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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第七部 第四章 リグニア鉄道最後の日
754/763

C48 74802 機関車

「C48形機関車じゃないか!」


 正面のプレートに74802と表記された機関車を見てテルは叫んだ。

 テルの父、昭弥が王国鉄道を作ったと同時に開発したC4形蒸気機関車。

 創設期に作られた車両だったが基本構造が良く、のちの重量機より軽く支線へも簡単に入れるため各地で活躍。使い勝手の良さが優秀でマイナーチェンジを繰り返しながら量産された傑作機関車だ。

 特に八番目のマイナーチェンジモデルであるC48形は傑作と名高い――なお最終タイプのC49形は高性能を狙いすぎて整備性の低下、軽量化による部品の耐久性の低下による事故と寿命の低下で早期に廃車、その後のマイナーチェンジも動力近代化により中止となり、C48形が最終となる。

 中でも74802は702番目に作られ682号機以降の後期形と呼ばれるタイプで前期形とされる製造車両の運用成績を元に改良が加えられている。

 おかげで品質が安定し使いやすく耐久性もあり製造から年月が経っても安定した性能を発揮している。

 そのため各地の機関区に入れ替え用や観光用として残っていた。


「動かせますか?」

「予備機として有火で待機していました。すぐに動かせます」

「よし!」


 火が点いていない蒸気機関車は準備だけで数時間かかる。

 だが、あらかじめ少量の石炭を火室に入れておき、弱い火でボイラーを温めておけば、火力を強くする十数分の準備で運転できる。


「すぐに使います」

「運転できるんですか」

「何年も使っていましたから大丈夫です」


 かつて山奥の離宮で暮らしていた時生活物資と建設資材を運ぶために蒸気機関車を動かしていたテルだ。

 学園での実習でも使用しており、扱いには慣れていた。


「連結する。準備してくれ」


 すぐさまテルは運転席に乗り込んだ。

 他の事など考えていなかった。兎に角この蒸気機関車を運転する。だから準備しろと言った。

 準備を進めている間にも、進行方向を見る。

 雲が白からグレーに変わっている。

 天候が急速に悪化して雨が降りそうだ。

 いや、目的地の標高が高いこと、山深いことを考えたら既に雨は降っていると考えた方が良い。

 出発の準備を急がなければ。


「砂撒き装置の砂と動作はどうだ」


 滑り止めにレールに砂を蒔く装置が機関車には搭載されている。

 雨が降りスリップすることが予想される状況では絶対に必要であり、動いてくれないと困る。


「準備できました! 動作異常なし!」

「よし投炭するぞ」


 テルは自動給炭装置を作動させ火室に石炭をくべていく。

 火力が上がり、蒸気圧が上昇する。


「よし、後進用意」


 テルはハンドルを中立から後進に切り替え、マスコンに手を掛ける。


「出発進行」


 ピストンに蒸気が入り動輪を回し、機関車は徐々に後進を始めた。

 列車に近づき、マスコンを戻し、惰性で機関車を走らせつつ止まる準備のためにブレーキに手を掛ける。

 ディーゼルと同じように段階的にブレーキを掛けながら連結器を接続させる。

 繋がった衝撃が来るとテルはブレーキを作動させ、完全に停止させた。


「接続急げ! 早くしないと間に合わない」


 珍しくテルはせかす。

 それだけ、自体は切迫していた。


「接続完了! 準備できました!」

「よし、出発するぞ」

「待ってください!」


 ハンドルを前進位置へ回し出発しようとした時、駅員が飛び込んできた。


「この先が大雨によって崖崩れが発生! レールが埋まり通行不能です」

「なんてこった」


 レールが埋まってしまったら走らせることが出来ない。

 万事休すだった。


「幸い保線区の近くです。雨も小康状態に予報です。通過までに復旧させるので来て欲しいとの事です」

「おい、大丈夫なのかよ」


 事故が起きてすぐに作業に入り、しかも到着までに復旧させるとか、異常だった。


「分かりました」


 だがテルはすんなりと受け入れた。


「おい、テル、。大丈夫なのか?」


 だが付いてきたオスカーが尋ねる。


「鉄道員が大丈夫だというなら、大丈夫なんだ」

「燃料の切り替えに失敗していたが」

「走行する場所が違っただけだ。地元の鉄道員は地元を知っているから大丈夫だ」

「本当かよ」

「鉄道員を信じろ、安全が第一だからな。彼らの判断は信用できる。出発する」

「ひいい」


 テルが行くというのなら御付武官であるオスカー付いていかないわけには行かない。

 テルの判断と腕に自分の命を賭けるしかない。


「自機良し! 出発進行!」


 五室ベル独特の太い<ボーッ>という汽笛を鳴らし、ブレーキを解除、加減弁を引いた。

 軽く空転し激しいブラストが起きる。だが、テルはすぐにマスコンを戻して力を緩め、動輪をレールに噛ませる。

 列車は徐々に走り出し、駅構内を進み、本線へ進入。

 目的地へ向けて加速していく。

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