それは石炭ではありません
「昨夜はよく眠れましたか? 吉原さん」
僕がダイニングテーブルに座るなり、イオリさんが訊いてきた。
なんだか口元がひくひくしているようだけれど……
チョコは対面に座りご機嫌な表情で僕を見ている。
大事な連絡があるというイオリさんが僕を起こしに来たとき、チョコが僕と一緒に寝ているのを見られてしまった。別にやましいことをしたわけではないと説明し、イオリさんも分かってくれたはずなのだが……
「猫は生後6ヶ月で発情期を迎えますが、この世界ではチョコさんは12歳の人間の女の子なのです。いろいろと気を付けていただかないと勇者様の股間に…… いえ沽券に関わります!」
「イオリさん今わざと間違えたでしょう?」
「わざとではありません!」
と言って、プイッとそっぽを向いてしまった。
全然分かってくれていないようだった――
「朝食…… できました……」
朝食当番のミーコが3人前のお皿を運んできた。
今日から輪番制で自炊を始めることにしたのだ。
「良かったらイオリさんも一緒にどうですか?」
僕はイオリさんの機嫌をとるために言ってみた。
イオリさんは皿に盛られた『料理』を見て……
「何ですの、これ? 石炭…… ですか?」
歯に衣着せぬイオリさんの言葉を聞いたミーコは、
「うにゃぁぁぁぁ――――!」
と絶叫して火炎魔法を炸裂させようとするのを僕とチョコが必死に抑えた――
『ボリボリ…』
うん、なかなか香ばしいぞ。
『ぼりぼり……』
そうね、食べられるか食べられないかと言われれば食べられる方に一票を入れるわ!
僕とチョコが必死にフォローする中、イオリさんが淡々と用件を話し始める。
「来週は家賃の支払日です。月額14万円を現金でよろしくお願いします。万が一ご用意いただけない場合は即刻退去していただきますのでご注意くださいね、吉原さん」
僕たち3人の生活が『その日暮らし』なことを知ってるくせに……
ヤバいヤバい……
チョコとミーコと3人で野宿生活なんて嫌だぁー!




