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第四回王国総力戦指導会議

12/29 誤字修正

 その日は久方ぶりに青空が広がっていた。

 晴れた日はあったが、苦しい戦いが続いていたため、気がふさぎ込み、青い空だと思えなかったからだ。

 だが、今は澄み渡っていた。

 これまでの戦いは、苦しかったが勝利してきた。それが無駄では無かったと思える。

 バビロンに終結した四〇万にも及ぶ王国軍将兵は皆思っていた。


「緊張するな」


 ウルクの戦いの後、バビロンに移動してきたガブリエルは、近衛軍の制服に身を包んでガチゴチに固まっていた。

 先の戦いで、近衛軍団を救った功績により、アデーレはそのまま空席となっていた近衛軍団司令官に就任。所属していた第四一歩兵師団はそのまま近衛歩兵第四師団となり、近衛軍近衛軍団に編入。

 ガブリエルも参謀の一人として准将に任命された。

 特に一個大隊を率いて敵の一個軍団を抑えた功績が評価され、王国軍最高の勲章、王国武勲章が与えられる事になっていた。

 それもユリア女王陛下から直接渡されるのだ。

 そのため数万人の将兵の視線に曝されるより、緊張した。

 粗相がないよう念入りに制服を整えて、特設ステージの上に立っている。後は変な行動を取らないかだけだ。


「ガブリエル・マッケンジー准将」


「は、はい!」


 突然呼ばれて返事をした。

 目の前にユリア女王の顔があり、ガブリエルは固まった。

 既に式典は始まり叙勲が順々に行われていたのだが、緊張のあまりガブリエルの耳には入らなかった。


「一個大隊を率いて敵軍団を足止めした功績を讃え、王国は貴官に王国武勲章を与える」


「こ、光栄であります!」


 緊張で上ずった声で答えてしまった。ガブリエルは死を覚悟したが、女王は気にせず自ら勲章を取りガブリエルに頸飾を首に掛けた。

 式典は何事も無く進み、ガブリエルの隣の受勲者に移っていった。


「い、生きている」


 粗相をしたら女王自らあ処罰するという噂が流れていた。即位前から遠征に出ていたし、即位直後の反乱では女王自ら討伐した。

 直近では戦争が始まる前、鉄道を襲撃した盗賊を自ら成敗したという。

 そのため非常に厳しい人で一寸でも粗相をしたら首を刎ねられると聞いた。

 何より、先のウルク奪回戦で城門を破壊し、自ら司令部を占拠したのはガブリエルも見ており恐怖が先に来ていた。

 だが、目の前にいた女王は幼さの残る可愛らしい少女であり、愛らしい姿だった。

 国王の伝統である分厚い大きな鎧を着ていたが、温かい慈愛に満ちた人だ。


「思ったより、優しそうな人だったな」


 ガブリエルはそれまでの警戒心を解いた。




「このような事をしていて良いのですか?」


 ステージの脇で叙勲式を見ていた昭弥が隣にいるラザフォード伯爵に尋ねた。

 ユリアが前線に移動するというので閣僚も一緒に移動したため、彼も一緒に来ていた。


「戦争が長引いたからね。これまでの戦いを讃えるなどしないと士気が低下する」


 給料と手当が出ているとは言え、それだけで戦意が保てる訳ではない。功績を褒める行為をしないと兵士達の士気は下がる。それに兵士達にとっては遠くから演説をする司令官よりも叙勲を受けた英雄が近くにいた方が目標にし易い。

 その意味でも叙勲は有効だ。


「そんな物ですか。でももう一つ気になったんですが」


「なんだい?」


「ユリア、いや女王陛下が、何というか大きくなっているような」


 普段近くで見ている昭弥はユリアが小さく可愛らしい少女である事を知っている。だが今日は戦鎧を着ているせいか、大きく見える。


「間違いないよ。アレは特別製のユリア陛下専用の鎧で、戦いやすく威厳が出やすいように作られている」


「そうなんですか」


「ああ、具体的には、防御力を高めるために分厚い鉄板を使って胸甲を作り、足に棘が刺さらないように靴底が厚くなっていたりしているんだよ」


「胸甲が厚くなったり、靴底が厚い……」


「ああ、女王自ら指示して作り出した鎧だよ」


 昭弥はそれを聞いて悟り、その後は何も言わなくなった。何故か目尻に熱いものが出てきた。




「では、王国総力戦指導会議を開きます」


 式典の後、臨時に作られたお召し列車に戻ったユリアは、引き連れてきた閣僚と共に会議室のある車両に移り会議を始めた。

 各地の反乱、侵略が収まりつつあり、唯一の敵対国が周のみとなったので、その対策に専念するべく前線に出てきた。

 魔術師による通信網はあるが、やはり前線の方が情報量は多く近い方が良いと考え、閣僚ごと移動してきた。

 鉄道により僅か一日ほど王都から移動できるという理由もあって、バビロンに移動してきた。


「王国はこれまで勝利を収め、残るは周一国のみとなりました」


 ユリアは嬉しそうに言ったが直ぐに陰が入った。


「戦争終結の道筋は見えそうですか?」


 昭弥がラザフォードに尋ねた。


「残念ながら」


 今、首脳部が悩んでいるのが戦争を終結させる方策が無い事だった。

 周は大国であり首都は遠い。ユーフラテス川を越え、平原を越え、九龍山脈を越え、さらに平原を横断した先にある。

 交渉権限のある人間を派遣するのに時間がかかるし、通常の連絡も時間がかかる。

 交渉が纏まるのに数ヶ月から一年かかることも多い。

 その間は、ずっと対峙することになる。


「軍の現状を説明させて頂きます」


 軍務大臣のハレック上級大将が報告した。


「補給は現在順調です。鉄道によって王都や王国各地から物資が運ばれて来ています。ですが運ぶための物資が各地から無くなりつつあります。また、兵士への給与や物資の調達費用が増大しつつあります。」


 これまでならそれは問題無かった。互いに牽制し合っていれば良いし、補給も十分だった。

 だが、今は違う。総兵力で二〇〇万以上になろうとしている軍隊を維持するのに費用がかかりすぎている。

 また、これまでの戦いで弾薬の消耗が激しく、備蓄がそこを尽きかけているため、これ以上の戦いは無理だ。

 何としても一ヶ月以内に収めなければならないのに、交渉に数ヶ月かかる。その間軍を維持する必要も出てきてしまう。

 それは、何としても避けたかった。


「財政面についてもご報告させて頂きます」


 王国銀行のシャイロック総裁が答えた。


「戦時国債の発行は順調で強制買い入れの効果もあり、資金は有ります。ですが、国債は借金であり返済しなければなりません。国債の発行高は、上昇を続けており、このままでは利子の返済だけで税収を上回りかねません。つまり事実上の破産状態となります」


「踏み倒しは出来ないか?」


 ハレック上級大将が尋ねた。


「借りているのは国民や企業です。踏み倒した場合、彼らの資産が無くなり、経済活動は壊滅、王国は最貧国になるでしょう。何より王国への不満が高まり反乱、内乱の可能性が高まります。結論から言って、長期戦を戦う訳にはいきません。国が破産します」


「撤退することは出来ませんか?」


 ユリアがラザフォードに尋ねた。


「対岸には減ったとは言え、六〇万近い兵力がいます。これらが、再侵攻する可能性も否定できず、貼り付ける部隊が必要になります」


 敵も財政的に厳しいはずだが、そこは大国。帝国並みの財源があり、一年くらいなら二、三百万の軍隊を維持できるだけの収入がある。

 王国は、豊かになったものの、そこまで豊かじゃない。

 何より兵士の多くは労働年齢の人達、労働人口である。彼らが戦場にいると言うことは何ら生産がない。彼らが作ってくれる物が、王国を豊かにしてくれるのに、戦場にいるため出来ない。

 何としても彼らを復員させないと王国が拙い。


「結論としては停戦を行うしか有りません」


 ラザフォードは断言した。これ以上の戦いは無意味だ。


「停戦できないのですか?」


「直ぐには無理でしょう。周は首都で全てが決まる中央集権国家です。首都とのやりとりで一ヶ月、決まるまで数ヶ月から一年はかかるでしょう」


 ラザフォードの言葉に一同は絶望的になった。


「近くて話しを聞いてくれる国なら良いんですけどね」


「そんな都合の良い国ではありませんね」


 昭弥の呟きにユリアが返事をした。


「なら作りましょう」


「え?」


 そこにラザフォードが口を出してきて、全員が黙り込んだ。


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