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[番外編]舞台裏で話そう 4

「さて。12ヶ月分一周したね」

 うんうんと頷きながら表示された一覧を眺めているのはワタヌキだった。頷く度に髪が揺れて、耳元の白いピアスがチラリと覗く。

「まあ、普段なら出てこないような人にスポット当てるならって感じだよね」

 そう言って頬杖をついているのはナオタケ。今日も彼は二振りの刀を隣に立てかけている。

「それにしても今回、新しく出てきた人多くない?」

 ひいふうと指折り数え、5を過ぎたところで口が曲がった。

「多い」

「まあまあ、それは仕方ないんじゃないかな。特定の日付に関わる人ってのはなかなかスポット当てにくいし」

 そうだけどさ。とナオタケは言う。

「これじゃあ誰がどんなのだったかとか、分からなくなっちゃいそう」

「ナオタケは人の顔覚えるの苦手なの?」

「うん。あんまり得意じゃない。それにさ、オレ達みたいに名前とか人格があれば良いけどそうじゃない物とか、空間とかもある訳じゃん?」

「まあ……それはあるかもしれない。でもさ」

 と、形の良い指がつい、と部屋の隅を指した。



■ 怪談の管理って?


 ナオタケがそれを視線で追った先に居たのは。

「ハナブサさんとウツロさん?」

「その二人はもちろんだけど、そういうのが一番得意そうなのはシャロンちゃんじゃない?」

 ああ、と頷く。

「シャロンなら情報管理が出来てるかもしれない、って?」

 うん。と頷くと話が聞こえたのかシャロンがキーボードを叩いていた手を止め、画面から視線を上げた。

「確かに私、データベース作ってるけど。もっと詳しくメモしてる人、居るよ?」

 そうなの? という二人の視線に、シャロンは頷いた。

「私も昔から居る人に話を聞いたりして集めてはいるんだけど……やっぱり文献とか噂話だけじゃどうにもならないところあってさ-」

「そうなの?」

「そうなの」

「そんな人居たっけ……」

 ワタヌキが思い出そうと天井を見上げる。が、心当たりはないようですぐに首が傾いた。

「ナオタケ、見たことある?」

「んー。ないかも」

「まあ、忙しそうな人だしねー」

 もし来たら話してみるといいよ、とだけ彼女は言って、視線を画面に戻した。

 ぱちぱちと響き始めたキーの音が「これ以上の情報開示はしないよ」と語っていた。

「――まあ。そこはいつか、かあ」

「うん。いつか、だね」

 それにしてもさ。とナオタケは一覧を見ながらぽつりと言った。

「なんで4月からなの? 数字って1から始まるじゃん?」

「そりゃあ、学校が4月始まりだからでしょ」

「ああ、なるほど」

 ぽん、とナオタケは手を叩いた。

「学校の中だからね。始まりは4月。終わりは3月」

 きっとそれは絶対なんだよ。とワタヌキはにこりと笑った。



■ ぼんやりと思い出すこと


 そんなやりとりを聞きながら、ヤツヅリはリストをぼーっと眺めていた。

「……さん」

 あれ以来彼女には会ってない。会わないようにしている。保健室に居そうな日は極力外してるし、居た場合はできる限り存在感を消してベッドに潜り込んでいる。

 ベッドで休んでしまえばそのまま姿を消すことだってできるようにしてある。何せあそこにはベッドの陰になってしまっている大きな鏡がある。アレを使えば帰りは楽だ。

「――り、さん」

 彼女は保健委員としてよくやっている。叶藤に比べれば随分と大人しいけど、たまに聞こえてくる笑い声は。ああ、やっぱり彼女はあいつの孫なんだだと――。

「ヤツヅリさん?」

「あ? ごめん。何」

 ちょっと考え事してた。と、視線を向けるとサカキがこっちをじっと見ていた。その両手は何かを受け止めようとしているのか押さえようとしているのか。でも、どうしたら良いのかわからないで固まっている。そんな風に見えた。

「え。いえ。お茶が落ちそうだったので……」

「あ。ああ」

 湯のみを持ったまま動きを止めていたらしい。ありがとうと礼を言って口をつける。まだ温かい。

「なにか、気になることがあったんですか?」

 サカキ君は何かを心配した様子でじっとこちらを見ている。

「ん。心配って訳じゃない。ただ」

「保健室で会う少女が忘れられんのだろう?」

 タヅナが視線を向けもせず、言葉だけ挟んできた。

「……タヅナ。余計なこと言わなくていい」

 ちら、と視線を向けるとサカキはきょとん、とした顔をして。何かに思い当たったような顔をした。それから聞いて良いのかどうか、と迷うように視線が動く。

「ああほら。勘違いさせるだろ。うん。多分だけど。間違ってると思うから。別に何も思い残してる事はないから」

「……あ。はい」

 サカキ君も気付いたのだろう。少しだけ申し訳なさそうな顔をする。

 別に気にしなくていいと笑ってみせると、彼女はほっとしたように笑い返してきた。

 その笑顔はなんとなく彼女を思い出させた。

 よく笑っていた気がする。思い返せば表情がくるくると変わる子だったが、基本的に笑顔だったからだろうか。

「ん。ありがとう」

 俺は大丈夫だよ、という言葉は飲み込んだ。

 誰に言うつもりだったのかは分からないし。分かったとしても、もう誰にも届けるつもりはない言葉だった。

 ただ、手を伸ばしてサカキ君の頭をくしゃりと撫でてみた。

 触れたことはなかったけど。さらりとした黒髪は彼女にあんまり似ていなかった。



■ そういえばあれはどうなったのか


「そういえば」

 ワタヌキが一覧を眺めながら一つのタイトルを指差した。

 それは、結局どうなったのかが書かれていない話。

「これ、結局その後どうなったんだっけ。ねえ――ホシミ」

「ん?」

 ホシミはぱっと顔を上げた。ふわっとした髪が揺れる。その口にはクッキーが入っているらしく、もぐもぐと動いている。

「んー」

 ちょっとまってねと手で示し、お茶で口の中身を流し込む。それから彼は「そりゃあまあ」とサクラを指差した。

「法口……サクラが僕にキレて、僕の正体を突きつけたんだ」

「ホシミくん。嘘は良くない」

 隣のサクラがため息まじりで訂正をする。

 その言葉が不服だったのか、ホシミは「ええー」と声を上げた。

「キレたって。あれはキレてた。笑ってたけど。目がこう、さあ。「いい加減にして」って言ってた」

「ええ……」

 きっぱりと言い切ったホシミに対して、サクラはなんだか困った顔をしている。

 顔だけじゃなくて声も完全に困惑している。まるで心当たりがない、と言いたげだ。

「というか、サクラ君ってキレるの?」

 正直な所、彼がそこまで怒る所なんて見たことがない。イメージもあんまりつかない。僕の声にホシミは頷き、サクラは目を閉じてなんとも言えない顔をした。

「うん。顔には出ないし笑ってるけど、視線と声でキレてるなって分かる時ある」

「いや、そういうことはないと、思う。結構表情に出るタイプだと……いや、俺がキレるかどうかは別にいいんだよ。置いといて。まずは訂正させて」

「何を?」

「俺がホシミくんに対してやったのは、地学室の備品を借りてきただけ。天球図とかそんなの」

「そうそう。あれいいよねえ。曇ってても星がわかる。プラネタリウムってのも教えてくれたよね」

「うん。それでプラネタリウムに興味を持ったんだ。だから、だったら地学室で上映会でもしようか、って誘った」

 それくらいだよ。とサクラは言ったが、ホシミは「問題はその後だよ」と話を継いだ。

「俺、屋上から出るの嫌だって言ってるのに、話聞いてくれないの」

「プラネタリウムやりたいっていうのに屋上じゃできないのか、って無理なこと言うからだよ?」

「テントとか張ればいいじゃん、って言ったら、室内の方が良いって譲らないからだよ」

 二人の言葉がぴたりと止まる。唇を尖らせるホシミと、困った顔のまま小さく息をつくサクラ。二人ともそこに譲れない何かがあったらしい。

「まあ、結果としてどっちかが折れた――ん、だよね?」

 二人の間を取り持つように声を掛けると、「うん。まあ」と重なった声が返ってきた。

 何があったのかは、ここでこれ以上突っ込むのはやめることにした。



■ 次は何の話をしよう


「シャロンちゃん」

「あ。ハナ」

 後ろからひょこっとやってきた影に、シャロンは手を止めた。

「次は一体何の話をするんだい?」

「えっとねー予定としてはこんなの」

 これ、と入力されたタイトルを指差すと、ハナは「ほう」と声を漏らした。

「これはまた……大騒ぎになりそうだなあ」

「そうかもねー」


 壁に映し出されたタイトルの一覧を見て、シャロンはぱちぱちとキーボードを叩く。

 この後に控えている話のタイトルを、映し出している映像に表示する。

「これで12ヶ月の頁拾い編は終了。次の話はこちらの予定」

 たん。っと軽くエンターを叩くと壁に映し出されている文字が変わった。


 ■■■■■■■■■編

 ■■■■■■■■編


「ふふ。これでまた学校が賑やかになるかなー」

「賑やかになるよ。きっとね」

「それじゃあ、次に期待しよう」

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