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11月:貸出カード消失の謎 前編

 読書週間。

 それはみんながきっと一番本を読む日々。

 図書委員は忙しくて。図書室は盛況で。会話は感想で溢れてて。本をオススメしあったりして。


 バタバタするけどとても楽しい。

 楽しかとだけど。


「むう……」

 ウチは今、とても困っていた。

 目の前にあっとは1冊の本。裏表紙を開いた所には、紙で作った小さな袋がくっついとる。

 そこにはいつも、貸出カードが入っとるとだけど。

 今、そこは空っぽだった。

 借りている人は自分の貸出用カードを入れて。誰も借りとらん場合は、借りた人の名前が書かれた貸出履歴のカードが入っとるはずなのに。今は何も入っとらん。


 最近図書室では、名前が書かれたカードがなくなる、ということが頻発していた。

 なくなったら作れば良かし。覚えている限りの名前を書き足して、入れ直せば良かって。

 それは分かる。分かるとよ。


 でも。


「これで何冊目だっけなあ……」

「またか」

 ため息をつくと、カウンタに座らせていた人形――レイシーが声をかけてくれた。

「うん。まただよ。まったくこれじゃあ何枚作っても足りんてばー」

 ウチの泣けてくる声に返ってきたのは、ため息ひとつだった。呆れたのか、疲れたのか分からんとだけど、それがちょっとだけとっつきにくい雰囲気を作り出す。


 レイシーってばそんな風にあんまり喋らんけん、みんなに無愛想だって言わるっとよ。


 まあ、レイシーはいつものことだし、ウチも慣れとるから別に良かとだけど。

 問題は目の前だ。

 とりあえず新しいカードを取り出して、本をじっと眺める。

「えっと。この本を借りてったとは誰だったかなあ……」

 思い出して、書き留める。図書室にあった情報なら全部ウチの頭の中に入っとるけん、そんなに難しいことじゃなかとだけど。それよりもこう。色んな人が借りるためにこつこつと書き連ねていった名前が、全部ウチの字になってしまうとが少し悲しい。記録大好きなヒトノ先生とか、知ったら怒るんじゃなかとかなあ。なんてふと思う。

 でも、なくなってしまったものは仕方ない。書きあがったカードを差し込んで、ぱたん、と本を閉じた。

「これでよし。ウチ、本戻してくるけん、ちょっと待っとってね」

 レイシーに言い残し、本を抱えて書架に向かう。


 そんなに広い図書室じゃないけん、本もそんなに多くない。隙間にそっと押し込んでおしまいだ。

 戻ってくるとレイシーは本があった場所をじっと見下ろしていた。

「それにしても不思議だよね」

「うん?」

 カウンターの中に戻ってため息をつく。返却箱に入っていた本を手にとって裏表紙を開く。

「これさ。誰かが借りてったことのある本しか被害にあわんとよ」

「ほう」

 そうなのか、とレイシーが呟く。うん。とウチは頷いて、貸出履歴のカードを差し込む。

 新刊だったり、誰も借りたことがなかったり、ウチが改めて書き直したりしたカードが入っている本のカードは今の所全部無事だ。

「なんでかなあ……誰かが借りた本じゃないと嫌とかなあ」

「そのような物、思考に値することか?」

「十分値するよ!? なんでレイシーそがんこと言うと?」

「その必要性は我にとって無言に等しいからだ」

「……?」

 どう言うこと、と首をかしげる。

 レイシーの言うことは時々難しかとだけど、こう言う時はレイシーにも何か考えがあったりするんだ。

 で、何を言いたかとだろう。と考える。

「本からカードがなくなる理由、カードがなくなる本の方向性。それがどうしてか、を考えるのは。ウチが黙ってるのと同じ……」

 レイシーはこくりと頷いた。

「そのようなものはただの空想。いくら想像したとて口を開かせなければ真実を指し示そうとも妄言に過ぎぬ。真実を得たくば――」

「犯人を、捕まえて聞き出す?」

「他に何があると言う」

「さっすがレイシー!」

 ばっと起き上がって机に座っていたレイシーをぎゅっと抱きしめる。

 ぐ、っと何かが詰まるような音がした気がするけど気にしない。ウチは今、レイシーを褒めることに一生懸命だけん。 

「そうだよね。カードも大事な備品。作っとは簡単だけど、やっぱり捕まえてしまわんとね。どがんしよっか。誰に頼むと良かと思う? 確実に捕まえるって願い事するならランくんだし、監視カメラとかだとシャロンちゃんだよね。誰が良かとだろうか。ね、レイシー」

「…………いい加減、離せ」

「あ、ごめん」



 □ ■ □



 レイシーと少し話した結果、シャロンちゃんに頼んでみることにした。

「うん? 図書室の警備? 入り口にセンサー付いてないんだっけ」

「ついてなかとよね。というか、ウチが図書室におる時になくなる事もあるけん、入り口だけが怪しかって訳じゃなかとよ……」

 状況を説明すると、シャロンちゃんはしばらく考えて。

「じゃあ、誰かが動いたら灯りが点くセンサーあるじゃない? あれ、改造して置いてみようかー」

 あと、できるだけ現行犯で捕まえたいからと話したら、昼間にセンサーを置いといて、何かが動いたらカウンタに置いたライトが光るという仕組みのものを用意してくれた。


 そうして置いてみること数日。

 ちか、とカウンタに設置していた小さなライトが光った。

 光った場所がどこかを確認して、無言でカウンタを飛び出す。図書室の床はカーペットが敷いてあるから多少バタバタしたって足音は消してくれる。本当は走っちゃいかんとだけど、本棚を避けるように最短距離を駆け抜ける。

 図書室の角、カウンタの死角になるそこに、一冊の本が落ちていた。

 裏表紙がぱたり、と音を立てて開くのと、ウチがその本の一歩前に着くのは同時だった。

「捕まえた!」

 しゃがんで裏表紙を元に戻すと、拳くらいの大きさの何かがぎゅっと挟まる感覚がした。

 思わず押さえてみたけれど、姿は見とらんから、何がおるかは分からん。でも、確かにそこには何かがおる感触はある。

 そうっと中を覗き込んでみる。

 ぱたぱたと動くものが見えた。なんというか、小鳥とかエビとか。そんなものの尻尾に似とる気がする。平べったい銀色の尻尾っぽいものがぱたぱたと動いとる。 

「……?」

 少しだけ押さえている力を弱めると、もぞりと動いた。

「ねえ」

 言葉が通じるか分からんけど、声をかけてみる。答えがあれば理由を聞きたい。

「ウチの言葉が分かったら答えてほしかとだけど」

「きゅう」

 鳴き声が返ってきた。

 どっちだろう。ウチの言葉、分かったとかな?

 もう一度聞いてみると、同じようにきゅうと返ってきた。

「うぅーん……?」

 どうしたものか分からんごつなってきたので、とりあえず本で挟んだままカウンタに戻ることにした。

熊本弁入門編です。

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