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両刃の剣の構え

『ザクッ―― ビシュゥゥゥゥゥ――――!』


 僕が解体作業をしている様子を遠巻きに見ているパーティーメンバー。

 今日もキラキラが盛大に吹き出してくるぜ!


「リーダーの剣は包丁代わりにもなるのか。さすがだ!」


 シフォンさんがそう言った。皮肉を言われたかと思って彼女の表情を覗ったが、真剣に僕の解体作業に魅入っているようだった。それにしても……


「シフォンさん、リーダーという呼び方変えてくれません? 照れくさいし慣れないし……」

 それに僕にはリーダーと呼ばれるほどの強さはない。

 シフォンさんはアゴにてを当てて考え事をしているようだったが、

「リーダーはリーダーでいいと思うのだが…… ではどう呼んだらいいのだろうか?」

 と、逆に質問されてしまう。


「そうですねー、チョコは『ケンちゃん』、ミーコは『ケンタさん』、イオリさんは『吉原さん』と呼んでいますがどれにします?」

「そこから選べというのか…… ケンタさんでいいか?」

「では『さん』を外してケンタでお願いします。シフォンさんは僕より年上ですよね?」


「――――うっ!」


 そのシフォンさんの反応を見て、ようやく自分の無配慮さに気づいた。

 大人の女性は自分の年齢を隠したがるものらしい。

 イオリさんにまた叱られちゃうー!


「あー、間違えました。僕もシフォンと呼ばせてもらうのでそれでいいかな?」

「ああ、そういうことか。ならばそうさせてもらおうかな……」

 我ながら『間違えました』という言い訳も苦しすぎたが、シフォンはそれで納得してくれた。年齢についての話題を終わらせたいということだろうか。


『ズバッ! ブシュゥゥゥ――――』

 僕はキラキラを浴びながら高値で取引される角を切り離した。

「おー、さすがはケンタだ。見事な包丁さばきだ!」

 シフォンはパチパチ手をたたいて称賛してくれた。

 


 *****



「ところでケンタ、キミはそれだけの包丁さばきを習得したのに、なぜ狩りの時は後方に下がっているのだ? もっと前線で活躍できると思うのだが…… それほどの包丁さばきができるのなら」


 今度こそシフォンが皮肉を言ってきた。

 ――と思ったらまた真面目な表情だった。


 どうしよう? 純粋にシフォンは僕を戦力として考えてくれている。

 曲がりなりにも『勇者様』なのだから当たり前といえば当たり前か……


 僕がそんな情けないことを考えていると、

「ケンちゃんは剣の腕前はショボいんだよー」

 とチョコがニヤリとしながら挑発的なことを言ってきた。

「おいっ、聞き捨てならないことを言ったなチョコ」

 僕はモンスターの解体作業を中断してチョコと対峙する。


 チョコが背中に斜めがけしている長剣の柄を握る。

 『いつでもかかってこい』という構えだ。

 対する僕は刃わたり70センチの両刃の剣を両手で構える。

 中学校の体育で習った剣道の構えが基本だ。


 遠征隊に参加していたとき、僕ら2人はこうやって剣の練習をしていたのだ。そのことを知っているミーコとリズムは黙って眺めていたが、シフォンは何事が始まったのかと困惑しているようだ。


「ま、待て2人とも!」

 シフォンが割って入ろうとするが、

「止めないでください。剣の腕前を馬鹿にされたからには引き下がれないのです」

 僕は剣士になりきって格好を付けてみた。

「ならば、せめて構えをこう! 両刃の剣に相応しい構え方をするが良い!」

 と言って、シフォンが僕の構えを直してくれた。

 肩の高さに両手で柄を握り、切っ先を相手に真っ直ぐ向ける構え。

 なるほど、これなら両刃の剣特有の突き攻撃もできそうだ。


「ぷぷぷ、ケンちゃん良かったね-、シフォンに教えてもらっ――ええっ? わ、私も?」

「キミは身体が小さいんだから、無理をせずにきちんと両手で構えるのだ!」


 チョコもシフォンさんに構えを直されていた。

 柄の頭をこめかみの高さに、切っ先を斜め下に構える。

 身体の割に長い剣を弧を描くように振り回しやすい構えになっている。

 小さな戦士、動きの速さが自慢のチョコにはこの方が向いているだろう。


「ぷぷぷ、よかったなチョコ、構えがまともになってきたぞ」

 僕は先程のお返しをしてやった。


 チョコは『ぐぬぬ……』と悔しそうに睨んできた。

 いつになく真剣な目だ。

 チョコの構えがぴたっと静止し、いつでも攻撃できる態勢になっている。

 僕はちょっとビビっている。

 いや、正直に言おう…… めちゃくちゃビビっている。

 相手は曲がりなりにも本職の戦士なのだ。

 対する僕は社会人2年目19歳、ただの地方公務員だ。

 ヤバい……

 どうしよう……

 

『ブモォォォォ――!』


 突然背後から先程と同じ種類のバッファローと猪を合わせてようなモンスターが襲いかかってきた。

「やぁぁぁぁぁぁ-!」

「うぎゃぁぁぁぁー!」

『ズサァァァァァー!』 

 チョコの長剣が鋭く弧を描き、モンスターが斜めに切り裂かれた。

 同時に僕はその場に腰を抜かしていた。


「お見事! チョコ、今の一撃を忘れるな!」


 シフォンに褒められて照れ笑いしているチョコ。

 ミーコとリズムも褒め称えている。

 僕は……

「よくやった、チョコよ。それでこそ我がライバルだ」

 と腰を抜かしたままの姿勢で言った。

「…………ありがとうケンちゃん。ところでさっき『うぎゃぁぁぁぁー!』って悲鳴を上げていた?」

「いや、空耳じゃないか?」

「そっかぁ…… そうだよね」


 なんとか誤魔化せたようだが、他の3人には完全にばれている。

 あとで口止めをしておかねば――


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