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勇者の条件

「おにいちゃんが(さば)いたモンスター肉美味しいね!」


 リズムが僕の隣でニコニコしながら食べている。

 今日の食事担当はチョコとミーコだ。

 自分達は2人で一人前だからとか言ってそういうことになっていた。

 まあ、それはいいのだが、肉と魚ばかりなので彩りが少ない。

 もっと野菜を使わないと!


「お二人の料理も美味しくなりましたね。私も育て甲斐があります」

 いつもは厳しいコメントばかりのイオリさんが久しぶりに来ていた。

 あの厳しさは二人を育てるためだったのか!

 僕は今までイオリさんを誤解していたようだ。

「お魚もおいしいね、おにいちゃん!」

 リズムが夕方の一件から僕に懐いてくれている。

 リズムが『おにいちゃん』と言う度に他の女性メンバーが顔を引きつらせているのが気になるが……


 夕食後、イオリさんに僕が勇者に選ばれた理由を訊いてみた。


「そうですね。まずは猫好きであること。それが第1条件です」

 なるほど、それはクリヤーしているぞ。

「次に自分の命よりも猫を優先できる強い意志があることです」

 それはさすがに厳しいぞ。

 いくら猫好きの僕でも自分の命よりも猫を優先させるなんて。

 僕が首をひねって考えあぐねていると、

「吉原さんは自らの命を省みず銀色の猫の命を助けようとしてくれました」

 銀髪のイオリさんがニッコリと微笑んだ。

「そ、そういうことだったのか。あれは勇者選びのためのテストだった?」

「事前のリサーチにより選び抜かれた勇者候補への最終試験だったのです」

 

 僕は現世での最後の瞬間を思い返してみた。

 チョコ、ミーコ、トーラの待つ家路を急いでいた僕は猫の親子を見た。

 車が勢いよく走行する路肩でパニックになっていた2匹の猫を助けたくて……

 次の瞬間には車道に飛び出していた。

 あの無鉄砲さが勇者の条件ということなのだろうか。


「実はもう1つ条件があります……」

「それは?」


 イオリさんは言おうかどうか迷っている様子。

 僕は何が何でも聞きたい。

 他のメンバーは僕を心配そうな表情で見てくる。

 そんな表情で見られるとますます気になるぞ!


「イオリさん、心の準備はできていますよ」

「そうですか。では、最後の条件ですが――――」



 僕はその夜、初めて酒場で酒を飲んだ。

 この世界では酒に年齢制限はないらしいが、特に興味がなかったので飲まなかったのだが……

 今日は飲まずにいられるか!

 いつもは厳しいイオリさんも気を遣ってくれている。

 シフォンがぐいぐい酒を勧めてくれてるので調子に乗ってがぶがぶ飲んだ。

 気が付いたら大人3人は酒場で朝を迎えていた。


 ズキズキ痛む頭を抱えながら店の外へ出る。

 朝日が眩しいぜ。


 最後の条件が『突然いなくなっても困らない人』とはねー。

 それで歴代の勇者は年配の人が多かったのか。

 対して僕は19歳の若さにして仕事でもプライベートでも、僕がいなくなっても……


 だめだ…… 涙が出てきそうだ。


 この涙は朝日が眩しいせいだ。


「ケンタ、家に帰ろう!」

 シフォンが僕の肩をポンと叩いてそう言った。


「ケンちゃーん!」

「ケンタさん……」

「おにいちゃん」


 3人も朝帰りの僕らを心配して迎えに来てくれたようだ。


「シフォン…… 僕に剣の稽古をつけてくれないか?」

「もちろん! しかし手加減はしないぞ?」

「臨むところだ」


 そして強くなって、魔王でも何でも倒してやる。

 シフォンがこれ以上傷を負わないように僕が守ってやるんだ。


 僕はシフォンの頭にポンと手をのせて微笑んだ。


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