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病院のベッドの上で……

 遠くから何か音がする……


 金属同士が擦れ合うような音、堅い床面を歩く音……


「……さん…………しますから…………ね」


 落ち着いた感じの女性の声がする……


 僕はゆっくりと目を開ける。


 真っ白い天井に太陽の光が反射して眩しい。


 ナース服を着た年配の女性がのぞき込んできた。


「吉原さん! よかった…… 気がついたのね。いま先生を呼んできますから!」


 女性は慌ただしく部屋を出て行った。 


 どうやらここは病院の個室のようだ。シンプルな狭い個室空間に、安っぽい液晶テレビ、棚にはきれいな花が飾れている。

 僕の左手首には点滴のホースがつなげられ、ビタミン剤のような成分がゆっくりと投与されている。


「僕は…… 死んでなかったのか……」


 主治医らしき男性医師が来て、聴診器を当てたり脈を測ったりされながらいろいろと話を聞くことができた。

 僕がトラックにはねられそうになった時、運転手が咄嗟に右にハンドルを切ってくれた。そのおかげで車体に当たることはなかったが、左サイドミラーが頭に当たった。こめかみの部分を中心に、8針を縫う大けがを負ったものの、命に別状はなかったそうだ。


「吉原さんが緊急入院してちょうど1週間です。その間、意識が戻りませんでしたがナースの話ではよく笑ったりうなされたり、怒ったり困ったりしているような表情を浮かべていたようです。無意識下で夢を見るような状態に置かれていたのかもしれません」


 男性医師はそう話した。


「1週間ですか…… 確かに僕は夢を見ていたような気がします。夢の中ではもっと長くて…… 1年以上は経っていたような気が……」


 すると、男性医師はすっと立ち上がって、


「まあそういうもんですよ、夢というのは。現実よりもより現実らしく、時には現実を超えるような体験ができるもんです。長い夢を見たと思っても、それが一瞬の睡眠時間の中での出来事である場合もあります」


 と、言い残して病室のドアを開ける。すると入れ替わりに母が入ってきた。


「健太よかったぁ…… 無事に目が覚めたのね……」


 母はしばらくの間、ハンカチで涙をぬぐっていた。

 母が落ち着いてから僕は気がかりだったことを恐る恐る訊く。


「あのさ…… アパートにいる猫たちのことなんだけど……」


 返事を聞くのがこわい。もし、誰も帰らない部屋にあの子たちが置き去りにされていたら……


「病院から連絡があってすぐに駆けつけたのよ。手術が終わったのが真夜中だったけど、健太が目を覚ましたら開口一番の言葉は分かりきっていたから、タクシーでアパートに行ったの。でも、猫ちゃん達はどこかに隠れているのか出てこなかったから、お水とご飯を出しておいたわ。でも不思議なのよ…… 毎日様子を見に行ったけど、ご飯がそのまま残っているの」


 母の返答からは安心感も絶望感も沸いてこなかった。

 チョコ、ミーコ、トーラ…… どうか無事でいてくれ!


 退院まで2日は様子を見たいという担当医師を説得して、一時帰宅という名目で何とかアパートに戻れた。


 スチール製の階段を上がると『カン、カン……』と足音が響く。

 部屋のドアの前で制止する。


 ……怖い。


 中に入るのが怖い。


 ドアに鍵を差し込む。


 『カチャリ』と鍵が開く。


 …………。


「ニャー……」


「――――っ!」


 僕は勢いよくドアを開ける。そこには三匹の猫たちが出迎えてくれていた!


ここまで読んでいただきありがとうございます。

あと数話続きます。現世に戻った主人公の変容ぶりを楽しんでいただけたらと思っています。


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