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バビロン救援戦

12/22 誤字修正

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「さて諸君、今後の方針を決めなくてはならん」


 一戦終わった後スコット中将は、幕僚を集めて会議を行った。


「偵察の報告では敵は二〇万からなる大部隊だ。先の上陸は尖兵でせいぜい二万程度、撃破したのは一万ほどだと思う。対してこちらの被害は少なかったが、手元にあるのは一個歩兵師団と一個騎兵師団。さらに軍団の直轄部隊の合計二万程のみじゃ。しかも敵は正面のみならず、他に同規模の部隊がここから川下五〇〇リーグの地点と沿岸部にも同規模の部隊が居る。しかもエフタルの騎兵部隊が北にいる。こちらは各地に兵を分散しているので纏まった運用が出来ん」


 東方軍団は、周に対抗するために存在するが、長い国境線を守るために各地に分散して配置している。纏まって運用すると、目が届かない場所が出来るため監視の意味が無く、結局広く薄く重要な場所に城塞を置いて守るしか無い。

 またエフタルに対しては、北方軍団が対応することになっているが、反乱の為に後退し東方軍団の側面が無防備になっている


「やはり後退して戦線を縮小し守りやすい場所で防御しか無いでしょう」


 トラクス少将が進言した。

 戦術教官を長年勤めただけ有って、情報と状況から的確に答えを出した。


「勝利したのに後退ですか」


 これに異議を唱えたのは、ノエル・スコット大尉だ。

 一瞬幕僚達がビクッとしたが、スコット中将は何も言わなかった。身びいきでは無く、部隊指揮官時代から、部下に自由な発言をさせ自主性を高めるように目論んでいた。


「この東方軍団はユーフラテス川一五〇〇リーグの防衛を任せられているが、現状一個軍団では不十分だ。敵は合計六〇万にエフタルの騎兵部隊がいる。かき集めても五万程度の軍団で止める事は不可能だ。しかもさらなる増援の報さえもたらされている。大軍を相手に我々に出来るのは精々、敵を足止めする程度だ」


「ですが」


「それに現状でさえ敵は正面のみだけではない。南の川下と北のエフタルに部隊がいる。下手をすれば挟み撃ちに遭い包囲殲滅される。後退する以外無い」


「それだけではない」


 口を挟んだのはスコット中将だった。彼の手には、大本営から送られてきた通信が握られていた。


「現在、王国は三方の敵に囲まれており、他方面に対処するためにこちらに送る余剰戦力は無いとの事だ。最低でも三ヶ月、下手をすればそれ以上の期間、援軍なしで軍団独力で戦わなければならない。それも全滅することなくじゃ。全滅すれば敵は何の障害も無く我が王国東方を蹂躙できるじゃろう。決して急いて戦いを望み無駄死にすることは避けなくてはならん」


「それでも、むざむざ退くのは」


「その通りじゃ」


 ノエルの発言にスコット中将が答えた。


「ただ撤退するのも芸が無い。可能な限り時間を稼ぎ、敵に損害を与える」


 確固とした意志を持ってスコット中将は伝えた。


「どのように」


「水泳の達者な者を全軍から集めよ」




 その日の夜、数百人に及ぶ王国軍将兵がスコット中将直々に率いられ、ユーフラテス川を渡った。広い川だが、流れは緩やかなため、泳ぎ切ることは簡単だった。

 静かに上陸した彼らは、歩哨をバヨネットやナイフで刺し殺し、制圧すると船を奪った。

 更に一部は敵兵から奪った服を着ると、周の陣地の奥に消えていった。


「合図を送れ」


 兵士に合図を送らせると、対岸で待機していた増援部隊が上陸した。


「お見事です司令官」


 増援部隊にいたノエル・スコット大尉が労いの言葉をかけた。彼女の騎兵部隊も増援に含まれていた。


「ありがとう大尉」


 本当は、おじいちゃん凄い、と言って欲しかったのだが、軍務中のためその言葉が聞けずスコット中将は残念がった。それは一瞬のみですぐさま、老人とは思えぬ鋭い声で命令を下した。


「突撃!」


 夜が白み始めた頃、喊声と共に王国軍は突撃を開始。次々と陣地に火を付ける。


「て、敵襲! 大軍だ!」


 各所で悲鳴やデマが流れ、周の軍勢は右往左往する。突撃した王国兵は松明を持っており、周囲に放り投げ火を放ち混乱に拍車をかけた。


「馬鹿者! 怯むな! 集まって反撃を、ぐっ」


 一部指揮官が混乱を治めようとしたが、周兵に偽装した王国兵が近づき刺し殺した。

 指揮官がいなくなり、その光景を目撃した兵士から反乱や裏切りの噂も出たため、同士討ちさえ始まった。


「退け!」


 突撃開始から三〇分ほどでスコット中将は撤退を命じた。これ以上は敵が混乱から立ち直り、反撃される可能性が有る。優勢な内に退かなくてはならない。

 スコット中将は乗っ取った川船も使って全ての兵を収容。奪いきれなかった川船を一箇所に集めて燃やして壊すと悠々と岸を離れた。

 だが、スコット中将の攻撃は終わらない。

 大砲を載せた小型艇を待機させており、襲撃部隊がすれ違うと同時に砲撃を開始した。

 次々、撃ち込まれる大砲により、周の混乱は収まらず、むしろ激しさを増し朝まで続いた。

 翌日は軍の再編成に手間取りろくな行動が出来ず。その夜になって損害が明らかになり、川船の半数以上が破壊されるか奪われ、これ以上の侵攻作戦が不可能だとわかり、新たな川船の製作作業に入り、行動不能となった。


「敵の行動は封じたと言って良いでしょう」


 偵察の報告を纏めたトラクス少将が報告した。


「少なくとも川船を集めため二週間は動けないでしょう」


「同感じゃ。その期間の間に他の部隊を救援せにゃならんな」


 スコット中将も同意し、直ちに行動することになった。




 東方軍団は、大規模な交戦に備える四つの正規師団と国境警備のために無数の独立守備隊が指揮下にいる。

 このうち、正規師団の歩兵第九師団と騎兵第九師団及び軍団砲兵を救出部隊に指定し、南下を開始。残りの部隊は、守備と警戒に当たらせることとした。

 スコット中将が向かった五〇〇リーグ離れたバビロンでは歩兵第十九師団が防衛戦を行っていた。

 戦闘開始前よりスコット中将の命令により川から後退して、防御線を構築しており、比較的軽微な損害で反撃を行っていた。

 敵の橋頭堡を抑え、それ以上の勢力拡大を防ぐことに成功している。

 周軍はこれ以上の勢力拡大を諦め、上流側に新たな部隊を上陸させた。

 戦力が集中していたこともあり、上陸に成功したがが、そこへスコット中将率いる歩兵師団が到着した。


「突撃!」


 スコット中将の命令のもと、突撃を開始した。

 攻撃開始時には一個歩兵連隊しかいなかったが、完全な奇襲となり、周軍の防衛線に穴を空けるに成功した。

 さらに後続の部隊が列車で次々と到着し、参戦することで戦果を拡大。最終的には一個師団と軍団砲兵による掃討により、壊滅させた。

 橋頭堡の奪回は完全に成功し、上陸に使われた川船も捕獲、若しくは拿捕することとなる。

 東方戦線の特徴として、この川船の破壊があった。

 周とは川を挟んで対峙しており、侵攻するには川船が必要だ。船を破壊することで川上の移動が不可能になり、周は侵攻できない。

 侵攻阻止を任務とするスコット中将にとっては、当然選択する戦法だ。

 敵を撃破したスコット中将は、そのまま先に上陸した敵に向かって進撃を続け、橋頭堡に向かって砲撃を行った。

 重砲を浴びせられ、補給も援護も無い橋頭堡は陥落し、戦線は安定した。


「ここは大丈夫じゃろう」


 スコット中将は戦線が安定したことを確認すると南下を続けることにした。

 ただ、来援中の騎兵師団に関しては、反転し北方のエフタル警戒に当たるように命じた。

 騎兵の機動力を生かした掃討と警戒を期待しての事だが、何より現状では足手まとい二なるからだった。

 鉄道輸送による歩兵師団の移動速度は一日で五〇〇リーグを超える。騎馬の場合は全速で二〇〇リーグが限界だ。何より決定的なのは、そのような高速移動を行っても、列車移動の場合即時交戦が可能なのに対して、騎兵は疲労困憊により休息が必要だと言うことだ。

 騎兵師団も鉄道輸送させたいが、馬は多くの列車を必要とするため、予備の本数の少ない現状では荷物にしかならない。そのため歩兵師団のみによる攻撃に方針を変え、少数の偵察、伝令、予備戦力として二個大隊ほどを除き、軍団、師団の騎兵部隊を騎兵師団に預け、スコット中将は第一九師団と共に南下を決心した。


「何という移動速度じゃ。時代が変わったと言うことか」


 移動する列車の中でスコット中将は考えた。既に三日間で五〇〇リーグ離れた場所で戦い勝利を収め、また次の戦場に移動しようとしている。


「今の儂たちには福音じゃが、未来は果たして」


 スコット中将は未来を憂慮した。


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