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犬が大好き篠原雪子さん

「やあ、始めまして。吉原健太といいます。もふもふの町の勇者をやっています」


 僕は相手の出方を探るべく、なるべく友好的に接した。

 すると相手の女性もニコリと微笑んであいさつを返してくる。


「始めまして吉原さん。私はわんわんワールド代表の篠原雪子と申します。あなたとてもお若いですね。おいくつですの?」


「19歳です。あ、生前の話ですが……」


「まあ、まだ未成年ですの? その若さでこちらの世界においでになるとは…… よほど猫ちゃんがお好きなんですね! それに…… ホホホ」


 篠原さんはきっと勇者の3番目の条件のことを言っているんだろう。でも年齢は聞かないがこの人だって30代で『いなくなっても困らない』認定されたんだろ? まあ、僕はそんな失礼なことは言わないけどね!


「まあそうですね。僕は猫が大好きなんです。篠原さんの犬好きには負けませんよ!」


「あらあら、(わたくし)ワンちゃんと一生を添い遂げるべく結婚届を出しましたのよ。まあ、受理はされませんでしたが……」


 アブナイ人だ、この人……


 僕は若干引き気味になるも反論する。


「僕は猫3匹を飼っていましてね。3匹同時になでなでしてゴロゴロの3Dサウンドを奏でることができるんですよ」


「私は3匹のワンちゃんに全身をペロペロと…… ゴホン! 何を言わすのあなたはっ!」


 ……どうしよう、こわくなってきたんですけど。


「ところで篠原さん、本日は皆さんで遠足かなにかですか?」


「そうなの。今日は天気が良いから皆でぞろぞろと…… っていうわけないでしょう? この間はうちの子達が随分お世話になったようね。今日はそのお礼に来たのよ」


「いやー、お礼なんてそんな。まあ、折角だから頂いておこうかな?」


「ち、ちがっ…… お礼じゃなくてお礼参りに来ましたのよ!」


 顔を真っ赤にして手をビュンビュン振り回しながら言っている篠原さんは悪人ではなさそうだ。


 しかし――


「お礼参りとは物騒なことですね。そもそも前回はそちらの犬耳軍団さんが我々遠征隊の獲物を横取りしようとして返り討ちに遭っただけの話ですが、それはご存じですか?」


「えっ? そ、そうなの? あの子達から聞いた話とは大分違うけど……」


 そう言っておろおろし始める篠原さんは悪人どころかいい人のようだ。


 これで誤解も解けて戦いは回避されるかと思っていたのだが……


(わたくし)たちはあなたたち猫耳軍団を倒して魔王討伐へ向かうことにしましたの。だから理由はどうであれ戦っていただきますわよ!」


「魔王討伐が目的なら僕らに構わずどうぞ行ってくださいよ」


 僕は至極当たり前のことを言ったつもりだが、彼女は『はあっ?』と言う表情で……


「吉原さん、あなたこの世界のルールをご存じなくて?」

 と言われてしまった。


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