白い光に包まれて……
イオリさんの姿をよく見ると、体が透けていた。
息が荒くて苦しそうだ。
「イオリさん大丈夫ですか?」
「私のことは心配しないで。それよりも吉原さんのさっきの言葉ですが……」
「……分かっていますよ。死んでこの世界に来た僕が現世に帰るなんて――」
「そうではありません!」
僕の言葉を遮るようにイオリさんは続ける。
「この子たちの里親になるなんて無理な話です。何万匹もの処分された犬猫の集合体なんですよ?
それを安易に里親になるなんて言う吉原さんに私は怒りを感じています!」
イオリさんは涙目になっていた。こんな悲しい表情の彼女を初めて見た。
僕は短絡的な考えを口にしてしまっていたようだ。
でも……
「僕はこの子たちの記憶の断片に触れて分かったんです。この子たちは苦しくて悲しくて、絶望的な気持ちで短い生涯を終えました。でも…… 魔王としてこの世界に転生して…… こんな薄暗い洞窟の中でただ居るだけの存在なのに…… それでも生きていたいって…… そう考えているんです、この子たちは! 魔王を討伐して消滅させれば我々や町のみんなは救われるかも知れない。……でも、それでは現世で起きた悲劇の繰り返しです! 不幸な子達は安楽死させた方が幸せだなんて、人間の思い上がりです! 僕にはできません…… 勇者失格です……」
僕は情けない男だ。みんなの期待に何一つ応えることができなかった……
手足から力が抜けてひざまずく。
チョコ、ミーコ、トーラの3人が寄ってくる。
「それでもマスターは俺たちのマスターだ」
「ケンタさんは素敵な人です。私は大好きですよ」
「ケンちゃん――」
チョコが僕の背中から勢いよく抱きついて、ミーコとトーラはそっと僕を抱きしめてくれた。
ああ、僕はこの3人がいてくれるならどんなに苦しくても生きていこう。そう決意した。
「吉原君。私もその3人のネコちゃんと同じ気持ちよ。それにあなたは立派な勇者よ。あんなに多くのネコちゃん達を統率していたじゃない。きっとあなたの決断はみんなが支持してくれるわ」
そう言って、篠原さんは優しく微笑んだ。
「お二人の気持ちは分かりました……」イオリさんは静かに話し始める。
「この子達は何万という数の犬猫の魂です。現実にはこの子達全員を救うなんて無理な話です。でも、あなたがた人間には支え合い、協力することで不可能を可能にする力があるとか…… この世界の命運をお二人に託します…… 吉原さん、篠原さん…… お元気で……」
この世界で最後に見たものは、半透明で今にも消えそうなイオリさんの顔……
でもその顔はとても晴れやかで、力強い笑顔だった。
真っ白い光に包まれて、僕の意識は遠ざかっていった――――




