シブサワ先生
「ただいまー。遅くなってごめんよ小湊さん、コンビニ混んでたー」
呑気な顔に呑気な声で入ってきたのは、今日の相方だった。
苑代を遮るように立っている男を見て、半井は一瞬眉をひそめる。
しかし男が振り返ると、「あー」とまたのんびりボイスを上げて会釈した。
「お疲れさまです。えっと…シブサワ先生」
シブサワ?
そうか、シブサワというのか。この人。
「今日が初仕事でしたね。いかがでしたか? 集団授業のご感想は」
半井の営業スマイルにも、やはり表情を動かすことなくシブサワは答える。
「マイクの存在になかなか慣れなくて。うっかり持ち忘れて、何度か地声を張り上げました。喉の疲労感が少しあります」
「あはは、それは大変でしたね。まぁぼちぼち慣らしていってください。今後とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、本日はこれにて失礼します」
そしてシブサワは上半身を斜め45度に前傾させた。
シャキッという音が聞こえてくるような、そういうロボットなんだろうかと思うほど、正確なお辞儀だった。
さらにそのお辞儀を苑代にも向けてくる。
あまりのシャキッと感につられ、苑代も急いで腰を折った。
その反動で突きだした尻が椅子の背にぶつかった。
正直かなり痛かったが、平気なふりをして「お疲れさまでした」とニッコリ笑った。