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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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エピローグ3

 再開発に疑問を抱くレイにテルは順番に答える。


「気候に左右されやすい農林水産業は、作物に最適な土地はより価値が高まる。農作物が育ちやすいところから大消費地へ輸送はテレポーターで簡単になる。最適な作物、高付加価値の作物を輸送できるようになるんだ。各地の開発が進むように制度を整えておくんだ」


 極寒の土地で麦が育つはずがない。

 ならば、温かい土地で麦を作って貰って麦が育ちにくい寒冷地に運んだ方が良い。

 逆に寒冷地では動物が大型化しやすいので、良質の肉がとれる。

 輸送コストで出来なかったことが、テレポーターによって可能になる。

 現在でも鉄道で行っているがテレポーターの普及によるコスト低下でより広く行われるだろう。


「新たに興る産業へ、テレポーターによって失業する人々の転職先を確保しておきたい。そのためにも新たな産業を興しておく必要があるんだ」

「たしかに急激だったからね。転職先も見つからなかった」


 テレポーターの普及が急すぎて輸送関係の人々に大量の失業者が出かけた。

 幸いにして事故によって導入は中止され、雇用は元に戻った。

 いずれくるテレポーターの普及に備えて産業を興しておく。

 そのための再開発計画だ。

 テレポーターが普及するまでの間も鉄道の収入源となり、安定して発展させることも可能。


「それに再開発が進んでもレポーター普及後は移動手段が鉄道から変わるだけ。再開発で出来た建物や事業は、そのまま使えるようにしておいている。むしろテレポーターの普及で更に伸びる計画ばかりだ」

「なるほど、よく考えているんだね」


 テレポーターが普及した後の発展余地と考えれば確かに悪くはない考えであり、事業だった。

 今の鉄道でも利益が見込める事業であり、今から進めても良い話だった。


「じゃあ、再開発の計画はこれでいいとして、こちらの新車両の開発計画や新規計画線はなに?」


 レイは驚きつつテルの元に送られてきた計画書――新車両と新規路線開発について尋ねる。

 いずれテレポーターが普及すれば、鉄道は不要になる。バックアップに残されるが、利用は大きく減少する。

 なのに新型車両や新たな線路の敷設計画というのはレイには無駄に思えた。


「インフラは不断の努力が必要なんだ。一日たりとも断たれてはならない。断たれたら一年前のように大混乱に陥る。いずれ、テレポーターに変わることになるとしても、その日まで鉄道を維持しないといけない」

「いずれテレポーターが普及して廃止だろう」

「それには何年かかる? その間、不便を我慢しろというのかい? 短い期間だからといって改善しない理由にはならないよ」


 もし昭弥がいたら豊洲移転で揺れて改修などが進まなかった築地市場の事を例えに使うだろう。


「それに万が一、テレポーターが故障したとき。使用不能になった時に最小限の移動手段を用意しておく必要がある」


 石炭や石油は時代遅れだ、これからは新エネルギーだといって太陽光発電や風力発電に全振りして、猛暑あるいは厳寒の中、曇って発電できない、風が吹かなくて発電できない、といった事態になったらどうするのか。

 環境保護のために電力は安定供給出来ない、我慢してください、など言えない。

 電力不足にならない計画を立てなければならない。

 物流網も同じだ。

 決して一日や一瞬たりとも寸断されない努力と慎重さが必要なのだ。

 人気取りや目先の利益で大きく転換して良いものではない。


「人々の生活を支えるために、その最後の瞬間まで安全確実に鉄道を走らせる。不要になるその日までまでね」


 インフラは維持しないといけない。不要になる日まで鉄道は走り続ける。


「その日を迎えるために、死傷者を出さない、出たとしても最小限に抑えられるよう鉄道を運行させるために日々の改修や更新は必要なんだ」

「すっごく面倒ですね」

「そんなものなんだよ鉄道は。結局のところ縁の下の力持ち。どんなに華やかな車両を投入しても結局のところ、鉄道業の根幹は人や物を目的地へ運ぶ。ただそれだけの手段だ。事業になるのは運ぶという部分にどれだけ付加価値を付けられるかに掛かっているんだよ」

「なるほどね」


 レイは感心した。


「でも新人採用への援助はどうかと思うよ」


 いずれ廃止予定の鉄道の胃新人を入れることにレイは反対していた。


「確かにいずれ無くなるけど、その日まで維持する人間が必要だ。下手に人員構成を弄って技術継承が断絶したら大変なことになる」

「テレポーターが完成したら彼らがクビになるけど」

「もしテレポーターが再び失敗した時、鉄道も機能不全でした。帝国の物流も止まりました、などという事は絶対に避けないといけないよ」

「無駄だし、採用する人達に無意味な仕事をさせることにならないかい?」

「可能性はある。新しい物に対する失敗を恐れては何も出来ないだろう。だが僕はインフラに関わる人間、それも最高責任者だ。失敗したら僕だけで無く、大勢の人が、インフラを利用する人に迷惑がかかる。いや下手したら命さえ奪ってしまうだろう」


 大げさな言い方だが、事実だった。

 インフラ、輸送、物流と一言で言えるが、その中には日々の食料や生活必需品の輸送も含まれている。

 電気、ガス、水道にしても電気のエネルギー源となる石炭石油を運んでいるし、ガスもタンク車で輸送している地域もある。

 水道も水を供給するための設備、機械を鉄道で輸送している。

 停止すれば影響が大きすぎる。

 個人が一か八かの勝負に出て負けたとしても、個人の責任であり、社会への影響は少ない。

 しかしインフラの失敗は国民全員が損害を負ってしまう。

 全て上手くいくことはないが、少なくとも失点を少なくする必要があった。

 あらゆる可能性の中にある最悪を回避することがインフラの最高責任者の役割だ。


「彼らにはインフラ維持のために仕事をして貰うよ。もし、鉄道が廃止になるとしてもその時は彼らの苦労に報いるし、転職先も確保する。鉄道が止まるその日まで働いた人に対する責任であり、僕の仕事だ。そのための準備も進めている」


 失業手当の拡充、転職支援制度の充実は、このためでもあった。

 安全の絶対確保。それが鉄道業の定めであり、続けなければならない。

 鉄道が止まるその日まで。

 そのためにも人員の継続的な採用は必要だった。

 いずれ廃止されるからと言って人員の補充を止めるわけにはいかない。


「鉄道は走り続けるよ。止まるその日まで安全に確実にね」


 テルは静かに決意を語る。


「分かったよ」


 レイはテルの言葉に頷いた。

 その時、大臣室の電話が鳴った。


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