シフォンの背中
夕食までの時間を自室で寝転んで過ごそうと思ったが、シャワー室に汚れ物を置きっぱなしだったことを思い出した。この家では洗濯物は各自でというのがルールなのだ。食事はともかく洗濯物を輪番制にするのは何かと都合が悪いからね。
自室からシャワー室の扉代わりの間仕切りカーテンを空けると……
素っ裸のシフォンが立っていた。
「――――っ!」
シフォンは慌てて背を向けてタオルを腰の位置に巻いた。
真っ白なシフォンの身体は、すらっと伸びていて腰周りはふっくらと柔らかな曲線美を醸し出していた。ちらっと見えた胸は意外と大きくて、きっと着やせするタイプなんだろう。
僕は慌てて廊下に戻ろうとするが――
「ケンちゃーん、入るよー?」
「モンスター角の売り上げ金…… 持ってきました」
「あれ? 部屋にいると思ったけど」
「ケンタさん…… いませんね」
「シャワー室に誰かいるみたいだけどケンちゃん?」
チョコとミーコがこちらに近づいてくる。
マズいマズいマズい! いまこの状況を見れると確実に誤解される。
『ロリコンのぞき魔』なんて呼ばれかねない!
「シフォンがシャワーを浴びているはずですよ」
リズムの天使のような声だ。
「なんだ、シフォンかあ…… じゃあケンちゃんはどこへ?」
二人の足跡が遠ざかっていき、ホッと胸をなで下ろす。
「ごほん! キミは一体何をしにここへ? 私の裸をのぞきに来たのか?」
シフォンは腰にタオルを巻いたものの、バスタオルという概念がないこの世界では背中をモロ出しの状態で僕をキッと睨んでいる。
これはマズいぞ…… 言葉を間違えると大変なことになりそうな予感がする。
「僕はシフォンの裸を見に来たわけじゃない。あっ、見たくないというわけじゃないよ。どちらかというとご馳走様という気分だ。しかし―――― えっ?」
完全に言葉を間違えている気がしてならない。でもそれにも増して気になることが……
「背中のその傷は……」
そう、シフォンの背中には無数の傷跡があった。
中には致命傷レベルではという大きな傷もみられた。
「この傷は…… 先代の勇者様と共に戦った時の古傷だ」
「シフォンのように強い戦士にそれほどの傷を負わせる相手がいたというのか?」
「魔王城の周辺には沢山いるぞ? 私など足下にも及ばなかったのだ」
「先代の勇者はどのくらい強かったのか?」
「……先代は、72歳の高齢者だったからな。戦いには参加していない」
「えーっ? そうなの?」
「ちなみに先々代も転生されてきたときには60代後半からだったと聞く。この世界に転生される勇者は軒並み高齢者であり、19歳という若さあふれるケンタは非常に希少な存在なのだ。」
衝撃の事実を知ってしまった。
僕がなぜ勇者に選ばれたのか、その理由を知りたいという欲求が湧いてきた。
「だから私はケンタに出会ったときは興奮したよ。キミこそが私が待ち望んでいた勇者様だとな…… しかし私の見込み違いだったようだ。女の裸を堂々と覗くようなデリカシーのない男は認めない! 今ここで成敗してくれる!」
『シャキーン』と剣を抜くシフォンの誤解を解くために、僕は命がけで言い訳をした。




