[番外編]舞台裏で話そう
「ねえねえヤミちゃん」
「ん?」
「この話も無事1部が終わったよ」
「そうだな。一応21話、ということだが……実質何話あるか数えたか?」
「えっ?」
「え?」
「やだなあ数えてると思うのかい?」
「思わない。……で?」
「うん。ボク達はそろそろ自己紹介とかをするべきだと思うんだ」
「今更か」
「うむ。自己紹介もだが、他にも説明すべきことはあるだろう?」
「……あるか?」
「学校案内とか」
「……いる、か?」
□ ■ □
常和第三高校。
創立百年を迎えるに当たって「常和第三学園」と名を変えたこの学校には、一つの噂話があった。
曰く。怪談話がとても多い。
そして、それらは実在する。
彼らは日々学校内を闊歩し、他の生徒と変わりなく過ごしている。
授業や談笑に混じり、手助けをし、たまにはちょっと驚かしてみたりもする。
今日はそんな彼らについて話そう。
□ ■ □
理科室。もっときちんと言えば、科学室。
並んだコーヒーとお茶菓子。その前に自由に座る面々。
「と、いう訳で!」
司会進行、と挙手をするように口火を切ったのはハナだった。
「今回は設定整理」
「いきなりメタな事いうんじゃない」
ヤミの間髪入れない言葉にハナは「む」と考え込む。
「それじゃあ……そうだな。舞台裏会、とでも銘打っておこうか」
「舞台裏」
「ボク達が住んでいるこの学園とか、みんなの紹介とかをだらだら喋るんだ」
「ほう」
「……ええと。俺達の間でも周知されてない事ってあるよね」
それはどうするの? と、サクラが軽く手を上げて問う。
「“読んでいる人"が知っているのならば、それも話してもらおう。洗いざらい」
「洗いざらい……」
「もちろん、ボク達はお互い本編では知らない物として通すよ」
「そっか……」
「あと。紹介は第1部終了時点での情報までだ。名前だけの人は……ん。また次回かな」
「なるほど」
「ちなみに。舞台裏なのでメタな事も言い放題だぞ!」
「待て。それはやめろ」
□ ■ □
「彼ら」を総称する正式な名前は無い。
彼ら自身も特にそのようなものを必要としていない。
「まあ、怪談話とか噂話とかそんなふわっとした枠だよね」
「ですね」
サクラとサカキが頷きあう。
なので、ここでは「彼ら」と総称しよう。
■ 常盤第三学園と彼らの住処
「住み分けについては私が話そうか」
説明を買って出たのはハナブサだった。
「うん。よろしくお願いするよ。まずはそうだな……この学校ってどうなってるんだい? ボク達がいるところはこうして昼夜問わず自由に使ってるが、生徒はいないよね」
「そうだね。生徒達が普段居る空間と私達がいる空間は重なることはない。便宜上、生徒達が生活する空間を表、私達が普段居る場所を裏、と呼んでいるね」
「どういう仕組みなんだろう……」
ヤミが首をかしげる。
「そこはね、お互いが鏡の向こう側みたいなものだと思って欲しい。無機物だけをコピーした空間みたいなイメージだろうか」
「案内図を見るに、表の校舎がそっくりそのままコピーされた無人の学校、という感じだよね」
「そうだね。だけどその境界線を生徒達は超えることができないんだ。具体的な能力としては、カガミの管轄になっているよ」
「「はーい!」」
カガミが二人、声を揃えて挙手をする。
「無人だからー!」
「やりたい放題ー!」
「いや、今はもう無人じゃねえよ。生徒が居ないだけで。俺達住んでるから。な?」
「ねえねえ、校舎の構成はどうなってるんだい?」
こてん、とハナの首が傾く。
「大きく分けて旧校舎と新校舎があるね。理科棟と家庭科室関係が旧校舎。他は建て替えられているよ」
「あとは……ふむ。図書室とかプールは別施設か。この建物は?」
「クラスや部活で宿泊する時に使う施設らしいよ」
「あれ? 地学室は新校舎側にありませんでしたか?」
サカキがそっと手を上げて問うとハナブサは「そうだね」と頷いた。
「地学室は理科棟に近いけれども新校舎にある。何故かは……学校側の都合だから、私もよく知らないんだ」
「なるほど」
「行き来についてだけど。基本的には裏の昇降口が表のどこかと繋がっていて、私達はそこを出入り口としている」
「繋がる場所はランダムだよね」
「うん。その時々で一番人通りの少ない場所に繋がるようになっているよ」
人によっては例外もあるけどね、とハナブサは付け足す。
「あとは、そうだな。生徒や教師……学校に関わる誰かが認識したら、こっちも都度反映されたりするね」
「ほう」
「俺達の部屋は?」
教室を改造してあると思うんだが、とヤミが言う。
ハナブサはそうだね、と頷いて説明を続ける。
「教室を空っぽにして、真ん中に壁を増やしてる。その辺りだけは、影響を受けないようにしてあるよ」
「なんかすごい」
「とても不思議」
「……これもカガミの能力の一部、なんだけどね」
「「へえ、なんかすごい!」」
「こいつら自覚無しか」
「まあ、自覚は無くても変わりゃしない。性質上受け継いでるだけだ」
「……へえ」
ウツロの言葉にハナはふんふん、と頷いて黒板にチョークを走らせる。
まとめ
学校は旧校舎と建て替えられた新校舎に分けられる。
図書室、プール等、別施設となってる場所もある。
生徒達の生活空間 → 表
ボク達の生活空間 → 裏
裏は表のコピー。ただし、教室だけはほとんど反映されないようになっている。
「こんな感じかな」
「うん、そうだね」
■ 彼らの分類
「続いてボク達について。かな――ええと。ボク達は大きく分けると四つ」
「備品、人間、外来、それから噂、だな」
「その通り」
ヤミの答えにハナブサはこくりと頷いた。
「それじゃあ、それぞれについて話していこう」
1.備品 物言わぬ何かだった者
「備品は私がその代表格、かな」
ニコニコとハナブサは湯飲みに口をつけると、ハナが頷く。
「ハナブサさんは人体模型だね」
「そうだね」
「あれ」
サカキが首を傾げる。
「骨格標本は、居ないんですか?」
「ああ……昔は、居たんだけどね」
今は動かないよ、とハナブサは穏やかに言う。その表情は笑顔だが、僅かに苦そうだ。
「俺、針金であちこち巻いてあるのは見た事ある」
「修復の跡か?」
「……多分」
ヤミとタヅナがひそひそと言い合う言葉はハナブサに届いていたらしい。苦笑いをして肯定する。
「いや、その通りだよ。少々……その、やり過ぎてしまってね」
「え。ハナブサさん……?」
サクラが驚いた声を上げたが「うん。私が」という少しだけ力強い言葉にサクラはそれ以上何も言わなかった。
「なあヤミ。ハナブサは意外と」
「それ以上突っ込むな」
「お、おう」
2.人間 かつてはそうだった者
「元は人間だった、という人は多いよね」
さあ、次は君達が話してね。とハナブサが言う。
「ええと。じゃあ俺が」
話を引き受けたのはサクラだった。
「元々人だったのは俺とか、サカキくんとかカガミくん達とか……かな」
「二人に分裂してるのも居るしな」
多くも見える、とヤミが言う横でカガミがわあ、と両手を挙げる。
「きっかけはそれぞれだろうけど……噂話に影響されて、ってのがほとんどなのか?」
「あー……そうだな」
ウツロが見回しながらどんなのが居るかを列挙する。
「巻き込まれたのも居るし、気付いたらとか居たってのもある。あと興味本位とか自業自得とか、それで引きずり込まれたのも居るだろ?」
「なんのことかなー」
「わかんないなー」
「さっぱりだねえ」
「……お前ら」
「ねえねえ。カガミは昔の話あったけど」
「他の人はどうなの?」
無邪気な質問だが、数名が一瞬だけ動きを止めた。
「まあ、それはいずれ語られるはずさ。いずれね」
今は語るべき時じゃないんだよ、とヤツヅリがため息のように言った。
3.外来 外からやってきた者
「外来、というのは私のようなモノか」
「俺もだな」
春の冷たい風ような声にタヅナが首を傾げる。つられて耳も僅かに揺れた。
「うん? お前は人間だろう?」
「ん。「サクラ」は確かに人間だ」
サクラは静かに、けれども楽しそうに。八重歯をちらつかせて笑う。
「でも俺はその中に住んでるモノだ。ちなみに名前は無い」
「む。何やら難儀な存在だな」
「ん? そうでもねえよ。俺は毎日うまい夢を頂いてるだけさ」
「……そうか。それで、他には居ないのか?」
「呼んではみたが――ご覧の通り、だ」
「そうか。ならば仕方ない」
4.噂話 人の想像から生まれた者
「噂話からだとワタシ……?」
首を傾げてミサギがのんびりと問う。
「うむ。みーちゃんは幽霊部員という奴かい?」
ハナの問いに「違うよう」とミサギはぷく、と頬を膨らます。
「ちゃんと部活でてるもん」
「そこかあ」
「そこ、大事なとこ。あとは誰がいたっけ?」
「はーい、私。放送部員!」
「私が裏サイト管理人ー」
はいはい、とスイバとシャロンが挙手する。
「部活とか委員会系多いねえ」
「あと、自己主張強いのも多くないか?」
ハナとヤミが口々に言うと、シャロンが「まあね」と頷いた。
「噂にはなりやすいし、混ざる為にはコミュニケーションだって必要だからねー」
「そうだねえ。……ん。男子は居ないの?」
「ホントだ。女子しかいないや。噂話の男子だと……エディとかリラがそうだったかなー」
「そうだったねえ。次は来てくれるといいね」
そんなやり取りを聞きながら、ハナはカツカツとチョークを黒板に走らせた。
まとめ
分類は以下の四種類
・備品
・人間
・外来
・噂
■それぞれについて
「さて。あとは自己紹介――といきたいのだが」
「だが?」
「文字数がだな」
「おい」
「なので、登場人物についてはまたいつか!」
「いつかかよ」
「うむ。正直なところ「結構な人数居るし、これで本編が止まるのもよろしくない。ならば本編としてちゃんと書いていこう」という判断だ」
「まあ、妥当なところか」
「そういう事さ。と言う訳で。今回はお開き!」
またいつか!
一区切りなので番外編です。





