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首謀者との面会

 九龍王国の成立により、ルテティアにおける戦争は終結した。

 九龍王国はルテティアの承認の元に独立し、周との緩衝国として生きて行くことになる。

 ルテティア王国軍は、監視警戒の為の一部戦力を残し、王都へ帰投を開始。

 ユリア女王一行も、王都へ帰還し平穏が戻ろうとしていた。

 だが、真の平穏を手に入れるには、まだやらなければならないこと、戦後処理が残っていった。




 その部屋は、豪華な部屋だった。窓があり、カーテンがあり、ベットがあり、テーブルも椅子もある。とりあえず作った粗悪品では無く一流の職人が作り上げた一品である。

 豪勢な部屋だが、普通と違うのは決して中から出ることが出来ない。

 牢獄

 貴人を収容するために王城に設けられた牢獄だった。

 そこに収容されているのは元王国宰相マキシマス・アントニウスだった。

 食事の時以外滅多に空かない部屋の扉が、この日開いた。

 アントニウスは入って来た人物を認めると、立ち上がり臣下の礼を取った。


「お久しぶりでございます。陛下」


「殊勝な心がけね。アントニウス」


 丁寧なアントニウスの礼を、ユリアははね除けた。

 いつも温厚で優しい笑顔を見せるユリアだが、この時は酷く詰めたく、冷厳な視線をアントニウスに向けていた。

 普通の人間ならそれだけでショック死してしまいそうな、視線の中アントニウスは平常心を保ったまま、礼を続けた。


「その心がけがどうして反乱の時に止まったのかしら」


「皇帝陛下のご命令でございました」


 その瞬間、ユリアの顔が固まった。


「何ですって」


「はい、皇帝陛下より、ルテティア王国に反乱の炎を上げ、諸外国をけしかけ攻めさせよと、命令されました」


「……だから実行したと」


「はい」


 アントニウスは深々と頭を下げながらもハッキリと肯定した。


「何故反乱を起こしたの。報酬に目が眩んだの」


「確かに、反乱成功後、女王が乱心しこれを正すとの理由を付け幽閉。摂政として王国の実権を与えると約束されました」


「それにしては甘いわね」


「私は帝国の貴族、新たな貴族達は領地の拡大を行っていますが、真の貴族は帝国のために尽力する者、帝国の掟、法に忠実な者です。私利私欲のために動かず皇帝の命を受けたならば、全力で遂行しなければ」


 淡々と確固たる意志で話すアントニウス。そこには何ら狂気などは入っていない。


「ですが、私は王国宰相でもあります。王国の為、日々尽力される陛下のため努力して参りました。しかし、この非才の身ではお助けすることは出来ず、ただ無為に過ごすのみ。新たに来た昭弥殿の活躍が無ければ、王国は滅んでいたでしょう。その王国を滅ぼせとはとても出来ません。そんな私に出来ることなど、反乱の首謀者となり不満分子をまとめ上げ、少しでも容易く潰せるようにするだけでした」


「じゃあ、今回の騒動の全ては」


「はい、私が使嗾したことです」


「セント・ベルナルドの爆破も皇帝の命令?」


「いいえ、あれは私の独断です。帝国軍が王国内に入り王国を戦場にすればどのような被害がもたらされるか。それは何としても防がなくてはと、独断で動きました。セント・ベルナルドを爆破するなとは言われませんでしたし」


「……鎮圧に失敗するとは思わなかったの」


「微塵も思いませんでした。陛下とその周りにいる人物がこの程度の事で負けるはずが無いと確信しておりました」


 ハッキリとアントニウスは断言した。


「陛下、王国は危地を脱しました。しかし、まだ脅威が残っております。どうかご用心を」


 そう言うと、アントニウスは立ち上がり、胸からナイフを取り出した。

 近くにいた近衛兵が慌ててユリアを護ろうとし、一部はアントニウスを倒そうと槍を向ける。

 だが、アントニウスの刃はユリアに向かわず彼の喉に向かった。

 しかし、ナイフが彼の喉を貫くことは無かった。

 寸前でユリアがナイフを取り上げたからだ。


「……許しません」


 震える声でユリアは言った。


「許しません。このような事を行いながら死ぬなど許しません」


「ですが、私を生かしておいてはケジメがつきません」


「黙れアントニウス!」


 ユリアは叫んだ。


「私を誰だと思っているの。ルテティア王国女王ユリア・コルネリウス・ルテティアヌスよ。この国では私の命令に従わなければならないの! 勝手に死ぬことは許しません!」


「ですが、首謀者の処罰をしなければ王国の秩序は」


「そんな事、私の一存でどうにかします!」


「そこまでですよアントニウス殿」


 後ろに控えていたラザフォード伯爵が仲裁に入った。


「陛下のご命令に逆らうことは許されませんよ」


「しかし、どうやって申し開きを行うのだ。帝国も私を生かしておかないだろう」


「それに関しては、私に策があります。少し、悪趣味ですが」


「悪趣味なのは嫌よ」


「皇帝を歯がみさせる事が出来ますが」


「是非やりましょう」


 前言を翻し笑顔でユリアは答えた。

 一緒に立ち会い、話しに加わることの無かった昭弥は、胃の辺りを抑えた。 

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