エピローグ2
「そんなの必要なのかい?」
職業訓練校を整備するという、鉄道とは関係なさそうな話しにレイはクビを傾げる。
だがテルは冷静に理由を説明する。
「鉄道が廃止になるときは鉄道員達が長年培った技術や心構えを他の産業に活用して欲しいよ。これは必要だ。それに帝国は年少者に対する初等教育は行っているけど、成人への再教育や職業訓練は疎かにされている」
昭弥が来るまで義務教育さえなかった帝国。
優秀な鉄道員が出てくるよう、乗客のマナー向上や利用率向上――学習レベルが高まることによる所得増大、それに伴う鉄道利用率増加を目論み教育制度を充実させた。
結果、児童の就学率がほぼ一〇〇パーセントになったのは奇跡と呼んで良いだろう。
だが、成人に対する教育は疎かにされやすかった。
国鉄では鉄道学園を作り昇進や一定期間ごとに再教育を行う事で新しい知識を教えていた。また各種技能大会を行うことで技能向上を進めていた。
だが民間の方ではそのような機関も設備などない。
経済発展により、未熟な人間でも雇っておく余裕があり、次第に戦力になっていたため就職さえすればなんとかなる状況が続いた。
しかし、職場内で教育するため、また慣習のために職場環境が一度悪化すると、教育環境と機会が失われることが多く機能不全となるケースが多かった。
せめて転職に備えた再教育の機会を国として制度として整備しておく必要があった。
「ここで準備しないと。低所得は貧困に直結するから少しでも所得の高い職に転職してくれるのは帝国としてもありがたいので制度を作っておこう」
「鉄道に関係あるのかい?」
「鉄道は輸送業だ。貨物であろうと旅客であろうと、所得が大きい方が支払う額も大きい。
失業者が鉄道を利用してくれることもない。転職して所得が増えてくれるのは将来の上客としてありがたい」
「相変わらずだね」
風が吹けば桶屋が儲かる、とまではいかないが、所得が国民総生産に直結し、国民総生産に鉄道の輸送需要が直結しているのは、昭弥の頃から明らかな話だ。
「でもテレポーターで鉄道関係の収入は無くなるだろう」
「だからこそ転職関係を充実させる必要があるんだよ。これまで鉄道の保守管理運営を行っていた人々を転換させる計画を立て直す必要がある。鉄道に関われなくなる人々が多くなるが、その分人手不足だった産業に送り込んだりする事で国をより発展させる」
テレポーターによって時間と交通費が大幅に削減され、可処分所得や経費、利潤が増える。
その余った資金を他の産業、テレポーターによって衰退する産業からの転換資金や、伸びていく産業への投資へ導く計画を進めていた。
「鉄道も保存鉄道の制度を作り上げて準備しておく。転職できない人や技術の保存を目的に設立するんだ」
「一応考えているんだね」
「失敗した計画でも動力近代化を参考に計画していたよ。ただ、テレポーターの普及が予想以上に早すぎて、転職が追いつかなかった。今回は普及のスピードを調整して進めていくよ」
元から転職関係を充実させていた昭弥だったが、テルはより充実させていた。
しかし、主要幹線――保守要員も運行乗務員も多い路線から移行したため、余剰人員が大量に発生し混乱した。
しかもテレポーターの事故によって物流の大動脈が寸断されるに至り、復旧に時間が掛かった。
徐々に鉄道の割合を減らしていくがバックアップが出来るように前の計画より鉄道の比重を高めている。
「今度は失敗させない。慎重に幾重にも安全策を設ける」
テルは決意を新たにした。
「それはいいね。で、この地方駅再開発計画は何?」
地方駅再開発計画と名付けられた計画書を見てレイは尋ねた。
「魅力的な景観を持っていたり、歴史的な旧所名跡、住みやすい気候の土地などを整備する計画書だよ。再開発してより訪れやすく、滞在しやすくする」
レイが指した地方駅の再開発計画書をテルは説明した。
「テレポーターが出来るのに?」
「だからだよ。今後はテレポーターによって、移動時間が無くなる、すぐに目的地へ行けるし、どんなに遠隔地でもテレポーダーで移動時間ほぼゼロで行ける。行きたいところへ行ける。そうなれば有名な場所や環境の良い場所は今まで以上に人気になる。大勢の人が受け入れられるようにするんだ。それと、似たような場所、特に住みやすい場所とかは、人気になって住もうとする人が出てくるだろう。あらかじめ整備しておきたい」
「そんなに人が集まるかい?」
「いくらテレポーターでも、人を常に移動させているわけじゃない。住居や職場は必ずあり、そこに留まる。留まる場所を充実させる、その時、ビジネスのチャンスがある.気持ちよく過ごして貰うためにも、新たな産業にするためにも投資を行うよ」
住宅のリフォームで住環境を良くしようとしていた。
オフィス需要は減る可能性が高いが、製造拠点は残り続けるだろう。
製造拠点の安全設備や居住性を良くするための産業を起こせば良い。
「産業の再開発も行うのかい? しかも製造業ではなく農林水産業を」
「製造業は、テレポーターで半製品を運び込めるようになれば何処でも出来る。ならば原材料が手に入りやすい場所に集まる。一方農林水産業は土地の気候などに左右される。そのため移転することはまずない」




