飛んじゃおうかな!
半井が部屋を出てから5分後、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「げっ。早く戻ってきて、半井さーん…」
呟くと同時に、生徒達が次々と教室から出てくる。
「小湊さん、コピー機の紙なくなってます」
「そう、すぐ補充するわ。A4でいい?」
「ねえ小湊さん、自販機の『つめた~い』のお茶、いつから入るんすか?」
「来週の月曜以降だそうよ」
「ちょっと寒ーい。小湊さん」
「ここにブランケットあるから使って。あとで暖房も少し上げとくから」
次の授業までの休憩時間、10分。
その間、教務室は要望のある生徒が詰め寄せ、非常に賑やかになる。
「小湊さん。昨日提出し忘れた授業報告書、いま出していい?」
しかも生徒だけではない。
マイペースな講師もやってきては、マイペースに話しかけてきたりする。
「ええ、お受け取りします」
「おや、教務室には小湊さんしかいないの?」
「今日は公休のスタッフが多くて。午前中は、私と半井だけなんです」
「その半井さんはもしかしてサボタージュかい? 困った相方だねぇ」
確かに困っています。
てんてこ舞いなこの状況に目もくれず、駄弁り続けてるあなたに!
「ウォーターサーバーが空っぽになっちゃったよー。小湊さん、水飲みたいんだけどー」
身体が複数ほしい!
千手観音になりたい! 自在に伸びる腕が無数に生えてこないかな!
でもって、空飛んじゃおうかな! 千本も腕があったら羽根っぽく動かしてさ、ホバリングくらいできそうな気がする!
無理か!重量ハンパないか!
せわしなさと苛立ちを、苑代は妄想することで分散させる。
くだらないやり方だけれど、殺傷能力ゼロの解消法なのでみんなにもおすすめしたい。