めっ!
チャイムが鳴った。
生徒達がそれぞれの授業が始まる教室へ小走りで向かっていく。
苑代はホッと胸を撫で下ろした。
予備校というものは大抵、週休0日で運営しているところが多い。
けれど今日は日曜日。日曜日の授業は少ない。
登校するのも、平日に来られない高校一、二年生ばかり。その数自体もまた少ない。
だからなんとか一人で乗りきれた。
これが平日なら、今以上の人いきれに対処しきれず、クレームが出ていた可能性だってある。
まだ戻ってこない半井を本気で恨んだかもしれない。
「一人きりで大変だったねぇ。半井さんが帰ってきたら、めっ!って怒ったげなよ~。じゃ、お疲れさま~」
マイペースな講師はそんなことを言いながら帰っていった。
表面上はにこやかに「お疲れさまでした」と返しつつ、苑代のこめかみがピクリと蠢く。
一人“きり”って言うな!
一人、でいいじゃん! なんで“きり”って付けるの!?
途端に寂しくなるじゃん! 独身女のNGワードだぞ!
あんたにこそ「めっ!」だわ!
「あの」
うつむいて鼻息を荒々しく噴いた苑代に、話しかける声があった。
慌てて面を上げる。
見知らぬ男がそこにいた。