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[番外編]舞台裏で話そう 5

「さて」

 シャロンは自室でノートパソコンを閉じた。

 そろそろ理科室に行こうかな。なんて思いながらカバンにパソコンをしまって、教室を出ると。

「……」

 少女が二人、廊下の窓を背にして立っていた。


「理科室行くの?」

 と、灰色がかった梅色の髪が言う。

「それならば、私達もご一緒してよろしいでしょうか?」

 と、小豆茶色の髪が言う。


「……な」

「「?」」

 絶句したシャロンがなんとか発した声に、二人の首が傾く。

「なんで二人がここにいるのよ!?」



■ なんだか君が心配で


「なんでって言われても」

 と、ライネが言う。

「番外編ですし」

 と、リシュが言う。

「いや。そうだけど。そうだけどー……ってかメタなこと言わない! そんな答え求めてない!!」

 ここはなんでもありなのか、と軽く頭を抱えそうになる。代わりに持っていたカバンを抱きしめる。

 いや、きっと何でもありなのだ。番外編だもの。最悪夢の中だ。そうだと思おう。

「よし分かった。理科室行こう。私ひとりじゃきっと対処できない」

「うん。切替は早かったけど、対応できてないね」

「一番の原因が何言ってんの……」

 思わず文句が出る。

 とはいえここで頭……いや、カバンを抱えていても仕方ない。さっさと理科室に行こうそうしよう、と気を持ち直した。


「――で、二人はなんで、ええと……なんて言うのかな、巻き戻って、る? のかな?」

 理科室へ向かう道すがら、シャロンは後ろをついて歩く二人を軽く振り返りながら問いかけた。

「何でって言われても」

 ライネはその質問こそ不思議だ、と言うような顔をしている。

「あ。さっきみたいなメタな理由は聞いてないから」

「そっかあ」

 それじゃあ、と彼女は少しだけ考える素振りを見せて、人差し指をぴしりと立てて見せた。

「シャロンが心配だったから」

「……へ」

 思わず足を止めたシャロンを、二人は何でもないかのように通り過ぎていく。

 数歩過ぎて、足を止め。くるりと振り返って微笑んだ。

「シャロンのことだから、盛大に凹んでるんじゃないかと思って」

「そうですわね」

 うぐ。と言葉が詰まった。


 実際その通りだ。

 結構な期間、パソコン室に籠もって過去の記録を振り返る日々だった。

 それはそうなのだが。


「元はと言えば二人があんなことするからでしょー!?」

「まあ、うん。そこはね」

「そこは、まあ」

 二人とも仕方ない、みたいな顔をしてそんな事を言う。

「そうだね。うん。そうだね仕方ないね……」

 うんうん、と脱力感と共に頷いて、シャロンは再度足を進めた。



■ それで、今回の話とは


 理科室に着くと、そこには数名がお菓子を食べたりお茶を飲んだり。めいめいが自由に過ごしていた。

「あ、シャロンちゃん」

 やっほう、と手を振ってきたのはハナだ。

 シャロンも手を軽く振り返し、適当に空いてる席に着く。

 ハナもお茶を持って「ここいいかい?」と隣の席へとやってきた。

「それにしても今回は大変だったね」

 お疲れ様、と小皿に盛ったマドレーヌが置かれる。

「それでさ。結局のところ……今回の原因はあれかい? 話の変化が起きたこと、でいいのかな?」

 他に目立った要因ってなかったよね。とハナが皿からひとつ摘まみながら呟く。

 シャロンもひとつ口にする。しっとりしているのに、さくりとした食感がとても良い。仄かな甘さの中に蜂蜜の風味がする。

「そうだね。話が悪い方向に変化すると、こういうこともある。そんな話」

 ライネが頷きながらマドレーヌを口に運ぶ。数度咀嚼して「おいしい」と笑い、お茶に口をつける。

「まあ、悪い話になったとしても。それを上手く取り込めたら良かったんだけどね」

 私はそうはいかなかったのよ。と、ライネはカップの水面に視線を落としてそう言った。

「そこでうまくいってたら、どうなってたのかな」

「さあ、どうなってたでしょうね」

 シャロンの疑問に、ライネは何事もないかのように答える。

「過ぎたことを言ってもどうしようもないし、それはそれ、IFだもの。私はどうしようもなかった。うまくできた私は、きっと私じゃないわよ」

「……うぅん。そうかもしれないけど」

 それでも諦めきれないシャロンは小さく唸る。それを見ていたリシュがふわりと笑って「まあまあ」と声をかけた。

「シャロン様。これもまた、ひとつの結末。受け入れてくださいませ」

「うん……そうだね」

 もうちょっと時間欲しいけど頑張る。と、シャロンは頷いてマドレーヌをもうひとつ口に運んだ。



■ 恥ずかしがり屋のあれについて


「「そういえばシャロンちゃん」」

「わ。……って、カガミかー」

 後ろからひょこりと現れた影に肩を揺らしたシャロンは、そっくりな二人の姿を認めてほっと胸をなで下ろした。

 カガミはにこにことしたまま「ごめんねー」と声を揃えて明るく謝る。

「それでね。カガミ気になってることがあって」

「ん? なに?」

「えっとね。あの目はどうなったの?」

「んっとね。あの子は仲良くしてる?」

「ああ。あの目ねー」

「あの目?」

 首を傾げるハナ達に「うん、ちょっと待って」とカバンからノートパソコンを取り出す。タッチパネルを叩いてスリープモードから復帰させ、ディスプレイの角をとんとんと指でノックした。

 その机に居た人達がディスプレイを覗き込むことしばらく。

 ぱち。と目がひとつ開いた。

「おお。目だな」

 ハナが驚いたように声を上げ、なるほど、と頷いた。

「話にはなんとなく聞いていたがなるほどこれが」

 ふむふむと興味深げにディスプレイを眺めるハナと、ディスプレイの目が合った。

「お」

 見つめ合うことしばらく。

 ぱちり。とその目は瞬きをひとつして。それから周囲の人をくるりと見渡して。

 すい、と瞳を閉じた。


 それきりディスプレイに目は現れなかった。いつも通りのデスクトップ画面がそこにある。


「あ。居なくなっちゃった」

「あ。消えちゃった」

「これは……驚かせてしまっただろうか」

 不躾に長めすぎたかもしれない、とハナが少し身を引く。

「人が思ったよりも居てびっくりしたのかも。ちょっとまだ恥ずかしいのかもねー」

 ごめんね、とシャロンはノートパソコンを軽く撫でる。

「カガミ、お話ししてこようか?」

「大丈夫だって、言ってこようか?」

 カガミがディスプレイを覗き込むように身を乗り出すと、紫の髪がシャロンの髪と触れてさらりと音を立てた。

「一応持ち運び用のノートパソコンだって話はしてたし、大丈夫だよ」

「「そっかー」」

 二人は頷いて身体を離す。そのままとことこと空いてる席へ移動して、皿の上へと手を伸ばし始めた。

「また遊びに行くって言っといてね」

「今度遊ぼうって伝えておいてね」

「オッケー、伝えとくよ」

 それじゃあ、とシャロンは慣れた手つきでひとつのファイルを開いた。



■ 次の話はどうしようか


「よし。カガミのおかげで色々切り替えたし、次の話をしよう。次の話」

「あら。シャロンがやる気」

「良いことですわね」

 開いたファイルをスクロールするシャロンを見て、ライネとリシュが頷き合う。

「うん。しばらく引きずるかもしれないけどそれはそれ。ここでヘコんでたら多分ライネのハサミが飛んでくる」

「いや、さすがにそこまではしないけど……」

「本当に?」

「……ヘコみ方がが酷くなければ。多分」

「その多分が怖い!」

「まあ、冗談」

「……ホントかなあ」

 じぃっとライネを見る。ライネはその視線を交わすように顔を少しだけ逸らして「ホントホント」と頷いた。

 しばらくシャロンは信じて良いのかよく分からない目でライネを見ていたが、まあいいや、と息をついて理科室を見渡す。

「それで、次のメインどころは……って、あれ。今日は居ないんだ。珍しいね」

 一緒に見回したハナも、「おやホントだ」と呟いたものの、すぐに視線を元に戻す。それから皿のマドレーヌに手を伸ばす。

「まあ、そんな日もあるだろう」

「うん。そうだね。と、いうわけで次の話は――」


 ■■■■■■■■編

 ■■■■■■編


「こんなところ」

「ふうむ。これは……人物に心当たりがあるような無いような?」

 タイトルを眺めたハナの首が傾き、前髪がさらりと揺れる。

 むむむ、と考えるけれどしばらくして「お手上げだ」と首を横に振った。

「ハナブサさんとかなら分かるんだろうけどな」

「まあ、ある人にはあるんだと思うよ」

「というか、タイトルにも伏せ字とか珍しいよね」

「うん。と言っても、これ私達以外には全部伏せ字で見えてるから分かんないと思うんだ」

「それもそうだな。タイトルはまあ、その時のお楽しみ、ということか」

「そういうこと。と、いうわけで今日はここまでね!」

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