第二回王国総力戦指導会議
イリノイから王都へ凱旋してきたガブリエル達はここで再編成する事となった。
戦場で補充された彼らは、故郷に戻り新たに編成される義勇軍の基幹要員として働くとのことだ。
実戦経験があるので、頼りがいがありそうだったから残念だ。
代わりに入って来たのは、王都の志願兵達だ。
何でも志願兵が多くて、訓練所から出てくる兵隊を次々と部隊に配属しているそうだ。
だが、同郷以外のそれも実戦経験の無い兵隊を受け入れられるのだろうか。
村社会は閉鎖的で、よそ者を相手にしないのに。
「そういう兵隊を受け入れ、なじませるのも士官の仕事だ」
アデーレがやって来てガブリエルに諭した。
「大隊長」
「戦地だと、会ったことの無い部隊と作戦を行い命を互いに預ける必要が出てくる。よそ者だと言って退けていたら作戦行動なんて出来ないぞ。まして、撤退とか乱戦になると、目に付く兵隊をかき集めて指揮を執る事なんて当たり前だ。今のうちに慣れておけ」
「どうやって」
「幸い、この王都で休養が許された。訓練と休養を行い、相互理解を図るようにしろ」
「休めるんですか!」
ガブリエルは喜んだ。
戦った後の疲れを癒やせるのは嬉しい。それも王都でだ。
農作物の商談のあと、取引相手と一緒に町に繰り出して飲んだりしていた。村にはない素晴らしい建物や酒、食べ物が豊富にある。鉄兜酒場も良いが、外国の見知らぬ食材を使った料理を食べるのも楽しい。
だが、ガブリエルの浮ついた様子を見てアデーレは叱った。
「訓練の後だ。不抜けた動きをしたら、休養は取り消して訓練に充てるからな」
「そんな」
「だったらしっかり訓練してたたき込め。死んだら二度と王都に繰り出すことは出来ないんだからな」
ガブリエル達が、王都に着いた頃、王城にも着いた人物がいた。
「勝利おめでとうございます」
凱旋してきたラザフォードを全員が出迎え代表して昭弥が祝意を伝えた。
「ありがとうございます。ですが、皆さんのご協力が無ければ不可能でした」
互いに健闘をたたえ合った。
「あなたのお陰で誰がやっても勝てますよ。数が段違いですから」
謙遜するようにラザフォードが言うが事実だ。
某SFアニメが言うように戦いは数だ。敵より多い兵力を集めた側が勝つのは古今東西、異世界においても変わらない。少数の奇襲で打ち破った伝説が多く残っているが、それは非常に希で、奇跡に近い出来事であるため人々が覚えているだけ。今まで行われた数多の戦いに比べれば少数で、多くの戦いでは兵力に勝る方が勝っている。
王国は膨大な兵力を持っているが、補給や指揮の関係から最大で一個軍団五万が限界と言われていた。
だが、鉄道で変わった。
何百リーグもの距離を一日で兵も大砲も物資も移動し、継続的に供給できる。
これまでも水運を使って五万以上の兵力を送り出したことはあるが一時的であるし、川や運河から離れると無理だった。何より速度が遅い。
しかし、鉄道は船より速い速度で動けるし、レールを敷くのも運河を作るより簡単だ。
そのため、敵を圧倒するだけの兵力を送り出し、包囲して降伏させる事も可能だった。
一通り挨拶を済ませると直ぐに切り上げた。
まだ戦いは続いており、ようやく有力勢力の一つが潰れただけだ。
「北方の反乱が収まったお陰で大分楽になりました」
ハレック大将の言葉は、正しかった。
王都に一番近い大軍だったために、これを撃破しない限り王国の安全は保証されない。
これがいなくなるだけで王国は大分動きやすくなる。
「現在十五万の捕虜がいますが、彼らの中から有能な人間を中心に正規軍に復帰させようと考えています」
「復帰させて大丈夫なんですか」
ラザフォードの提案に昭弥は疑問をぶつけた。
「大丈夫です。首謀者層はともかく兵士クラスは主人が替わるだけでわだかまり無く従うでしょう。と言うより、勤め先が無くなるので寧ろ自分から売り込んでくるでしょう。また、北方貴族の兵士は精鋭が多いので彼らを取り込むことで王国軍の戦力はより高まるでしょう」
「それなら大丈夫でしょう。お任せします」
昭弥はラザフォードに任せることにした。
「兵力の補充を担当する者としても嬉しいことだ。何しろ実戦経験者が少ない」
ハレック大将も喜んでいた。
現在義勇軍や自警団を編入し志願兵を受け入れているが、ベテラン兵、部隊の中核になる経験豊富で能力のある下士官、指揮官が少なかった。
経験不足の若手を任命してしまい大損害を受けて全滅した部隊もあり、ハレック大将は頭を悩ましていた。
だから、経験豊富なベテラン兵がやって来るのは嬉しい。
彼らを中心に有力な部隊を編成することが出来るだろう。
「貴族の処罰はどうしますか?」
ユリアが尋ねてきた。王国に損害を与えた貴族達を許せずにいるのだ。
「有能で必要と思われる人物を保釈して協力させましょう」
「良いのですか」
「人材は代えがたいものです。失ったら二度と手に入れることは出来ないでしょう」
「わかりました。では、残った貴族は」
「処罰は戦争後の事としましょう。処断するにも今は戦争中でやる事が多くあります。全てが終わってから処断するべきです」
「……分かりました」
不承不承ながらユリアはラザフォードの献策を認めた。多大な損害を与えた貴族達で今すぐ自分で首を刎ねてやりたいが、戦争中でありやるべき事がある。
今は自重することにした。
「次の戦いは何処と行いますか」
ユリアはハレック大将に尋ねた。
「特に大きな出来事はありませんので、予定通りに行きましょう」
「では、南方。沿岸部を進むアクスム軍ですか」
「はい」
現在残っている敵は沿岸部を進むアクスム軍三〇万。東方の周の大軍勢。北のエフタル軍だ。
このうち、周は東方軍団の機動戦術と自らの遅延であまり進んでいない。
北のエフタルは、無数の騎馬集団があちらこちらの町や村を襲撃しているが、敵は少数であり、纏まった行動を取っていない。
ルビコン川を渡る事も出来そうにないので、放って置く。
「それで、決戦の準備は出来ているのですか?」
「はい、モンローにて決戦の予定でした」
「オスティアでなくて?」
「はい、モンローです」
オスティアより西にある比較的大きな町だ。町の規模に比例して、大きな操車場がある。 ここを中心に迎撃の予定だったのだ。
「オスティアの方が迎撃しやすいのでは」
「確かに。ですが、オスティアが被害を受ける可能性を考慮し、離れた場所での迎撃を考えました」
「オスティアは、王国の中継貿易の要ですからね。ここに被害が及ぶと今後の王国の国力に影響がありますから」
シャイロックが説明した。
最近、ルテティア鋼の生産で収入は改善しているが、帝国と東方との中継ぎ貿易でも王国は潤っている。
何より、ルテティア鋼の輸出の主要港がオスティアなのだ。
ここが破壊されると収入源が無くなる。
「そこで迎撃しやすくオスティアへ被害が及ばないモンローにしたのですが」
ハレック大将は言葉を濁した。
「何か問題が?」
「はい」