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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
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留任

「あー、大変だったな」


 病院列車を無事に送り届け、機関車を切り離したテルは蒸気機関車を元の機関区へ送り返した。

 戻った時には修理の終わったディーゼル機関車――燃料系掃除および燃料交換済みに乗り換え新帝都へテル達は帰還した。


「大臣がやることでは無いと思うんだが」


 今更ながらオスカーが満足げに話すテルに言う。


「いいだろう。どうせ大臣クビになるんだから」


 テルの言葉にオスカーは驚いた。


「どういうことだよ」

「そのまんまの意味だよ。鉄道を廃止してテレポーターへ移行させようとした。けど、そのテレポーターは欠陥品で、帝国中を大混乱に陥れた。クビになって当然だろう」

「いや事故対応とかしただろう」

「だが帝国を未曾有の大混乱に陥れた責任は、計画責任者が負うべき事だ。そこから逃れたら誰も責任をとらない無責任な世界に成り下がる」


 実行すると言いながら失敗したらいいわけばかりで責任逃れをする人間の何と多いことか。

 テルモその手の人間に手を焼かれた。

 同類になるのはまっぴらごめんだった。


「辞表は書いたよ。すぐに陛下に提出するよ」


 テルは懐から辞表と書かれた封書を取り出して言うと宮殿へ向かった。




「却下します」


 テルの実の母親にして皇帝であるユリアはテルの辞表を却下した。


「……どうしてです?」


 謁見の間に、テルの戸惑いの声が響く。


「テレポーターの技術が優れていることは明らかです。帝国が発展するためには今後不可欠となるでしょう」


 大きな事件となったが、適切に利用した場合のテレポーターの利便性は否定できない事実だった。

 鉄道という効率的な輸送手段の発明によって驚異的な発展を経験した帝国が、特に上層部が手放すことなどなかった。

 ユリア自身は昭弥が作り上げた鉄道をそのまま残したいが、帝国の繁栄を考えればテレポーターの導入は致し方ないことだ。


「それにテレポーターの技術は完成していて密輸やテロで悪用される可能性が非常に大きいのです」


 表向きにはテレポーターの使用は停止していたが、裏では、特に犯罪組織は公共交通手段を使わず、禁制品を輸送できる手段として使われていた。

 テロに関しても、テレポーターを隠し持って進入したり宅配に紛れ込ませて送り込み、襲撃要員をや爆弾を送り込む事件が起きていた。


「この対策を行う必要があります。テレポーターに詳しい、あなた以外に適任者はいません」

「しかし私にはテレポーターを推進し、その事故で帝国を混乱に陥れた責任が」

「勿論、責任を取って貰い処罰いたしました。だから昨日から二日間程謹慎していたでしょう」


 病院列車の運転のために休んでいた。

 辞任前の休暇のような感じでテルは行っていた。

 勿論、混乱させた責任を感じており何か罪滅ぼしをしたいという思いもあって、自分が一番誇りに思っている鉄道の運転で何か役に立ちたいと思ってのことだ。


「休暇願を出して謹慎の命令は出されていませんが」

「しかし書類上は謹慎となっていますよ」


 テルが出発の準備をしている間、必要な事務手続き休暇願を書いて貰ったのはレイだ。

 途中ですり替えたに違いない。

 ユリアはテルが黙っている間も、話を続ける。


「失敗の責任は責任者が負うべきなのは当然です。しかし再挑戦の機会を奪うのは帝国のやり方ではありません。能力のある者には機会を与えなければ」

「それも失敗をうやむやにする事になりかねませんか?」

「昭弥暗殺に関わっていながら、ガンツェンミュラーを国鉄総裁に復帰させた大臣がそれを言いますか?」


 ユリアに言われてテルは苦笑した。

 能力があるから任命したのだ。

 確かに暗殺に関わっていたが、テレポーター反対派の一人で、テレポーターの失敗に何ら関係の無い上、鉄道に強いガンツェンミュラーなら滞りなく鉄道を再建してくれると考えての事だ。

 出来ることならテルの後任として大臣の職も与え良い程だ。

 暗殺事件への関与など消し去るくらいの功績を上げる能力をガンツェンミュラーは持っていると信じるからこその任命だった。

 同じ理屈でユリアはテルの大臣留任を命じた。


「皇帝として命じます。留任しなさい」

「勅命お受け致します」


 仕方なくテルは受け入れた。




「やはり留任になりましたね」


 謁見の間から戻ってきたテルにレイは言う。

 留任になるように手回ししておいて、知らぬ顔をして話しかけてきたことには、呆れを通り越して笑いがこみ上げてくるテルだ。


「まさか留任されるとは」

「他に任せられる人なんていませんよ」


 レイはテルの持っていた辞表を取り上げると高々と掲げて、両手で破り始める。

 破られた辞表が紙吹雪となって廊下を舞う。

 綺麗ではあるがテルは嬉しくは無かった。

 だが落ち込んでばかりもいられない、気持ちを切り替えて言う。


「しかし、鉄道を上回るインフラを作るのは難題だね。今回の一件で身に染みたよ」


 何十年にも渡り徐々に作り上げて行き、帝国の大動脈として完成した鉄道。

 ちょっとやそっとでは揺らぐことがない。

 険しい地形でも線路を通し、天変地異が起きても復旧し、魔物やドラゴンに襲われても機能を維持どころか発展させてきた鉄道。

 父親が居た世界で発展していた事もあるが、幾重にもバックアップがあり機能していた。

 逆に開発者の気まぐれで大混乱に陥ってしまったテレポーター。

 勝手に接続し、荷物を送りつけるなどの欠陥がある。

 その災厄は今でも続いている。

 対策の目処は立っていない。

 一方の鉄道は莫大な維持費が掛かっているが、すぐさま対応してくれた。

 鉄道とテレポーターでは事故対応に対して重ねてきた年月も、質も全く違う。

 改めて父の偉大さを身にしみて理解した。


「これは大変だぞ」


 テルは自分の行く道が険しいことに苦笑しながらも立ち向かう決意をした。


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