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凱旋式 前編

 皇帝が王都に到着してから数日後、王国軍による戦勝記念凱旋祭が行われることになった。

 帝国では、大きな戦勝に対して凱旋式を敢行し、以後五日間を祭りとして祝い、凱旋者を讃える伝統がある。

 それに則り、王国の戦勝を讃える事となった。


「い、いよいよだ」


 凱旋パレードに参加することになったガブリエルは緊張していた。

 何しろパレードに出れるのは各軍団から選抜された一六〇名の中隊と指名された数名から十数名のみであり、参加するだけで名誉な事だ。

 しかも特に重要な指名者の一人としてガブリエルは歩く事になる。

 本来なら軍団の全員が行進するべきなのだが、総兵力二〇〇万以上になろうとしている今の王国軍でそのような事をしたら、一日かけても終わらない。

 そのため、短時間で済ませるため、各軍団からの選抜兵のみとなっていた。

 そして、ガブリエルは特別任務に指名された十数名の一人として参加する事になった。


「受閲部隊! 前進!」


 式典指揮官の命令に従い、十列の縦隊を作った選抜兵中隊、全員戦場で何らかの戦功を立て幾つ物勲章を胸に下げた猛者達、の前を他の特別指名された兵士と共に前進する。

 ガブリエルの前には、近衛軍団の軍団旗と、騎乗したアデーレ。更に軍団の幕僚と、師団長達。

 ガブリエル達は彼らの後ろからついて行く。

 これが近衛軍団から選ばれたメンバー全てだった。

 大通りに入ると、両側は大勢の市民の歓声に包まれていた。

 王国の勝利と身近な人の無事な帰還を喜んでいるようだ。

 やがて目の前に巨大な門が見えてきた。

 凱旋門。

 多大な戦功をもたらした者だけがくぐる事を許された門。

 この門をくぐる事は、それだけで名誉だ。

 ガブリエルは、真っ直ぐ進み門をくぐり抜けた。

 門をくぐり抜けると紙吹雪が舞う中、ガブリエルは更に進んでいった。

 やがて閲兵会場に近づいて来た。

 観閲部隊、受閲を迎える帝国近衛軍団。その背後には、皇帝陛下以下、ユリア陛下達が座る正式な観覧席。

 こここそパレードの中心だ。

 軍楽隊の演奏の元、受閲部隊は会場に入って行く。


「全隊右向けー右!」


 アデーレの号令と共に右を向く。

 選抜者達は敬礼し、ガブリエル達指名者は持っている旗をより良く見せようとする。

 彼らが持っているのは軍旗では無い。

 既にアデーレの前にアキラと紋章旗が進んでいる。

 彼らが持っているのは、近衛軍団所属部隊が戦場で奪った敵の軍旗、あるいは占領した町の旗だ。

 軍旗はその部隊の名誉であり、戦場において自らの位置を誇示する部隊の分身だ。それを奪うことは大きな戦功である。

 彼らは部隊の戦功を示すべく、奪った全ての旗をパレード参加者全てに見えるよう指名者に持たせている。

 指名者こそ最も部隊に戦功が多い事を示す名誉ある役だ。

 特にガブリエルの持っている旗は特別だ。

 持っているのは軍旗でも町の旗でも無い。

 アクスム国旗。

 王国に降伏した国の旗だ。最初に首都に突入し、降伏させた部隊に参加していた。

 アデーレは陥落の功績大としてガブリエルに持たせた。

 多くのが自警団出身の義勇部隊において、農民出身者が多く、農協関係者が士官、指揮官に多かったため、農協に知り合いの多いガブリエルのお陰で部隊を維持することが出来た。

 彼がいなければ部隊の掌握は半分程度となり、迅速な進撃は出来なかった。

 何よりウルクでは自ら部隊を引っ張り、近衛軍団が陣形を再度整える時間を稼ぎ、逆転勝利させたの大きい。

 だからこそ、彼に最も栄誉有るアクスム国旗を持たせた。

 ガブリエルが国旗を見せると観覧席や沿道から、歓声が大きく上がった。

 この度の戦争の大金星であり無理は無い。

 その後も、各軍団からの選抜部隊が入って行き、観覧席の前を通って、広場を回ってから、観覧席を正面に向かう向きで指定された場所に止まる。

 次々と部隊が入って来て、広場が満杯になる。

 いずれも、なにがしかの戦功を上げ、その上位に位置する兵士のみが立っている。兵士の誰もが勲章を胸に付け、首から提げている。

 それが一四個軍団分、総計三千名以上。

 彼らが広場を埋める姿は、戦果がどれほど大きかったかを誇示するにこれ以上の効果は無かった。


「指名者! 前へ!」


 式典指揮官の命令と共に、旗を持った指名者達が一斉に前進を始めた。

 彼らは観覧席の前に置かれた長い台の前に一列に並ぶ。

 この戦争で奪った数百流の旗がなびく様は壮観だ。


「捧げ! 旗!」


 号令と共に指名者達が前にある台に旗を次ぐ次と置く。

 そして、一斉に直立不動となり最敬礼する。

 太古の昔、リグニアにおいて神殿に獲得した敵の旗を感謝の印として捧げた故事に基づく儀式であり、戦争の終結を示す行いだ。


「テエッ!」


 砲兵隊長が、同時に二一門の祝砲を放つ。

 平和を示す鳩が放たれ、神殿の鐘が王都に鳴り響く。

 ここに今、ルテティア大戦の終結が内外に明確な形で示された。


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[気になる点] たまに出てくる「アキラ」がよくわかりません
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