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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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エピローグ1

「テレポーターの対策はどうなっていますか?」


 テレポーター騒ぎの一年後、テルは鉄道省の大臣室で、テレポーター普及計画の現状報告を聞いた。


「闇取引に使われているテレポーターに関してはジャマーを使い、妨害を行っています。しかし、広大な帝国の領域を全て覆うことは不可能なので都市部と重要施設のみになっています」


 レイの報告を聞いてテルはうんざり、といった顔をした。

 テレポーターは便利なアイテムだが、便利すぎて悪用も可能だ。

 簡単に持ち運べるので、手荷物などに紛れ込ませて重要施設に持ち込み、テロをおこなったり密輸する事件が相次いでいる。

 それを防ぐためにテレポートを妨害するジャマーを開発したが、範囲が限定されており、街一つを覆うので精一杯だ。

 だから重要施設周辺や都市部に限定されるので犯罪を防ぐことが出来ない。


「犯罪はうなぎ登りかい?」

「ええ、同時にテレポーターへの嫌悪感も高止まりしたままです」


 一年前に起きたテレポーター悪用による大混乱でテレポーターのイメージが犯罪の道具、災厄として帝国民に根付いてしまった。

 テレポーターの導入を進めようとすると、反対意見に合う。


「元老院でも抗議が来ているよね」

「はいポーラ・ワトソン議員をはじめ反対派が多いです」


 国民の代表である元老院から言われたら強引な導入など無理だった。


「しかし、ポーラ女史の事を気に掛けているな」


 御付武官のオスカーが反感混じりに言う。


「あんなデマゴーグ――大衆扇動家なんて無視すれば良いのに。所詮大衆の不満を煽って舞い上がるだけの凧だろう」

「その通りだな」


 テルはオスカーの意見を認めた。


「逆に言えば大衆の考えや不満を、心の中の言葉に出来ない不満や不平を言葉にして上げている。世論調査やアンケート調査では見えない物を見せてくれる。現に大衆の支持を受けている。これはかなり得がたい能力だよ」


 駅員として研修と自習に出ていた事もあるテルは大勢の乗客の不平不満をくみ上げるのにどれだけ苦労したことか。

 大臣としても鉄道員や利用者の不満を解消するのが仕事だが、彼らは本音を中々言ってくれない。


「才能なのか、スキルなのか、大衆の本音を言葉にしてくれるポーラ女史の存在は得がたいよ。父さんもポーラの言葉に耳を傾けていたのも、本音を、しかも最大公約で纏め上げて言ってくれるからさ」

「おみそれしました。しかし、彼女の言葉から不平不満を聞くのは大変では?」

「結構キツい。まあ仕事だからね」


 テルは仕方ないという風情で言う。

 もし、ポーラが大衆の本音を言わなくなり支持が下がったら容赦なく切り捨てる、相手にしないだろう。


「でもって彼女の香言うにはテレポーターの事件で受けた損害をどうにかしろ、厄介者など使うな、といったところだ。まあ都市部のビジネスマンなどは便利だから使いたいという話も来ているが、使ったことがない人々にとっては、混乱を招く元凶みたいだね」


 テレポーターへの不信感は未だに根強いものがあり普及を阻む最大の原因だった。


「新型テレポーターの方はどう?」


 テルは開発の報告書を読んでいたレイに尋ねる。

 安全性、特にセキュリティを強化した新型のテレポーターの開発と導入を進めていた。


「数学者によるセキュリティアルゴリズム、なんでもハッシュ値や公開鍵暗号などを使った相互の認証を行うシステムを構築しているそうです。ですが、最大の問題は」

「ジャネットか?」

「はい」


 忌々しそうにテルが言うと渋々レイは認めた。


「力業でテレポーターのセキュリティを突破する可能性が否定できませんので」

「あの悪魔が何時何処に現れるか分からないという訳か」

「その通りです。ですから会議で出た結論はジャネットの抹殺です」

「それ以外にないだろうな。だがあの逃げ足の速い、底なしの金の亡者、捕まえるなんて無理だろう」

「殺す以外になし、ただし殺すのも至難の業でしょう」


 警察や帝国軍が追いかけているが尻尾を捕まえることさえ出来ていないのだ。


「しばらくは試験的に導入したり、一部の運輸を代行させてテレポーターの使用を徐々に広めていくしかないか」

「それが一番でしょう。軍も期待していますし」


 維持費が殆ど不要で、移動時間がゼロ。

 便利すぎるアイテムだ。

 逆に進入される危険があるが、そうしたデメリット以上に、メリットが、特に大量輸送を求められる産業界や軍から導入再開を要望する声が大きい。


「ハッキングや乗っ取り対策を試しながら進めていこう」

「で、鉄道の方はどうするんだい?」


 レイの言葉にテルはあ少し顔を曇らせるがすぐに笑顔で言う。


「テレポーターが完成するまでは維持だよ。信頼できるインフラに育つまで鉄道が一番だ」

「それに信頼が高いからね」


 天災が起きて運休になっても災害が収まれば走るし、線路が寸断されても短期間で復旧する。

 何百万という鉄道員によって支えられている鉄道は昭弥の方針もあり異常なほど耐久力、回復力がある。

 そのため帝国民からの信頼が大きい。

 テレポーターは導入されて日が浅い上に大混乱を起こしたので信頼が低い。


「テレポーターの導入は徐々に実績を上げて、信頼を得ていくしかない」

「それしかないね」


 ジャネットの乗っ取り装置のせいで帝国を大混乱に陥れたテレポ-ターの事故は、ほんの一年前ということもあり帝国民の間で強く記憶されている。

 移動時間ゼロ、限定的ながら主要都市を結ぶネットワークを結んでいたテレポーターのため、ほぼ事故と同時に帝国全土が混乱してしまった。

 利便性を認める人間は多いがリスクや危険性の印象が強く残ってしまうのが人間だ。

 テレポーターへの移行は反発が多くて、暫くは段階的に進めるしかないだろう。


「ただ、鉄道からテレポーターへ移行するときに備えて、転職支援制度や職業訓練学校とか準備しておくよ」

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