大なエルフや脳筋の獣人たちを好きになれないと言うのではなく、社会学者として、高度な国家を作らない亜人たちを高く評価できないためである。特に、魔術に長けてはいるものの森から離れる事のないエルフに対しては失望を隠そうとせず、技術の進歩から目を逸らす懐古主義者と見なしている。
一方で、学問に対してはどこまでも厳しく誠実であるために、学者たちの間では案外と評価が高い。
亜人排斥派・亜人弾圧派と誤解されがちだが、本人は無駄な争いを嫌う平和主義者である。亜人を善導すべしというヤルタ教の教義には共感を覚えたものの、ヤルタ教の実態が単なる亜人弾圧派である事を知ってからは距離を置こうとしている。
政治的な感覚は相当に欠如しており、学問は誰にでも――ヤルタ教含む――広く開放されるべきと考えている。国家の思惑で研究内容を秘匿する事には批判的。単なる学問馬鹿でない分だけ、王家にとっては扱いづらい人物。
田舎の騎士爵家の四男坊だが、学者としての功績により准男爵位を得た法衣貴族。
【ボッカ一世】
ヤルタ教の教祖にして初代教主。敵対者からはバカ一世と蔑称される。
王国中東部の地方領主の三男。本人が主張するように神の啓示を受けたのではなく、単に獣人やエルフが気に入らなくて虐待していたのを、理論武装のために「神の恩寵を受けたのは人族のみであり、従って人族には、恩寵を受けなかった亜人――この差別的な単語もボッカ一世の造語――たちを善導する義務がある」と主張して、亜人の教導という名目で奴隷化していたところ、都合よく使えそうな名目に気づいた資本家や貴族たちが擦り寄って来て、一大勢力を築くに至った。今ではイラストリア王国だけでなく、周辺の国々にもそれなりの数の信者がおり、各王国の頭痛の種となっている。
教団が大きくなってからは、その主張がもともと亜人虐待のための口実だった事は忘れ去り――と言うか、神が自分の心を導いてくれたのだと勝手に記憶を改竄している――神の意向を体現するのが自分の使命だという信念に凝り固まっている。その一方で、本質的には金と栄誉を欲しがる俗物。ただし指導者としてそれなりの能力とカリスマを有しており、自分に忠実な部下に対しては誠実である。




