思いも寄らぬ偶然に
「授業報告書を書いたんですが、どのように提出すればよろしいですか」
苑代は数秒、ポカンとしてしまった。
誰だこの人?
報告書と言っているからには講師に違いないのだろうが、初めて見る顔だ。
あ、じゃあ新規採用の講師か。でも時期が……
「授業報告書を書いたんですが、どのように提出すればよろしいですか」
ぼんやりしている苑代に対し、顔色ひとつ変えずに彼は繰り返した。
「あ…し、失礼しました。スタッフにお渡しいただけますか」
「つまり、あなたに」
「はい、この場合は私に」
「では」
「はい」
妙な会話だ。
真顔だから余計に妙だ。
しかし、報告書を手渡すために接近してきた男は、苑代と目が合うとなぜか無表情を一変させた。
「あれっ?」
そう呟いて目を見張ったまま動かない男に、苑代の脈拍は急増する。
なに? どうした?
まさか私に一目惚れしたか?
ってそんなわけあるか!ないよねー。
でもこの豹変、意味わからないよねー。
「えーと。ほ、報告書をくださいませんか」
その驚きの事情などわかる術もなく、苑代がおそるおそる伺ってみると、男はふっと我にかえったように目を瞬かせた。
「申し訳ない。思いも寄らぬ偶然に、思考が停滞してしまいました」
「はい?」
首を傾げながら男から報告書を受け取った時、がちゃりと教務室のドアが開いた